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部屋作りの知恵と技が詰まった4坪の店 「INTERIOR BOOKWORM CAFE」

大阪市の中心部を南北に貫く大通り・四つ橋筋。難波と梅田を結び、その下を大阪メトロ・四つ橋線が走る。道沿いにはオフィスビルが連なり、スーツ姿の人々が行き交っている。

「INTERIOR BOOKWORM CAFE」は、四つ橋線の肥後橋駅と本町駅の間、少し肥後橋駅寄りのビルの片隅にある。四つ橋筋に面した大きな窓から、壁面を埋め尽くすインテリア雑誌が見えるので、「ここ何のお店?」と思わずのぞき込みたくなる。道路側には入り口がなく、いったんビルに入り、向かって左手の通路のドアを見つけなくてはならないのだが、このわかりづらさが隠し部屋のようで少しわくわくする。

部屋作りの知恵と技が詰まった4坪の店 「INTERIOR BOOKWORM CAFE」

一見すると奥行きがあるように思えるが、実は片側の壁は鏡張り。広さはたった4坪(=約13平方メートル/約8畳)しかなく、店としてはかなり狭い。ところが、限られたスペースにもかかわらず、壁一面の雑誌棚、厨房(ちゅうぼう)、2階の倉庫スペースなど、空間を実に巧みに活用している。

それもそのはず、ここは設計士の城村握(あつし)さんと妻の真澄さんが2人で営むカフェ兼設計事務所。空間デザインや施工はお手の物だ。2013年のオープン後も、少しずつ内装に手を加え続けているという。

「雑誌を並べている壁はそのままですが、倉庫になる2階部分を作ったり、キッチンを改装したりとちょこちょこ変えています。なので、オープン当初から通っているお客さんには、『違う店みたい』と言われます」(真澄さん)

部屋作りの知恵と技が詰まった4坪の店 「INTERIOR BOOKWORM CAFE」

大阪モード学園や、カナダ・トロントの専門学校でインテリアデザインを学び、会社に所属して設計の仕事を続けてきた握さん。独立を決意した時、事務所がカフェを兼ねていればお客さんが来やすいのではないかと考えた。

「設計事務所に行くというよりも、カフェに行ったら設計事務所だった、という方がいいんじゃないかと思って。インテリア雑誌があるカフェだったらなお入りやすいでしょう」(握さん)

14カ国のインテリア雑誌が読み放題

そのインテリア雑誌は14カ国77種、500冊以上という圧巻の品ぞろえ。アメリカ、イギリス、オーストラリアなど英語圏のものを定期購読で取り寄せ、バックナンバーも充実。店内で自由に閲覧でき、購入もできる。外国人客に「なんでこの雑誌がここにあるの?」と驚かれたこともあるそうだ。海外の多彩な事例が載った誌面は、ながめているだけでも心がときめく。

部屋作りの知恵と技が詰まった4坪の店 「INTERIOR BOOKWORM CAFE」

物件探しでここを選んだ決め手は、大きな窓とバラ園やケヤキ並木で知られる靭(うつぼ)公園にほど近い立地。狭さについてはさほど気にならなかったという。

「空間の体積は変えられないけど、自分でなんぼでも自由にできると思いましたから」(握さん)

店をオープンする前、城村さん夫妻は2週間かけてオーストラリアを旅した。オーストラリアには独自のカフェ文化が根付いており、当時はスターバックスコーヒーなどの大型チェーン店が参入しようとしても、個人経営のカフェとは張り合えずに撤退するほどだったという。個性豊かなカフェをいくつも巡るうち、エスプレッソマシンなどおいしいコーヒーを提供するための道具類には惜しみなくお金を注ぐが、内装は極力お金をかけずに自分たちで工事していることに気付き、城村さん夫妻も“オーストラリア流”のカフェを作ることに決めた。

「寸三」を駆使して生まれた内装

そこでひらめいたのが、「寸三(すんさん)」と呼ばれる、35mm角の木材。ホームセンターでも安価で購入できる、現場ではおなじみの建材だ。握さんは、この組み合わせだけで内装を作り上げてみようと考えたのだ。

