パリの外国ごはん ふたたび。

スパイスの香りと自然の甘み。酷暑の夏、体が欲しがるアフリカ料理/BMK Folie-Bamako

連載「パリの外国ごはん」では三つのシリーズを順番に、2週に1回配信しています。
《パリの外国ごはん》は、フードライター・川村明子さんと料理家・室田万央里さんが、暮らしながらパリを旅する外国料理レストラン探訪記。
《パリの外国ごはん そのあとで。》では、室田さんが店の一皿から受けたインスピレーションをもとに、オリジナル料理を考案。レシピをご紹介します。
この《パリの外国ごはん ふたたび。》は川村さんによる、心に残るレストランの再訪記です。

この8月前半は暑かった。室外機を外壁に取り付けてはいけないパリの住居は、クーラーがないのがスタンダードだ。そして日の出・日の入り時刻が日本よりも2時間ほど遅いフランスでは、夕方の4時から5時が最も暑い。先日、38度が続いた。日が暮れてからも30度を超える数日は、ひんやりしたものを食べるくらいじゃ束(つか)の間は楽になっても体が持たなくて、グラウンドで部活動に励む学生のごとく、力のつく何かを欲した。

ありがたいことに、この「外国ごはん」の連載を始めてから、そんな時のレパートリーが広がった。暑さが激しくなってから無性に食べたくなったのは、アフリカ料理だ。ちょっとピリッとした揚げ物に、フルーツや野菜のほんのりした甘みがうれしいごはんもの。8月の、ひと気が少ないバカンス期真っただ中でも営業している、ベ・エム・カ パリ・バマコ(BMK Paris-Bamako)へランチに行くことにした。

スパイスの香りと自然の甘み。酷暑の夏、体が欲しがるアフリカ料理/BMK Folie-Bamako

調べてみると、いつの間にか2軒目をオープンしていた。以前紹介した店舗では、今、テイクアウトのみの展開で、イートインはこの新しい店の方でできることがわかった。店名も少しだけアレンジして、フォリー・メリクール地区に位置することから、ベ・エム・カ フォリー・バマコ(BMK Folie-Bamako)というらしい。昼・夜とも、営業開始の時刻ならば予約可能だった。テラス席は人気だ。それで、前日に予約をし、楽しみに出かけた。

着いてみたら、「うわぁ~」と声をあげてしまうほど、店構えは開放的で、通りを隔てた木陰にテーブルを並べたテラス席は、まさに夏の午後がぴったりな雰囲気だ。パリは8月10日から、屋外でも、人口密度の高い場所や通りではマスク着用が義務付けられた(罰金は135ユーロ〈約1万7千円〉)。BMK Folie-Bamakoのあるジャン=ピエール・タンボー通りは、その該当場所としてリストに挙げられている。扉を開け放した店は、その堅苦しさを忘れさせた。

スパイスの香りと自然の甘み。酷暑の夏、体が欲しがるアフリカ料理/BMK Folie-Bamako

思わず、テラスの席に着く前に、店の中を見てみたくなった。赤土を思わせる色の壁と、アフリカの布に包まれたクッションに、一気に気持ちがリゾート地へとワープした。こんなしつらえの店内で食事をすることにも惹(ひ)かれたが、やはり外の方が風通しはいい。店内には誰も客がおらず、店のスタッフも「よかったら店内でも」と言ってくれたが、この日はテラス席に決めた。

スパイスの香りと自然の甘み。酷暑の夏、体が欲しがるアフリカ料理/BMK Folie-Bamako

メニューは、最近増えている、QRコードを読み込み、各自スマホで開くタイプのものだった。リクエストすれば、紙のメニューもくれる。さっそく目を通すと、1店舗目とは少しラインナップが違うようだ。この店のオーナー兄弟はマリ出身(Bamakoはマリの首都)で、マリは海に面していない。それでか前回は魚料理がなかった。ところが、この2店舗目には、コラン(タラ科の魚)のフライがあるようだ。料理の説明に、“コートジボワールの”と書かれているから、厨房(ちゅうぼう)にコートジボワール出身の料理人が加わったのかもしれない。

メインの付け合わせは、お米かキャッサバのスムール(クスクスのような粒)で、全ての料理がグルテンフリーと記されている。そうか、これからは、小麦粉をちょっと取りすぎていると感じたら、アフリカ料理で調整するっていう手もあるのだな、と思った。

