このパンがすごい!

ソーセージ、あんこまで自家製。和も洋も、型やぶりの“表裏一体”/O to U

昨年11月、パンの激戦区である横浜・元町に、またひとつ新店が現れた。どこにもないような、新しいパンを引っさげて。

「O to U」(オートウー)とは、表と裏のこと。つまり、ひとつのパンの中に、正反対のものが組み合わせられる。

洋と和。パンという西洋の中に、和の具材が混ぜ込まれ、新たなミクスチャーが誕生する。フランス産小麦とうぐいす豆がマリアージュする「うぐいすとゆず」。バゲット生地とは思えないくにゃっとした食感からちゅーんと溶ける。わらびもち的な食感にうぐいす豆のあんこ的フレーバーが追加されることで、新感覚まったり感が生まれる。それをかき乱す、ゆずの酸味きりり。調和から破調へ転じ、癒やしを求めてもう一口を欲するという、食欲の永久ループにはまりこむ。

ソーセージ、あんこまで自家製。和も洋も、型やぶりの“表裏一体”/O to U

うぐいすとゆず断面

もちもち食感が、この店の基調。前述のバゲット生地はじめ、ほとんどの生地に湯種を入れることで、もちもちさせるとともに、小麦の甘さを引きだす。

マンゴークリームぱんは、エッグタルト型デニッシュ。クロワッサン生地を薄く焼いた「お皿」に、ありえないほどとろとろなクリームを後のせ、かりかりととろとろという表と裏を演出する。カスタードにマンゴーが合わさってのマンゴープリン的な甘さ。そこにレモンの酸味をきーんと走らせることで、甘さと酸味が表と裏になり、夏向きの涼やかなデザートに仕上がる。

ソーセージ、あんこまで自家製。和も洋も、型やぶりの“表裏一体”/O to U

マンゴークリームぱん

ひょっとして、まさか、この人が。レジに立って朴訥(ぼくとつ)とした接客を繰り広げる人物こそ、薄井雅治シェフだった。普通は、パンを作る人と売る人は別。両方やるにはあまりに重労働。ところが、パンを作って自分で売って、と店の表と裏を一人二役で演じる。

「なんでも自分でやりたくて」

おいしさを追求するため、さまざまなものを店内製造している。デニッシュのフルーツもスーパーにおもむき自分で選んで、仕入れたものをひとつひとつ手でむく。ソーセージも自家製だと聞いて驚いた。

「おいしいパン屋は星の数ほどある。パンが作れるだけじゃやっていけない時代です。他でやってないものを、と思って、ソーセージの勉強をしました。やってみたら、なんで他でやってないか、謎が解けた。大変すぎるから(笑)」

ソーセージ、あんこまで自家製。和も洋も、型やぶりの“表裏一体”/O to U

ソーセージぱん

「ソーセージぱん」は、最近流行(はや)りの、どでかウィンナーとバゲット生地のドッグ。ソーセージはぷりぷりっと、力強く頼もしく前歯を押し返しながらちぎれていく。これが本物の肉の味だ。濃厚さでいえば、市販のソーセージのほうがもっとあるだろう。でも、ピュアさでは、このソーセージにかなわない。肉の味わいを、しっかりとした小麦の風味で押し返すとき、めくるめく興奮が生まれるのだ。

自家製といって忘れてはならない、大量のつぶあんをはさんだ「あんぱん」。がばーっと、ブリオッシュが大口を開けて、あんこをくわえ込んでいる。こちらも大口にて応戦せざるを得ない。

ソーセージ、あんこまで自家製。和も洋も、型やぶりの“表裏一体”/O to U

あんぱん

豆の香りが超濃厚な自家製あんこの攻撃性を、もっちりふわふわなブリオッシュ生地でやさしく包み込む。バターと卵の香ばしさがワッフル的なブリオッシュがあんこと出会い、鯛(たい)焼きにも通じる和のマリアージュ。普通のあんぱんのように包むのではなく、はさむから、あんこ>パンの贅沢(ぜいたく)バランスとなり、甘さの新境地に達している。

最後にもうひとつもちもちを。「レモンクリームロール」は、ロール状に成形されたクロワッサン生地に、こぼれ落ちそうなほどたっぷりのったレモンカード(レモンクリーム)。あふれるようにミルキーだったり、レモンがきゅーんとしたり。甘さと酸味の表と裏が揺れ動くたびに快感が走り、やがて生地の中から現れるレモンピールがきゅーんをダメ押し。それにしても、これがクロワッサンか? さくさくではなく、ほっぺたのようにもっちんもっちんなのだ。

ソーセージ、あんこまで自家製。和も洋も、型やぶりの“表裏一体”/O to U

レモンクリームロール

「クロワッサン生地の端っこのバターが少ないところを使ってます。だから、クロワッサンと普通の生地の中間のような感じになるのです」

クロワッサンの、いわば裏にあたる、厄介者の二番生地さえ、斬新なパンに変えてしまうとは。表と裏は既成概念を次々とぶち壊し、新たなおいしさを生みだしつづける玉手箱だ。

 
O to U(オートウー)
横浜市中区元町1-54 リブレ元町2F
9:00~17:00(売り切れ次第終了)
月・火曜休
https://www.instagram.com/o_to_u/

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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