パリの外国ごはん

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

連載「パリの外国ごはん」では三つのシリーズを順番に、2週に1回配信しています。
この《パリの外国ごはん》は、暮らしながらパリを旅する外国料理レストラン探訪記。フードライター・川村明子さんの文と写真、料理家・室田万央里さんのイラストでお届けします。
次回《パリの外国ごはん そのあとで。》は、室田さんが店の一皿から受けたインスピレーションをもとに、オリジナル料理を考案。レシピをご紹介します。
川村さんが、心に残るレストランを再訪する《パリの外国ごはん ふたたび。》もあわせてお楽しみください。

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

4カ月ぶりで、万央里ちゃんと“パリの外国ごはん”をめぐるルーティンを再開することになった。写真を見返すと、この連載のために最後に“外国ごはん”にそろって出かけたのは、3月10日だ。あの時は、外出がままならなくなりそうな兆しが何とは無しにあったとはいえ、その後、4カ月もの空白が訪れることになろうとは想像だにしていなかった。

過ぎ去った4カ月はあっという間だったが、家で作るのとはやはり違う、店で食べる外国ごはんの味を欲していた。そして、少し旅したような気分にもなる“外国ごはん探訪”もまた、恋しくなっていた。それで、私たちは、お店を選ぶ段から、心なしかウキウキしていた。

まず日程を決めて、約束の日の3日前に、気になっていた店2軒の情報を彼女に送った。すると画面の私が送ったばかりのメッセージの真上には、半年以上前に、万央里ちゃんが送ってくれていたベトナム料理店のリンクが、あった。開いてみる。牛肉のフォーや、汁なし和(あ)え麺、透明感のあるタピオカ粉でも入っていそうな断面の丸い太麺をスープから引き上げている写真の中に、大きな寸胴鍋が並んだ動画が出てきた。かなりの迫力だ。あ~これは行ってみたい。

すぐにそう伝えると、「ベトナム行こうか!」と返事が来た。さっそく営業時間を検索すると、9時半から開いているらしい。そして、17時閉店。私は、昼間のみ営業の店に信頼を寄せる。朝ごはんにも行きたい気がしたが、今回は2人のスケジュールで昼時に出かけることになった。

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

12時に現地で待ち合わせると、最寄り駅Maison Blanche(メゾン・ブランシュ)のホームで万央里ちゃんに会った。ここは、以前この連載で出かけた魅惑のベトナム料理店Le Zenの最寄り駅でもある。「ゼンにもまた行きたいねぇ」と話しながら、13区の中華街(パリにはもう一つ、19区と20区にまたがって中華街がある)の外れを2人で歩いていくと、今パリの随所で見られる、臨時テラス席を設けている店がちらほら見受けられた。

そして、目当ての店Ngoc Xuyen Saigon(ゴック・シュェン・サイゴン)は、路上駐車スペースを利用して盛大にテラス席を構えていた。囲いをし、屋根付きだ。店内のテーブルを全て表に出しているのかと思い、のぞくと、店内は店内で機能しているようだ。店主らしき男性にテラス席に促され、車通りの多そうな通りでもなかったから、私たちはそのまま示されたテーブルに着いた。

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

万央里ちゃんはすでに、メニューをサイトで見て研究してきたらしい。それで、もう食べたいものは決まっている、という。聞いてみると、「スープ・サイゴネーズ・セック」と名付けられた汁なしの和え麺で、メニューの写真を見たらスープが添えてある。

私も気になって「このスープは、麺にかけて食べるのかなぁ。それとも、単体で楽しむのかなぁ」と言うと、「ねぇどうだろうねぇ。ともかくセック(=水気のない)って書かれているのが気になるのよ」と彼女は答えた。そして「各曜日限定で食べられるものとか、ほかにもいろいろ気になるのだけれど」と続けたので、「じゃあ2番目に食べたいと思ったのどれ?」と聞いたら、すぐさま「これ。火曜限定なの。今日しか食べられない」と、メニューを指さした。

鶏肉と筍(たけのこ)のスープ。いわゆる鶏のフォーではなくて、筍の入ったスープ。確かに、気になる。「そしたら、私、それにするよ」。メインは決まった。

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

メニューの裏面をみると、前菜や飲み物が書かれていた。注文を取りに来た店主とおぼしき男性に、生春巻きは一皿に何本盛られているのか尋ねると、2本、と言われた。それで、ソーセージ入りという“森の生春巻き”なるものと、ネム(揚げ春巻き)を頼むことにした。万央里ちゃんは、サトウキビジュースも試すことにしたようだ。

