川島蓉子 コロナ後の暮らし

コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん

新型コロナウイルスによる自粛生活は、私たちの生活をどう変えたのか? 「withコロナ時代」を経て、その先にある暮らしにはどんな価値観が定着していくのだろうか? ifs未来研究所所長でジャーナリストの川島蓉子さんが、各界の気になる人たちに問いかける連続対談。

第5回のゲストは、エキナカ商業施設「ecute」を成功に導き、地産品のマルシェを併せ持つシードル工房「A-FACTORY」を東北新幹線・新青森開通時に立ち上げるなど、さまざまな地域活性事業を手がけてきた鎌田由美子さん。昨年度、自身の会社「ONE・GLOCAL」を立ち上げた彼女は、コロナの時代をどう読み解くのでしょうか?(構成・坂口さゆり)
コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん
コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん

コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん

川島蓉子(かわしま・ようこ)

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

 

コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん

鎌田 由美子(かまだ・ゆみこ)

ONE・GLOCAL代表取締役・クリエイティブディレクター
茨城県出身。1989年JR東日本入社。2001年エキナカビジネスを手がけ、05年「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長に就任。その後、本社事業創造本部で地域再発見PTを立ち上げ、地産品の販路拡大や農産品の加工に取り組む。15年カルビー上級執行役員。19年、魅力ある素材の発掘や加工を通じ、地域デザインの視点から地元と共創した事業に取り組むべく、ONE・GLOCALをスタート。社外取締役や国、行政、NHKの各種委員、いばらき大使、元気あおもり応援隊、筑西ふるさと大使など地域にも深く関わる。

 

ロックダウンのロンドンから、急きょ帰国

川島蓉子さん(以下、川島) 由美子さんは新型コロナウイルスの感染拡大がひどくなってきた時、ちょうど英国ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に留学されていました。コロナの影響を受けずに帰国できたんですか?

鎌田由美子さん(以下、鎌田) 昨秋から今年5月までの予定で、グローバル・イノベーション・デザイン科で学んでいたんですが、3月25日に帰国。ロックダウンにあったのは2日間で、かなり良いタイミングで出国できました。

川島 飛行機のチケットは問題なく取れたんですか?

鎌田 政府がコロナへの対応の方針転換を打ち出してから1週間で授業はオンラインになり、街の空気も変わりました。フライトのキャンセルが出始めたので、チャーター便で帰国ということになっては大変だと思い、数日で荷物をまとめて帰ってきました。

川島 それは大変でしたね。帰国されて2週間は隔離生活だったわけでしょう?

鎌田 はい。でも、私にとって貴重な2週間だったんです。時間を気にせず、ぼーっとしたり、読めなかった本を読んだり、家を片づけたり、抜け殻のようになってくつろいでいました。仕事を始めてから30年間の澱(おり)をすっかり落としたかと思うほどスッキリしました(笑)。そうしたら、またエネルギーが湧いてきたんです。その後、友人たちの飲食店や農家などのお手伝いをしているうちに、新しい仕事の話が降ってくるなど、流れに身を任せて過ごしてきました。

コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん

鎌田由美子さん

小さくて強い農家を作るために、人材をマッチング

川島 由美子さんはご自身の会社のホームページで、やりたいことを三つ掲げていますね。

鎌田 一つ目が、各地のいまだ利用されたことのない資源や希少素材を活用した「ものづくり」、二つ目が「地域でのアドバイザー」、三つ目が「地域と都心の人の流動化」、つまり人材のマッチングです。

川島 由美子さんが10年前に手がけた青森の「A-FACTORY」は、りんごという地域の資源を生かし、B級品のりんごからシードルやアップルブランデーを作ったことで、地元を巻き込み、農業や観光を活性化しました。まさに理想的な地域貢献だったわけですが、これからもそういうことを日本各地でやっていきたいということでしょう?

コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん

青森県産りんごのシードル工房と地元の様々な食材が楽しめるマルシェの複合施設「A-FACTORY」。インテリアデザイナー片山正通さん率いるワンダーウォールが空間デザインを手がけた(Photo: Kozo Takayama)

鎌田 そうなんです。私はJR東日本で立ち上げたプロジェクトで地域活性化の仕事にハマり、一生関わっていきたい仕事だと考えるようになりました。特に「A-FACTORY」は印象深い仕事でした。一次産業は日本のどこにでもあり、その地ならではの歴史と文化が食に表れています。土壌も豊かな国です。ところがGDPで見ると数%とマネタイズできておらず、補助金に頼る構造が長年変わっていません。日本の農家の平均年齢は68歳、年収が450万円ともいわれ、農家の8割以上が500万円以下の小規模農家で構成されているというデータもあります。

私が尊敬する友人である有機栽培農家の久松達央(たつおう)さんは、「小さくて強い農家をもっと作らなければいけない」とよく言います。小さくて強い農家というのは、数千万円規模を売り上げる農家です。そのくらいの規模の農家は後継ぎもいますし、新しい取り組みもどんどん生まれています。

川島 そのために必要なこととは?

