川島蓉子 コロナ後の暮らし

「コロナ後の暮らしがどうなるかは、その人次第」 レオス・キャピタルワークス 藤野英人社長

新型コロナウイルスによる自粛生活は、私たちの生活をどう変えたのか。「withコロナ時代」を経て、その先にある暮らしにはどんな価値観が定着していくのだろうか。ifs未来研究所所長でジャーナリストの川島蓉子さんが、各界の気になる人たちに問いかける連続対談。混沌(こんとん)とした世界にあって、私たちが自分らしく、さらにより良く生きるためのヒントとなる対談をお届けします。

第3回のゲストは、「ひふみ投信」の運用で知られるレオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長の藤野英人さん。ファンドマネージャーとして、社会を、世界を分析してきた藤野さんの目には何が映っているのでしょうか。(構成・坂口さゆり)

 

「コロナ後の暮らしがどうなるかは、その人次第」 レオス・キャピタルワークス 藤野英人社長
「コロナ後の暮らしがどうなるかは、その人次第」 レオス・キャピタルワークス 藤野英人社長

「コロナ後の暮らしがどうなるかは、その人次第」 レオス・キャピタルワークス 藤野英人社長

川島蓉子(かわしま・ようこ)

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

 

「コロナ後の暮らしがどうなるかは、その人次第」 レオス・キャピタルワークス 藤野英人社長

藤野英人(ふじの・ひでと)

レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役会長兼社長、最高投資責任者(CIO)。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークスを創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。投資啓発活動にも注力する。JPXアカデミーフェロー、明治大学商学部兼任講師。一般社団法人投資信託協会理事。近著に『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』(日本経済新聞出版)、『お金を話そう。』(弘文堂)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)。

 

その人の価値観そのものが、未来を開く

川島蓉子さん(以下、川島) 藤野さんには経済と暮らしがどう変わっていくのか、教えていただければうれしいと思います。早速ですが、世の中は悪くなっていくのでしょうか。

藤野英人さん(以下、藤野) まだら模様ではないかと思います。あとは、その人の性格によって見えるものが変わってくるのではないかと。

川島 人の性格によって見えるものが変わるのですか。

藤野 人は見たいものを見るんですよ。「世の中は差別で満ちあふれている」と思っている人は差別を探して発見するし、「世の中はチャンスで満ちている」と思う人はチャンスを探します。世の中が光に満ちあふれていると思う人は光を探すし、世の中は絶望的であると思う人は絶望を探す。識者でも人によって言うことがまちまちです。どこを見るのかで世の中が変わるということですね。

川島 グサリときます。究極のところ、その人の価値観そのものが未来を開いていく、ということですか。

藤野 そうですね。
その人の性格や考え方だったり人生観だったりが、見える世界を規定することになるのかなと思います。投資の仕事をしていてもそうなんですが、物事を客観的に見ることほど難しいことはありません。人間はもともと主観的にしか物が考えられないようにできている。自分の脳でしか物事を見られないわけですから。僕はいつも言うのですが、人間は主観の“牢獄”の中にいるんですよ。主観という檻(おり)の中にいて、そこを飛び越えることはなかなかできないんです。

川島 なぜ“檻”なんですか。

藤野 檻というとネガティブな言い方かもしれませんね。入れ物と言ったらいいかもしれません。

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藤野英人さん

川島 よく「客観的であれ」と教えられることがありますよね。「物事を客観的に捉えなさい」と。

藤野 それは結局、主観の海にいるからです。自分の考えというのは自分の脳の刺激に過ぎない。世界は世界の人の分、人の脳の分だけ世界がある。同じモノを見たとしても、Aさんが悪い、Bさんが悪いと意見が異なることがあり得る。たとえば企業調査をするアナリストが2人いれば、同じ社長の話を同じ時間聞いているのに、あの社長は素晴らしい、あの社長は最低であると二つの意見が出てきます。事実は一つだけど、評価は二つあるのです。だからこそ、僕はいつも人の脳みそを借りようとしています。

川島 どういうことですか。

藤野 僕自身はほとんどつぶやかないですが、ツイッターで3万人くらいをフォローしているんです。例えば、60、70代の北海道で土木工事をしている男性とか、最近離婚を考えている山梨県の主婦とか。なるべくいろんな人たちのツイートを1日数分眺めています。

川島 属性の異なるあらゆる人たちというわけですね。

藤野 バラエティー豊かな構成の人びとが様々な反応をする。例えば、河井克行前法相&案里夫妻の逮捕を、人はどう見ているのか。3万人のツイッターが日本の国民全員の意見ではありませんが、そこからみんながどう考えるのかをいつも想像するんです。ある一つの事象が、どういう指向性で、どういう方面に広がっていくのか。それを考えることは僕の仕事でもあるので、こうした感覚を鍛えるようにしています。