注文を終えてから手を洗いに行き、そのついでに店内、特に入ってすぐ右手にある厨房(ちゅうぼう)に目を走らせた。じっくり見たかったけれど、次から次へと麺が出ていくので、突っ立ってもいられない。ささっと写真を撮らせてもらい退散したが、寸胴鍋の中身を、できることならのぞき込みたかった。

ネムも2本かと思ったら、4本盛られて出てきた。でも一つひとつが小ぶりで、ミントの葉もたっぷり添えられているし、さっぱりと難なく食べられそうだ。それぞれの形が少しずつゆがんでいて、手作りを感じられる包み方は好感度大である。

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

それに、こんなに鮮やかな揚げ色は珍しい。何かちょっと衣にはたいているのだろうか。色だけでなく実際に食べてみても、とても香ばしくておいしかった。ギュギュッと詰まった身がまた食べやすく、スナック感覚で口に放り込んでいたのか、気づいたら2本食べ終えてしまっていた。

森の生春巻きは、透き通った皮の内側にスライスしたソーセージが見て取れた。アキアミ(塩辛に使われるような体長1~1.5cmほどのエビ)のようなものもいる。先に口にした万央里ちゃんが「大根もニンジンも、生じゃなくて、火が通ってるみたい」と言った。私もひと口かじると、本当だ、大根は半透明で、ニンジンも生の食感ではない。八角か丁子かシナモンかわからないが、そういったスパイスの香りをまとった少し甘みのある身の締まったソーセージに、アキアミらしきものの塩気が効いていた。

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

こんな生春巻きは初めてだ。でもなぜか、口の中での味わいは、実家の混ぜごはんの味にとても似ていた。添えられたタレは、甘みそを水で溶いたのかと思ったが、万央里ちゃんはこのタレを以前作ったことがあって、少なくとも甘みそを薄めただけのものではないらしい。彼女が頼んだサトウキビジュースは、甘さをすっきりとさせたパイナップルジュースみたいな味で、口の中をさっぱりさせた。

続いて出てきた麺類もまた、初体験となる見た目だった。私のスープには、細い米麺が入っていた。透明感あるスープが厨房の大きな鍋を思い出させ食欲をそそる。まずはスープをひと口。甘い。結構な砂糖の量だなぁきっと、と思いながらライムをギュッと絞り、赤唐辛子を少し散らして、フライドオニオンとノコギリコリアンダーを麺に絡めて食べると、後を引くおいしさだった。

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

筍は、缶詰かもしれないが、そういった臭みを感じない。ちゃんと手を加えているのだろう。付いてきた、生姜(しょうが)のたくさん加えられた甘酢を少しスープに加えてみたが、私は、加えない方が好きだった。でも、鶏肉をちょんちょんとつけて食べるのは、少し変化が生まれて、よかった。

スープ麺をほぼ食べ終えてから、万央里ちゃんの汁なし麺を味見させてもらったら、沙茶醬(サーチャージャン)がベースと思われる味付けで好みのタイプだった。添えられたスープは、麺にはかけず、スープとして合間に食べると口の中がリセットされて、良い塩梅(あんばい)だったそうだ。

今回は、定番のフォーを食べなかった。生春巻きも、他に試したい具があった。次回は、遅めの朝ごはんに、あの寸胴鍋でとったスープを注ぐフォーを目当てに訪れたい。

ベトナム料理、でも実家の混ぜごはん味? 未知なる「森の生春巻き」/Ngoc Xuyen Saigon

Ngoc Xuyen Saigon

  • 軽やかだけど旨味しっかり。野菜たっぷり汁なし混ぜ麺

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    《パリの外国ごはん そのあとで。》 

  • 4 Rue Caillaux, 75013 Paris
         

    川村さんからのお知らせ

    Podcastを始めました。タイトルは「今日のおいしい」。
    日常の中で見つけた、暮らしに寄り添う「おいしい」話をしています。
    10〜15分ほどです。アプリがなくても、下記のURLからページを開き、
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    PROFILE

    • 川村明子

      東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食を軸に活動を開始。パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けたほか、著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)。
      現在は、雑誌での連載をはじめnoteやPodcast「今日のおいしい」でも、パリから食や暮らしにまつわるストーリーを発信している。

    • 室田万央里

      無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
      野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。

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