花のない花屋

お父さんが空から見てる。「人を助ける仕事」を志した娘の門出

全国農業協同組合連合会(全農)では、新型コロナウイルスによる大きな影響を受けた花の生産者を支援する取り組みを行っています。その一環として、連載「花のない花屋」にご協力いただきました。

あなたの「物語」も、世界で一つだけの花束にしませんか? エピソードの応募はこちらから。

叶谷浩子さん 56歳 女性
栃木県在住
会社員

    ◇

大学を卒業した長女が、この春から薬剤師としての一歩を踏み出しました。ここまでの道は、決して平坦(へいたん)なものではありませんでした。

小学5年生だった長女が臨海学校に行く日の朝、夫が心筋梗塞(こうそく)で急逝しました。寝床で長女や次女とおしゃべりしていたところ急に苦しみだし、数時間後には帰らぬ人に。まだ40歳でした。応急手当のやり方を知っていたら……と何度も悔やみました。

長女は気丈に振る舞い、葬儀に来てくれた近所の方にもきちんとお礼をしていました。火葬場に向かう霊柩車(れいきゅうしゃ)が夫の勤め先に寄った時、たくさんの出迎えの人を見て「パパは友達が多かったんだね」とつぶやいた長女の言葉がわすれられません。

忌引明けの運動会では、事情を知っているのに「お父さん来てるの?」と意地悪を言う友達に、長女は「来てるよ、空から見てる」と言い返したそうです。その後も何かあるたびに、「つらいことがあると空を見る」と言っていました。

つらいことは続きます。夫が亡くなった2年後には、9歳だった次女が川崎病で入院。私は次女の介護につきっきりとなりました。さらに2年後には私の胃がんが発覚。幸い早期でしたが、娘たちはどんなに心細かったか。

そんな時でも長女は、次女の面倒を一生懸命見てくれました。だから私も負けていられないと奮起することが出来ました。あの日々を乗り越えられたのは、間違いなく長女の支えがあったおかげです。

家族に限らず、いつも気負いなく人を助ける子でした。大きな荷物を抱えたお年寄りを見れば手を貸し、いじめや仲間外れも大嫌い。日頃の行動が評価されて小学校の善行賞に選ばれた時、私が記念の楯(たて)を飾ろうとすると「自慢みたいだからやめて」。私はつい自慢してしまうタイプなのですが、長女は、謙虚で多くを語らない夫によく似たのだなと思いました。

そんな長女が「人を助ける仕事」を志したのは自然なことのように思えました。小学校の終わりには薬剤師を目指すと決めていました。

今年の4月から、希望通り調剤薬局の薬剤師として働き始めました。「これからは私も稼いで家を支えるから」と笑った長女の顔はとてもまぶしかった。きっと患者さんの気持ちがわかる優しい薬剤師になれるはず。不安なことも多かったのに、まっすぐ立派に成長した姿を天国の夫もきっと誇らしく思ってくれているでしょう。

仕事が忙しくても「今日はやりがいがある日だった」と明るく報告してくれるけれど、どうか体だけは気を付けて欲しい。いつも助けてくれた長女の門出を、花束でお祝いしたいです。長女も夫も好きなヒマワリのような、ビタミンカラーを使った花束だとうれしいです。

花のない花屋

《花材》ヒマワリ(テディベア、東北八重、パナッシェ、姫ヒマワリ)、フロックス

花束を作った東さんのコメント

4種類のヒマワリを使い、明るいヒマワリ畑をイメージしました。普通のヒマワリ畑はおそらく同じ種類のものが咲いているのだと思いますので、これは少しめずらしいヒマワリ畑かもしれません。

真ん中が黒くなっている、いかにもヒマワリなのがパナッシェという種類。他にも芯まで全部オレンジなのが東北八重、丸っこくてコロンとしているのがテディベア、小さなものが姫ヒマワリといいます。

娘さんが薬剤師になるまで、色んなことがありましたね。
明るく優しく育った娘さんの姿が、好きだったというヒマワリの花を通してお父様にも伝わりますように。

花のない花屋

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花のない花屋

(構成・深津純子/写真・椎木俊介)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み


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    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    お父さんが空から見てる。「人を助ける仕事」を志した娘の門出

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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