上間常正 @モード

ドレスコードって? その意味を問いかけるユニークな展示

新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言のため休止や延期になっていた展覧会やイベントが、次々と動き出している。ファッションに関係した展覧会もいくつかあって、どれもなかなか見応えのある内容で楽しませてくれる。宣言解除の後も続く自粛ムードの中、ファッションには人を思考に誘いつつ、心を明るく鼓舞する力があると改めて実感させられる。東京・西新宿の東京オペラシティ・アートギャラリーで開かれている「ドレス・コード?――着る人たちのゲーム」展は、ファッション展としてはユニークな企画だが、ファッションのそうした力を感じさせる意欲的な内容だ。

この展覧会は去年夏から秋にかけて京都国立近代美術館で、続いて熊本市現代美術館で12月から今年2月にかけて開かれた。東京では4月から開催される予定だったが緊急事態宣言で開催が危ぶまれ、たまたま会場に次の予定が迫っていなかったため開催できたという。東京展では、独自の企画や展示作の追加もある。

13の問いかけ

展示では、京都服飾文化研究財団(KCI)が収蔵する衣装作品を中心に、映画やマンガなどに描かれた衣装や、写真、インスタレーションなど約300点を超える作品が並ぶ。その展示がユニークなのは、展覧会の表題に「ドレス・コード?」と疑問符が付けてあるように、13の問いかけで構成されていることだ。現代社会では色々な制服、学校の校則などを除けば、服装についての明文化されたコード(規則)はない。しかし実はさまざまな形の暗黙のコードが網の目のように張り巡らされていて、決して自由には選べない。

13の問いかけは、その意味を色々な角度から着る人である観客に考えてみることを勧めている。そしてそれは規則との戯れに似たゲームとしての楽しさも感じさせる、という趣向だろう。

入ってすぐの最初の問いは、[裸で外を歩いてはいけない?]。うずたかく積まれた古着の山の前で女神ヴィーナスがたたずんでいる作品が1点だけ展示され、誰もが当たり前のように受け入れているコードの意味への問いを誘う。

ドレスコードって? その意味を問いかけるユニークな展示

「ぼろぎれのヴィーナス」 ミケランジェロ・ピストレット 1967年(豊田市美術館蔵)

私たちは毎日服を着なければいけないし、服を選ぶ自由もあるのに、大量に生産される服が現代においてたくさんあり過ぎることが、実はその義務や権利の行使の大きな障害になっているのは、なぜなのか? 選ばなかった服はどこへいくのだろうか?

次の[高貴なふるまいをしなければならない?]では、18世紀フランスの王妃マリー・アントワネットとパリで世襲の死刑執行人役を務めたサンソン家に生まれた架空の女性マリー=ジョセフ・サンソンの対比を描いた、坂本眞一のマンガ『イノサン』『イノサン・イノサン Rouge』が、フランスの当時の服と並ぶ。きらびやかな衣服は権力の象徴で、トランスジェンダーの麗人としてそれと闘うマリー=ジョセフ。二人の対比を通して、現代でも色濃く残る権力による差別やハラスメントの問題などを想起させる。

ドレスコードって? その意味を問いかけるユニークな展示

1770年代後半のドレスと1790年頃のスーツ(いずれも京都服飾文化研究財団蔵) 壁に展示されているのは、坂本眞一『イノサン』『イノサンRouge』より、マリー・アントワネットとマリー=ジョセフ・サンソン描きおろし(協力:集英社)

[組織のルールを守らなければならない?]では、働く男性の象徴であり続けているスーツが、後の[服は意志をもってえらばなければならない?]で展示される華麗なシャネル・スーツのコレクションも含めて、男女を超えたさまざまな差異が込められた反復を繰り返してきたことが分かる。にもかかわらず、なぜスーツは今でも働く男性の象徴なのか?

ドレスコードって? その意味を問いかけるユニークな展示

男性スーツの数々 一番手前はヴィクター&ロルフ 2003年秋冬作品(いずれも京都服飾文化研究財団)

ドレスコードって? その意味を問いかけるユニークな展示

ガブリエル・シャネルがデザインしたスーツの数々(いずれも京都服飾文化研究財団)

同じことは、[働かざる者、着るべからず?]で登場するデニムや、[生き残りをかけて闘わなければいけない?]の軍服としてのトレンチコートや迷彩柄の華麗な展開の展示からもうかがえる。

また[教養は身につけなければならない?]では、ファッションと絵画やマンガなどとのコラボレーションの豊富な実例を示す。それによってファッションは教養ある生活スタイルの象徴という記号的な意味を帯びた反面で、新たな表現の幅を広げたことが分かる。

ドレスコードって? その意味を問いかけるユニークな展示

左右ともコムデギャルソン2018年春夏ドレス(いずれも京都服飾文化研究財団蔵)

そして[ファッションは終わりのないゲームである?]では、ジョージア出身の異色デザイナー、デムナ・ヴァザリアがデザインするヴェトモンの2017年秋冬コレクションショーのビデオ映像を見せる。「ステレオタイプ」をテーマにしたこのショーは、37人のモデルが職業や身分、年齢などを典型的に示す装いを示すことで、人を無意識のうちに服装で判断し、また判断されることを批評的に表現している。よく観察して表現された正確なステレオタイプは、それを出発点として物事をきちんと考えたり人と対話したりするために欠かせない、ということだろうか。

ドレスコードって? その意味を問いかけるユニークな展示

ヴェトモン / デムナ・ヴァザリア ショー・ヴィデオ 2017年秋冬 (協力:VETEMENTS)

ドレスコードって? その意味を問いかけるユニークな展示

ヴェトモン / デムナ・ヴァザリア ショー・ヴィデオ 2017年秋冬( 協力:VETEMENTS)

キュレーターの卓抜な企画力のおかげで、この展覧会はとにもかくにも楽しめた。あえて注文をつけるとすれば、会場の解説や図録の文章が読みやすいとはいえないこと。我慢して読めば意味は存外に単純で分かりやすいのだが、その意味こそが大事なのでもっと平易な言葉でシンプルに説明してほしかった。出展作によって観る人との対話、観た人同士のゲームとしての対話を引き起こすためには、シンプルで正確な言葉が必要なのだから。

だがそれを補って余りあったのは、KCIのレベルの高い収蔵品を中心とした出展作の実物としての力強さで、この財団の眼識の高さと収集努力に改めて拍手を送りたいと思う。

ドレス・コード? ―着る人たちのゲーム
Dress Code: Are You Playing Fashion?

期間:2020年7月4日(土)~8月30日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
https://www.operacity.jp/ag/exh232/
月曜休館。コロナ対策のため入場は事前予約制。予約はこちらから

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    PROFILE

    上間常正

    ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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