川島 フォローしている方々に特徴はあるのですか。

藤野 フォロワー数が少ない人をたくさん見ています。少ない人ほど、人の目を考えないで発信しますから。どういうことを、どういうふうに見ているのかを見ながら、自分のズレや、今自分がどの位置にいるのかを見ている。僕にとっては、つぶやきの「幅」がすごく大事なのです。

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ステイホームが露呈させた「自分にとって最も大切なもの」

川島 新型コロナウイルスは、人々にどのような影響を与えたでしょうか。

藤野 生活や仕事、文化などに激しく影響を与えていることは間違いありませんが、インパクトは人によってまるで異なります。例えば、年金受給者のようにステイホームをしていてもお金が定期的に入ってくる人と、ほとんど蓄えがなくて今働かないとお金が枯渇する人では、働ける・働けないということの切実さがまったく違ってくる。年金受給者からすると、社会が回るかということよりも、自分が健康でいることのほうが大事かもしれない。働けないことによるストレスは、ほぼないわけです。専業主婦では、夫や子供が家にいることによってストレスが増したり、逆に幸福度が増したり。ステイホームが、僕らが何を大切にするかを露呈させているんだと思うんです。

川島 家族の大切さに気づいた人たちは多くいました。

藤野 そうですね。たとえば、ステイホーム下ではプライベートジェットやクルーザーを持っていても、維持費だけがかかる。何百億円を持つ超お金持ちでも、家族と向き合わざるを得ない状況になった。家庭がつらい場所だったという人は、僕の友達でも結構います。

逆に、そんなにお金があるわけではないけれど、家族の仲がいいという人にとっては、ステイホームは大好きな人たちといられて幸せ、ということになる。生活基盤で最も重要なのは家族だったと気づいた人は多かったわけです。

また、結婚が増えた一方、離婚の相談も増えた。離婚は悪いことではありません。離婚の事実だけ見ると悲しいことですが、それは次に進む手段。コロナによって仲が悪いという事実に向き合わざるを得なかった。ひとつの解決です。

川島 希望を与えてくださる話です。見たいものを見るというのが人間ではあるけれども、見ようによっては希望が湧く未来が開けるということですね。

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日本でテレワークがなかなか進まない理由

川島 ところで、コロナによってテレワークが増えましたが、また以前に戻りつつある企業も少なくないようです。企業のありようはどう変わっていくと思われますか。

藤野 日本でテレワークがなかなか進まない大きな理由は、ジョブディスクリプリション、つまり、仕事の定義が不明確なことです。そしてIT環境が整っていない。これら二つは致命的な問題です。欧米ではジョブディスクリプションがはっきりしているため、テレワークが進みやすかった。世界的にテレワークが当たり前になってくると、日本は取り残される可能性があります。

川島 テレワークでも社員の評価はきちんと行えるのでしょうか。

藤野 ジョブディスクリプションが明確でないと、評価できません。日本の企業では、あうんの呼吸で頑張っている社員を上司がなんとなく評価をしてきましたが、ジョブディスクリプションを作ることで、そこがだいぶ変わってくると思います。テレワーク導入は、人事のあり方が肝です。そこに手をつけずにテレワークは成り立ちません。

川島 テレワークが中心になると、会社という場はどう変わっていくのですか。

藤野 会社は社員がリラックスしたり、コミュニケーションを取ったりする場になると思います。楽しくて仲間がいてワクワクする場所に、より近付いていく。そして、自宅が真剣に仕事をする場所です。

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この5月から生活拠点が神奈川県逗子市に。テレワーク中心の生活を送っている。2匹の犬の散歩や家庭菜園を楽しむ日々

マッチョ的な思想は、もう受け入れられない

藤野 地域・共同体や、友人・家族とはより密に付き合い、会社はむしろ情報やデータのやり取りで済ませる。5Gという新たな通信網が本格化していきますが、瞬時にデータを送れるようになると、テレワークの有利度は高くなる。これからは、昔からの働き方、マッチョ的思想の人にとっては辛い時代になると思います。そういう思想は、今の若い人たちも嫌いです。若い人たちが社会を作っていくわけですから、彼らの支持を受けないものは、いずれなくなると思います。

川島 最後に読者に向けて、コロナによって株式が乱高下する時代に私たちはどのような投資をすればよいのか。ぜひお伺いしたいと思います。

藤野 皆さんにはまず、長期積立分散をお勧めしたいです。金融庁も言っていますが、投資は根本的には「長期・積立・分散」という一つの原則があります。少しずつ継続することが大事です。そうすることで、コロナであろうとなんであろうと関係なく、相場の流れに大きく影響されることがありません。長期と言っても1年2年ではなく、5年、10年、15年という時間で投資をし続ける。商品を分散する。その原則で投資をし続けることが大切だと思います。

次回、川島蓉子さんがゲストに迎えるのは、デザイナーの皆川明さんです。どうぞお楽しみに!

コロナ後、服の買い方はどう変わる? 「WWD JAPAN.com」村上要編集長

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