鎌田 「多様性」と「チームで生産性をあげること」です。生産効率の向上が大切なのは、農業の世界でもビジネスの世界でも全く同じ。生産効率を上げるためには、ダイバーシティー(多様性)は不可欠です。農業しかやったことがない人たちのところに、それ以外の得意分野を持った人たちが入ってくれば、アイデアが生まれ、収益の幅が広がるんです。

今回のコロナは、その良いチャンスだと思っています。リモートワークが進んだことで、必ずしも首都圏の企業に、毎日のように通勤しなくてもいいということがわかった。そんな中で、仲間たちとプロジェクトを組んで考えているのが、一次産業との「マッチング」なんです。幅広くというよりは、一次産業や、ワインや発酵食品など手仕事も多い二次産業を含め、物作りに特化したマッチングができたらいいなと思っています。

川島 もう少し詳しくうかがえますか。

鎌田 まだ議論は途中ですが、今後首都圏など大都市に住まなくても、企業の仕事もできる時代が来ると思っています。仕事も単一ではなく、いくつものコミュニティーを持つ生き方が可能な時代になるのではないでしょうか。大都市での会社員経験は、一次産業でも貴重です。農家の困りごとは、収穫の人手が足りない、といった肉体的な面だけではありません。たとえば農協とのやりとりとか、ウェブに農産物を掲載することとか。農家は作物を作るプロであっても、そういったことのプロではない。

そんなところに、オフィスワークをしてきた、事務方を務められるような人が入ったらすごく助かる。複数のコミュニティーを持つことは、別の世界で刺激を得ることも多く、所属する会社にも、自分自身の人生にも、豊かさをもたらすのではないでしょうか。

コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん

ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートに留学中、英国にある日本酒の酒蔵をクラスメートとともに見学。右から2人目が鎌田さん(2019年)

デジタル化するほど、手触り感が求められる

川島 生産効率を上げるにしてもマッチングするにしても、社会のデジタル化が必須ですね。

鎌田 そうですね。でも、仕事も生活もデジタル化すればするほど、手触り感のある体験や商品が、より価値を持つと思います。

川島 手触り感のある体験や商品とはどういうことですか。

鎌田 たとえば、今、スーパーマーケットで買い物をする人たちは多いですが、一見昔に戻るかのように見える魚屋や肉屋、花屋といった個人商店を欲している人たちは多いのではないでしょうか。

ないから使わないだけで、あったら使う人は多いのではないかと思うんです。店で「今日はいい肉が入ったよ」「おいしい魚が入ったよ」といった話ができたり、食べ方を教えてもらったりと、ちょっとした会話を楽しめる。

ただ、昔の個人商店と違うのは、支払いが電子マネーだったり、デリバリー体勢が整っていたりすることです。たとえば欲しい魚を事前に頼んでおいて仕入れてもらう、という個の対応ができる。そんな世界ですね。

川島 近所に使い勝手の良い個人商店があれば、スーパーよりちょっと値段が高くても買うような気がします。

鎌田 確かに値段はスーパーより高いかもしれませんが、食のぜいたくは手が届きやすいものだと思います。鮮度のいい食材やちょっと特別なレシピで何を作ろうかとワクワクできて、作って喜ばれ、食べておいしいなら、1粒で3度おいしいくらいの満足感が味わえる。地方では残念ながらシャッター商店街が増えていますが、再び開きはじめると、地域経済の新たな可能性がひらけると思っています。

コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん

デジタル化が進むほど、お店の人と会話したくなるように photo:(c)Getty Images

働き方、暮らし方をもっと選べる時代に

川島 そんなお話を聞いていると、ワクワクしますね。これから世の中はどう変わっていくと思いますか?

鎌田 コロナによって起きた新しいことは何もなくて、見えかけていた課題が10倍速くらいで訪れたと私は思っています。一番大きいのが、「デジタライゼーション(デジタル化)」。それと、「環境問題」や「ダイバーシティー&インクルージョン(包括=誰にでも参画する機会があること)」です。

これらはコロナ前から認識されていたことですが、コロナによって一気に突きつけられました。例えば「熱い温泉」を考えてみてください。お湯にいきなり入れば「アチチチ」と1回飛び出してしまいますが、ジワジワと入れば、なんとか入ることができます。この春、世界中が「アチチチ」の状態でしたが、すでに次の段階にきているように思います。

熱いお湯についていけない人は苦しむでしょう。でも、変化についていける人は、年齢を問わずいる。「熱いのは苦手」と言って遠くまで時間をかけて水をくみに行き、昔の温度まで下げるころには、一緒に熱いお湯に入った仲間は先に行っていなくなっているし、景色も変わっています。世界中がこれら三つを避けて通ることはできません。

コロナ禍が地域活性のチャンスに ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん

島根で新品種のぶどうのブランディングについて話す、鎌田由美子さん

また、仕事に関しても、今後は自らの人生観を軸に考える人が増えるように思います。ワーク・ライフ・インテグレーションと言われているように、仕事だ、プライベートだ、と分けるのではなく、人生にとってすべてが大切な要素であるという考え方の時代だと思うんです。何のために働くのか、どんな働き方をしたいのか、どんな仕事をしたいのか。その中に、企業も、職場も、住む場所もあるように思います。

都心ではある程度のお金がないと豊かな生活を実感しづらいですが、地方でははるかに少ない収入でも、食や住まいへの不安が少ない分、豊かさを感じられる。「生活のための収入、収入のための仕事」となると手段が目的化してしまう。

収入にしばられない生き方は人生100年時代に合っているし、地方に豊かさをもたらすと思っているんです。

川島 思いを形に変える由美子さんのエネルギーはますます高まっているように感じます。これからも応援しています!

次回、川島蓉子さんがゲストに迎えるのは、家政婦のタサン志麻さんです。どうぞお楽しみに!

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