このパンがすごい!

ぷりぷり、とろーり「全粒粉のハードトースト」。秘密は意外な発酵種に/ブーランジュリー ラニス

小麦には個性がある。ミルキーだったり、しょうゆのようだったり、香ばしさが飛び抜けていたり。小麦をただパンにするだけでなく、さまざまな発酵種と組み合わせ、個性を生かしきることが、ネクストステージだ。2019年12月29日、下北沢にオープンしたブーランジュリー ラニスは、いきなりシーンの最先端に躍りでた。

それを証明するのが「全粒粉のハードトースト」。国宝級の小麦「キタノカオリ」使用。水分を多く加えたパンに特有のぷりぷり、とろーり。歯と歯の間でチューインガムのように沈み、じゅわーととろけて甘い滴は流れ落ち、旨(うま)みのせせらぎとなって、喉(のど)を楽園に変える。

原昇吾シェフの言葉に耳を疑った。全粒粉のハードトーストには、砂糖も油脂もイーストも入れないというのだ。それでいて、耳は焦がしバターのように甘く、イーストでなければありえないほどボリュームが出て、酸味もほとんどない。一体どんな手を使った? 意外な発酵種に秘密があった。

ぷりぷり、とろーり「全粒粉のハードトースト」。秘密は意外な発酵種に/ブーランジュリー ラニス

全粒粉のハードトースト

「酒種(麹〈こうじ〉)はめちゃくちゃパンがふくらみます。さらに特典があって、麹がでんぷんを分解して甘くしてくれるし、たんぱくも分解するので(硬さがなくなって)、もっちりになります」

発酵種というと、酸味やコクが出るイメージだが、酒種はあんぱんに使われるように、日本酒やみそのような甘い香りがある。

「なぜ国産小麦を使うか? 『日本人だよな、俺。国産小麦でパンを焼くのってすばらしいな』って思って。国産小麦でパンを焼くのすばらしいな。国産小麦にはほんわかしたやさしい甘みがありますから、それに寄り添うような種で発酵させたい」

「バターロール」を食べると、なつかしさとパンの最先端の交差点だった。しっかりと焼いた皮は、バターロールらしいバターの香ばしさをたたえつつ、しかもとんでもなくやわらかくふにゃりと沈んでは、ミルキーにとろける。

ぷりぷり、とろーり「全粒粉のハードトースト」。秘密は意外な発酵種に/ブーランジュリー ラニス

バターロール

このパンでは、大量のルヴァン種を使用する。バターの甘さ、石臼挽(ひ)きキタノカオリの甘さに対して、ルヴァンの酸味で引き算をして、甘さと酸味が均衡する快楽を作りだす。「パネトーネ(ヨーグルトのような酸味に特徴のある菓子パン)のイメージ。形が保てないぐらい、ものすごくやわらかい生地です」

なぜ、原シェフは発酵種を自家培養することにこだわるのか。「菌が生み出す味にわくわくする。最終地点が予測できませんから。作ってみて、『この菌、そうきたか』って思う」

細身で黒光りする「バゲット」はまるでライフル銃。皮目のがつんとくる香ばしさの一撃は、弾が発射されたあとたなびく火薬の香りを思わせる。食べてみると、キャラメル的な甘さの中に、スパイスの香りも、ハーブの香りも感じる。ぷるっとした中身では、甘味、わずかな酸味、米のような旨みが交錯する。

ぷりぷり、とろーり「全粒粉のハードトースト」。秘密は意外な発酵種に/ブーランジュリー ラニス

バゲット

十勝産小麦に、長野県産「ユメセイキ」、フランス産小麦など風味豊かな小麦を重ねたこのパンには、ルヴァン種に加えて酒種を配合、甘さを引きだしている。

原さんはパティシエとしてフランスに渡ったとき、現地のパティスリーに衝撃を受けた。「お菓子があるのはもちろん、パンがあり、チョコがあり、パテだってありました」。自らもオールジャンルの食の殿堂を作ろうと、菓子だけでなく、料理人、パン職人の経験を積み、最終的にパン屋になったのだ。

「パテサンド」は、そんな原さんでないとできないパンだ。ライ麦を60%配合した「ロッゲンミッシュブロート」(くるみとレーズン入り)にパテをはさむ。ライ麦もパテもとろけにとろける。くるみはレバーのコクに、レーズンはレバーの甘さに、それぞれフォーカスし、マリアージュを繰り広げる。ピクルス、粒マスタードの酸味も相まって、それらのバランスがあまりに絶妙であるがゆえにめくるめくのだ。パテとパンを同一人物が、ハイクオリティーで作らなくては、この一体感は出ない。

ぷりぷり、とろーり「全粒粉のハードトースト」。秘密は意外な発酵種に/ブーランジュリー ラニス

パテサンド

「なにかとなにかを合わせるとさらにおいしくなるようなペアリングを発見するのが好き。パンだけじゃなくて、飲み物や料理と合わせて。お客さんが自由に使えるペアリングの場を作りたかった」

壁際の長いベンチは、コーヒーやワインといっしょにパンを食べられるカフェスペースだったが、コロナのためイートインは休止中。お楽しみは先に取っておこう。
 

ブーランジュリー ラニス
東京都世田谷区代沢3-4-8 RAIROA 1F
03-6450-8868
12:00~20:00
木・金曜休
https://www.instagram.com/boulangerie_lanis/

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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