迷いに迷った末、キャッサバのフリットに、魚の包み揚げをまずつまんで、メインには、伝統的料理のマフェと、バマコ・フライドチキン(BFC)と名付けられたストリートフードのひと皿を取ることにした。それに、マリのハイビスカスを煎じて作る冷たいドリンクに、セネガルのモランガという木をベースにしたレモネードも。どちらも自家製だ。

スパイスの香りと自然の甘み。酷暑の夏、体が欲しがるアフリカ料理/BMK Folie-Bamako

水のボトルが水色で、花瓶を包んだ布がオレンジを基調としたもので、そこにドリンクが出てきたら、途端にテーブルの上がカラフルになった。よく冷えたレモネードをさっそく飲んでみる。ぷわ~んと植物の香りが口中に広がって鼻まで抜けた。あ~旅に出たみたいだ。

昔、初めてコルシカ島を訪れた時に、空港から車に乗り、目的地までの途中、山道で一度止めてもらってドアを開けたら、空気が華やかな花の香りで驚いた。そのことを思い出した。ハイビスカスの方を味見したら容赦ない花の香りで、その強さに、漢方のような効能もありそうな気さえした。

ほどなくして前菜が運ばれてきた。キャッサバの素揚げは、上に、黒い何かがふりかけてある。胡椒(こしょう)ではない。聞いてみたら、“ペペ”というアフリカのナツメグだそうだ。揚げたキャッサバは、いかにも根菜らしい繊維質で、ジャガイモよりも軽やかだった。ハーブ入りの自家製マヨネーズをつけると、素朴な味わいゆえに、無意識に手を伸ばして食べ続けていた。

スパイスの香りと自然の甘み。酷暑の夏、体が欲しがるアフリカ料理/BMK Folie-Bamako

2度揚げしているという魚の包み揚げは、半分に割ってみたら、オレンジ色の田麩(でんぶ)のようなものが現れた。食べると、粗くほぐした身で作る魚のつみれのような舌触り。味付けしたスパイスの中にショウガが入っているのだろうか。タマリンドと甘唐辛子入りトマトベースのソースをつけてもおいしかったけれど、ソースなしが私は好きだった。

スパイスの香りと自然の甘み。酷暑の夏、体が欲しがるアフリカ料理/BMK Folie-Bamako

スパイスの香りと自然の甘み。酷暑の夏、体が欲しがるアフリカ料理/BMK Folie-Bamako

あっという間にメインもやってきて、いよいよ食卓はにぎやかだ。マフェは、ピーナツペーストで作る煮込み料理。前に食べた時には、野菜としてサツマイモとジャガイモが入っていたけれど、今回はかぼちゃとキャベツだった。それにスモークしたチキン。ひとくち食べて、あれ? ごはんは炊いているのだ!と気がついた。ゆでているのではない。それも、とても上手に炊かれていた。

一緒に行った友人が「そう、セネガル人の友達がいるんだけれど、アフリカの人たち、ごはん、炊くんだよね」と教えてくれた。ふわっとしたごはんに、練りごまソースとおぼしき煮込み料理の組み合わせは、懐かしさを覚える。アフリカの料理は、それが不思議だなぁといつも思う。マフェなんて、見た目はカレーで、食べたら練りごまで、なじみのある味わいだ。

スパイスの香りと自然の甘み。酷暑の夏、体が欲しがるアフリカ料理/BMK Folie-Bamako

私は、フライドチキンがとても楽しみだった。揚げ衣は小麦粉ではなく、バナナの粉とスモークしたパプリカの粉をまぶしていると書かれていた。長時間、ショウガとスパイスでマリネした鶏肉はスパイシーで、そこにパプリカのほのかな苦味が感じられ、おいしかった。でもそれ以上に気に入ったのは、バナナのフライだ。自然の甘みとトロッとした食感は、とても食べ心地が良かった。調味料ではなく、野菜や果物による苦味や辛味、甘みの味付けをもっと体験したいと思った。

本当はデザートも食べたかったのだけれど、もうおなかがはちきれそうで断念した。また近いうちに、そのときはもう少し大人数で、そして店内で食事をしてみたい。

BMK Paris-Bamako(ベ・エム・カ パリ・バマコ)

  • 週3回通いたい、ママのレシピ。アフリカ料理「BMK Paris-Bamako」

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    《パリの外国ごはん》 

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    PROFILE

    川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食を軸に活動を開始。パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けたほか、著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)。
    現在は、雑誌での連載をはじめnoteやPodcast「今日のおいしい」でも、パリから食や暮らしにまつわるストーリーを発信している。

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