花のない花屋

ゆっくりと、でも確実に出来ることが…… ALSを闘い抜いた叔母へ

全国農業協同組合連合会(全農)では、新型コロナウイルスによる大きな影響を受けた花の生産者を支援する取り組みを行っています。その一環として、連載「花のない花屋」にご協力いただきました。

あなたの「物語」も、世界で一つだけの花束にしませんか? エピソードの応募はこちらから。

鈴木さとみ(仮名) 39歳 女性
神奈川県在住
会社員
    ◇

私は小さな頃から、父の妹である叔母が大好きでした。色白で美しく、凛(りん)とした雰囲気の持ち主。ユーモアがあって料理上手で、とても優しい人でした。

しかし、私が小学生になる頃、叔母は筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病にかかりました。30歳になる目前で、小学生と幼稚園児の子育ての真っただ中。

叔母は、ゆっくりと、確実に、自分で出来ることが少なくなっていきました。足元がおぼつかなくなり、車椅子から寝たきりの生活に。少しずつ自由を奪われていく様子は、見ているだけでもつらいものでした。

けれども、私たちが訪ねると、叔母はいつも温かな笑顔で迎え入れてくれました。私が出場したソフトボールの大会に車椅子で応援に来てくれたことも。叔母も、中学時代はソフトボール部の選手だったそうです。

私が就職し実家を出てからはなかなか会えなくなりましたが、叔母から手紙をもらったことをきっかけにメールを交わすようになりました。指の力が衰えキーボードを打てなくなっても、顔の筋肉の動きを感知して文字を打つ器具を使って返信してくれました。

精神的に厳しい状況になった私が悩みやつらさを打ち明けると、叔母は優しい励ましの言葉を返してくれました。恋愛の話で盛り上がったことも。長い時間をかけてつづられたメールは言葉のひとつひとつに力が感じられ、私もへこたれてはいられないなと思いました。

しかし、言葉の端々に闘病のつらさがにじむこともありました。常に笑顔で周囲を気遣い、気丈にふるまっていた叔母の本当の気持ちを知り、胸が締め付けられました。メールを読み返すと、「体を大切に」「健康は大事だよ」といった言葉が繰り返し出てきます。以前は言うまでもないことだと受け流していたのですが、私自身も子を持つ親になった今、叔母の言葉の重さや尊さをあらためて実感しています。

常に介助が必要な状況で、先の見えない闘病を続けた叔母。どんな葛藤があったのかは計り知れません。叔母は病床で還暦を迎え、3人の孫を持つおばあちゃんになりました。

そんな叔母に感謝と敬意、そしてこれからの時間が穏やかでありますようにという祈りを込めて、お花を贈りたいと思いました。しかし、その矢先に叔母は帰らぬ人となりました。32年間の闘病生活でした。

叔母は写真を何枚も病室に飾るくらい、空を見るのが好きでした。告別式の日は雨でしたが、帰り道はきれいな青空が広がり、「おばちゃんが天国に行くから晴れたんだ」とみんなが口々に言いました。毎日を精いっぱい生き抜いた叔母の旅立ちを、素敵なお花とともに見送ってあげたいです。

花のない花屋

《花材》デルフィニウム、アガパンサス、ホトトギス、ルドベキア、アジサイ、ノコギリソウ、クレマチス、ブバルディア

花束を作った東さんのコメント

青空の下、咲き誇る野の花に囲まれて散歩をするイメージで作りました。

いいお天気の日に、自然に囲まれて自由に歩き回れる喜びを表すのに、ゴージャスな花は要らないかなと。アガパンサス、ホトトギス、ノコギリソウ、ブバルディア……、下部にはアジサイをギュッと束ねました。今はブルーですが、だんだん緑へ色づいていきます。今回使用したのはみんな野に咲く花々。家に居ても軽やかな気持ちになれるように。

以前にもコメントしましたが、僕にもALSと闘う友人がいます。体が動かなくなっていく病と闘う方への気持ちを、僕は言葉には出来ません。この花たちが語ってくれると信じています。

花のない花屋

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花のない花屋

(構成・深津純子/写真・椎木俊介)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み


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    「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
    こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
    花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
    詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    ゆっくりと、でも確実に出来ることが…… ALSを闘い抜いた叔母へ

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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