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生活習慣を変えて挑んだ。長澤まさみさんがまとう、“だらしない女”の空気感

最近の作品で、長澤まさみさんに驚かされたと言えば、「キングダム」(2019年)だった。二刀流で敵をバッサバッサとなぎ倒す、美貌(びぼう)と強さを備えた楊端和(ようたんわ)の雄姿にシビれた。だがそれ以上に、意表を突いたのが公開中の映画「MOTHER マザー」だ。

長澤まさみさんが演じた秋子は、男たちと行きずりの関係を持ち、幼い息子を何日も放っておいても気にならないシングルマザー。働く気持ちはみじんもなく、金がなくなれば実家へ行って追い返されたり、子どもに盗みをさせることもいとわなかったり。自分を中心にやりたい放題生きている。

そんな秋子とゆがんだ絆で結ばれていた息子・周平はやがて、ひとつの事件を起こしてしまう……。映画は見る者に、社会の底辺で暮らす母子の行動を通して、現代社会のゆがみを考えさせずにはおかない。

生活習慣を変えて挑んだ。長澤まさみさんがまとう、“だらしない女”の空気感

(c)2020「MOTHER」製作委員会

映画が始まってまもなく、秋子の印象的なシーンがある。息子のすりむいたスネの傷を、母親の秋子がベロンとなめ上げるのだ。

「脚本にはなく、大森(立嗣)監督が現場で増やしたシーンです。監督は、秋子の象徴的なシーンにしたかったのだと思います。そのシーンを見るとこの人がどういう人物かが決まるという、監督が好きな見せ方だと思います」

その言葉通り、観客はその“ベロン”に度肝を抜かれて秋子から目が離せなくなる。怠惰でずる賢く、社会の一員である大人として、子どもを育てる親として、どうしようもないサイテーな秋子なのに、だ。

「秋子は天性の人たらしみたいな人なのかなと思うんです。何が魅力なのかわからないけれど、魅力的な人という感じでしょうか。普通に考えたらどこも魅力的ではないと思うのですが」

生活習慣を変えて挑んだ。長澤まさみさんがまとう、“だらしない女”の空気感

(c)2020「MOTHER」製作委員会

小さな積み重ねが大切だと感じる時間

「コンフィデンスマンJP」のダー子役、「KINCHO 虫コナーズ」のコマーシャルで見せるコメディエンヌぶりとはかなり違う役どころだけに、自堕落なキャラクターを演じる面白さもあるのだろうか。

「どうなのでしょうか。(としばらく考え)演じていて面白いかどうかは、私自身ちょっとわからないですね。どの役を演じる時も毎回全力投球で、役に面白さを感じるといった余裕がなくて……。私は秋子のことを全然好きになれないですし、理解することもできません。でも、演じる役は自分にないものを持っている人が多くて、想像の中で人を作り上げるという意味では、楽しいことなのかもしれませんね」

生活習慣を変えて挑んだ。長澤まさみさんがまとう、“だらしない女”の空気感

(c)2020「MOTHER」製作委員会

秋子という人を作り上げるために、撮影前から生活習慣を変えて挑んだ。

「だらっとした生活感が見えるといいなと思っていたので、テレビを見ながらお菓子を食べ、ダラダラとした生活を心がけていました。小さな積み重ねですが、こういうことが大切だなと久しぶりに感じる時間を持ててよかったですね。やはり『役がまとう空気感』は自分が意識していないところでついている気がします。秋子を演じるにあたって、そういう感覚を大切にするようにしていました」

今回の映画で演じた秋子役について、周囲の反応がいつもと違うという。

「一番うれしかったことは、私の作品に興味を示さない友達からも『“MOTHER マザー”を見たい』とメールが届いたこと。それはすごくうれしかったです」

生活習慣を変えて挑んだ。長澤まさみさんがまとう、“だらしない女”の空気感

30代は楽になるし、20代より楽しくなる

インタビュー中の長澤さんは映画の秋子とは当然ながらまるで違って、笑いが絶えず自然体。俳優としての充実ぶりが美しさに直結しているのだろう。着実に年月とともにキャリアを重ねてきた。

「振り返ると、精神的に未熟なのが20代なのかなとすごく思いました。20代は多くの人が初めて社会に出る年代。そこでいろいろ勉強するわけですよね。それを考えると、積み上げてきた結果として、30代は楽だなと思いますし、私は楽しくなる気がします。20代は悩むのが仕事みたいなところがありますが、悩まなかったら成長はないんじゃないかなと」

生活習慣を変えて挑んだ。長澤まさみさんがまとう、“だらしない女”の空気感

そんな長澤さんのキャリアの中で大いに助けになったのが、先輩たちの存在だったと言う。

「ありがたいことに、私の周りにはすてきな大人がたくさんいました。そんな先輩方が私を可愛がってくれたり話を聞いてくれたりしました。本当にいい先輩方に恵まれて今を迎えられています。自分の力で今があるというよりは、周りの影響が濃いと思います。私が先輩方の年齢になった時に、後輩の話を『うんうん』と優しく聞いてあげられるかなと思うと、大人になった今の方がより先輩方の優しさを感じます。すてきだなと思う人と接することは、いい大人になる近道かもしれませんね」

(文・坂口さゆり 写真・山本倫子)

     ◇
 
長澤まさみ
1987年6月3日生まれ。静岡県出身、近年の主な映画出演作に「海街diary」(2015年)、「アイアムアヒーロー」(16年)、「追憶」「散歩する侵略者」(いずれも17年)、「嘘を愛する女」「50回目のファーストキス」「銀魂2 掟は破るためにこそある」(いずれも18年)、「マスカレード・ホテル」「キングダム」「コンフィデンスマンJP ロマンス編」(いずれも19年)、「コンフィデンスマンJP プリンセス編」(20年7月23日公開予定)、「シン・ウルトラマン」(21年公開予定)など。

生活習慣を変えて挑んだ。長澤まさみさんがまとう、“だらしない女”の空気感
MOTHER マザー
17歳の少年が犯した祖父母殺人事件。少年が罪を犯してまで守りたかったものとはなんだったのか。実話に着想を得て母と子のあり方を問う。ラストの長澤さんの表情がまた忘れられない強烈な印象を残す。
監督:大森立嗣 脚本:大森立嗣/港岳彦 音楽:岩代太郎
出演:長澤まさみ、阿部サダヲ、奥平大兼、夏帆 皆川猿時、仲野太賀、木野花 ほか
7月3日から全国公開中
オフィシャルサイト:https://mother2020.jp
(c)2020「MOTHER」製作委員会

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