部屋作りの知恵と技が詰まった4坪の店 「INTERIOR BOOKWORM CAFE」

店内を見回してみると、確かに本棚、ベンチシート、テーブル、厨房、柱など、すべてのものが「寸三」によって作られている。どこにでもある角材のはずなのに、木材の組み方によってここまで豊かな表現力を発揮できることにただただ驚かされる。

オープン半年後、カフェを訪れた客から「バッグブランドの店舗デザインをお願いしたい」と仕事を依頼され、そこから設計事務所としても広がりを見せていったというのも十分納得できる。この空間自体が、生きたショールームでもあるからだ。また、握さん自身もカフェを営むことで施主の気持ちに寄り添えるようになったと感じている。

「いくらかっこいい店を作ったって、お客さんが来なかったら施主さんは困ります。お店をやっていない人間が施主さんにいろいろ提案したところで、自分ならうそ臭いなと思うし。施主さんの不安を感じ取って、寄り添えるので僕にとっても勉強になってます」(握さん)

部屋作りの知恵と技が詰まった4坪の店 「INTERIOR BOOKWORM CAFE」

自慢のクレープはテイクアウトOK

カフェを取り仕切るのは真澄さん。カフェ兼設計事務所を作るにあたって、大手コーヒー店で数年修行し、おいしいコーヒーを淹(い)れる技術を身に着けた。店のもうひとつの看板メニューであるクレープとガレットのレシピも、真澄さんが試行錯誤して作り上げたものだ。

「2017年に店を大きくリニューアルした時に、クレープ用の鉄板を入れました。私がトロントの専門学校に通っていた頃、フランス人の女の子が作ってくれたクレープに感動した記憶があったからです。生地から自分で作れるし、食材の組み合わせによっていろんな可能性があるのもいいなと思いました」(真澄さん)

新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月から4カ月間店を休んでいたが、8月より営業時間を短縮して再開。それに伴い、ランチタイムの混雑緩和で、ガレットを休止してクレープのみにし、テイクアウトも始めた。焼き立てでもちもちのクレープにバターやキャラメルなどをトッピングでき、店の味をオフィスなどで楽しめるようになったのは、近隣の客にとっては歓迎すべきことだろう。

部屋作りの知恵と技が詰まった4坪の店 「INTERIOR BOOKWORM CAFE」

カフェでは不定期で「インテリア相談会」も開催。ワンドリンクの注文で、住宅の悩みから、開業を考えている人の相談まで幅広く話を聞く。こうした催しができるのも、設計事務所ならではの強みだ。

「お店を作りたいと考えている人はもちろん、最近はDIYに挑戦する人も増えていますし、『誰に聞けばいいかわからない』ということを気軽に聞きにきてほしいですね」(握さん)

わずか4坪という狭い空間ながらも、さまざまな知恵と技術がぎゅっと詰まったこの店。「寸三」の組み合わせのように、可能性は無限大に広がっている。

部屋作りの知恵と技が詰まった4坪の店 「INTERIOR BOOKWORM CAFE」

カフェを切り盛りする城村真澄さん

■大切な一冊

『Dwell』

2000年に創刊された、アメリカのモダンな建築・デザイン誌。
「トロント留学中にカフェでよく読んでいた雑誌です。学生でお金がなかったけれど、そのカフェに行けば、このインテリア雑誌だけでなく、いろんな雑誌が読めておいしいコーヒーが飲めた。だから、自分の店でもそうなったらいいなと思って。この雑誌は、他のインテリア雑誌に比べて、空間作りのコンセプトを重視していて、それが誌面から伝わってきます。値段のわりに情報量が多いというのもいい。昔は月刊だったけど、いまは隔月刊に。店で定期購読している雑誌も、だんだんデジタル版に移行して、紙の雑誌が減ってきています。でもこの雑誌はまだ紙で出し続けているんです」

部屋作りの知恵と技が詰まった4坪の店 「INTERIOR BOOKWORM CAFE」

INTERIOR BOOKWORM CAFE
大阪府大阪市西区京町堀1-4-16
https://www.interiorbookwormcafe.com/

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(写真・太田未来子)

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    PROFILE

    吉川明子

    兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
    https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
    https://note.mu/akikoyoshikawa

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