明日のわたしに還る

水川あさみさん「自分を取り繕わない役、求めていた」 5キロ増で演じた“恐妻”

ポンポンと軽やかに語る水川あさみさんのフラットな立ち居振る舞いは、役者としても多くの人に支持されている。映画「喜劇 愛妻物語」で水川さんが演じる超恐妻チカが、ダメ夫に次から次へと繰り出す罵詈雑言(ばりぞうごん)。

「稼ぎもないくせに屁理屈(へりくつ)ばかりこねて食い意地ばかりはりやがってこの雑魚が!」
「もう一緒に居たくない、顔も見たくない、マジ死んで欲しい」

ここまで流れるように罵倒するとほとんど“話芸”に聞こえてくる。美しく凜(りん)としたクールビューティーな彼女の「超恐妻」キャラは意外だった。

水川あさみさん「自分を取り繕わない役、求めていた」 5キロ増で演じた“恐妻”

もっとも、14歳の時に映画「金田一少年の事件簿 上海魚人伝説」でデビュー以来、コメディーからホラー、時代劇、人間ドラマなどで幅広い役を演じ魅了してきた。2018年の官能ドラマ「ダブル・ファンタジー」(WOWOW)では、「女の性を生き尽くす」ヒロインを演じて話題になった。長い俳優生活の「今が一番楽しい」と言う。

「もちろんそう思えるまでにしんどい思いもしました。でも、もっとこういう作品に出たいとか、こういう監督と仕事がしたいと、自分のやりたいことが明確になってからの方が楽しい。駆け抜けるように仕事をしていた時間もあった中で、今が一番いい距離感で役者という仕事に向き合えていて、すてきな時間を過ごしていると実感しますね」

挫折を原動力にして

力強さを感じさせる物言い。悩んでいる暇があったら人生前進するのみと思わせる。実際、水川さんに悩みの解決法を聞いてみると、しばらく「うーん」と考えた後にこう答えた。

「『どのように生きたいか』と悩むことは、私にはないのでわからないのかも。悩むということは、自分が本当にやりたいことがなかったりするからですよね? それは見つけるしかないと思います」

水川あさみさん「自分を取り繕わない役、求めていた」 5キロ増で演じた“恐妻”

30代の働く女性ともなれば、仕事でやりたいことができなかったり、収入の面で折り合いがつかないことがあったり。挫折を味わうことが一つや二つあってもおかしくない。実際、水川さん自身も「あった」と言う。

「『でもそれはチャンスだな』と思うんです。原動力にして進むしかないと。ただ一方で、『今の自分には縁がなかった』と思うことも大事だと思います。後は、自分の中の可能性として何が残っていて、何に向いているのだろうと考えることも大切ではないでしょうか」

役者としては常に「今まで演じたことのない役をやりたい」という気持ちを抱いてきた。どこかで「自分を取り繕っては演じられないような役、自分が心をあけすけにしないと成立しないような役を求めていた」とも。

「だから『喜劇 愛妻物語』のチカ役のお話をいただいた時はすごくうれしかったんです。『これだ!』という何か運命的なものを感じたところがありました」

役が共存している感じ

「喜劇 愛妻物語」は脚本家の足立紳さんが、自身の夫婦生活を赤裸々につづった(ほぼ)実録小説を自らの手で映画化した人間喜劇。結婚して10年になる夫婦の物語は、稼ぎがほとんどないダメ夫の豪太(濱田岳)と、夫を罵倒しながらも家計をやりくりして家族を支える妻チカ(水川あさみ)の痛快夫婦バトルを描いている。

チカは冒頭からずっと不機嫌で、台詞(せりふ)の濃淡はあっても多分、9割が罵詈雑言という役どころ。だが、チカの不機嫌な気持ちはよくわかる。妻がパートに出て必死に節約しながら家計を支えているのに、「またモヤシ~?」などと平気でのたまう無神経さだ。しかも、ことあるごとにセックスに持ち込もうとする。そんな夫を「ウザい!」と寄せ付けない妻に共感する人は多いに違いない。あきれて笑ってホロリ。ダメ夫と毒舌妻のバトルを通して夫婦のあり様を問う現代夫婦考だ。

水川あさみさん「自分を取り繕わない役、求めていた」 5キロ増で演じた“恐妻”

(c)2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

夫を罵倒し続けるチカだが、演じるにあたっては、「チカが憎らしく見えないように気をつけた」と話す。

「だからと言って、セリフの勢いがなくなるのも嫌だったんです。何が大事だったかというと、チカの豪太に対する根本的な思いは、出会った時から変わらず今もあるということ。彼の脚本の才能だったり、夫の成功を願う気持ちだったり。脚本の仕事だけは頑張って欲しいし、あとは何もできなくていい、という思いがチカにはある。そのことを思いながら演じたいと思いました」

役を演じる上では「脚本を読んだ直感を大切にする」と言うが、セリフは普段の生活の中で、あるいは移動中など、時間と場所を選ばず、「とにかく読んで読んで覚える」。役者の中には、撮影(舞台)の期間中はずっと役になり切る人も、その出番の時だけなり切るという人もいるが、水川さんの場合は「撮影中は役が共存している感じ」だと言う。

「『喜劇 愛妻物語』では、演じている間は自分の近くにチカがいるという感覚でした。その日の撮影が終われば自分に戻れますし、役を引きずることもほとんどありません。次の作品も何日かあれば違和感なく入れます。でも、この映画は喜劇です。喜劇は人間が本気で日常を生きている姿を映し出しているから面白い。だから、この映画では人間チカとして生きることが大切でした」

水川あさみさん「自分を取り繕わない役、求めていた」 5キロ増で演じた“恐妻”

私のエネルギーの源は

今回、体重も5kg増やした。台本の1ページ目に眠っている夫婦の描写があり、「チカのでっかい背中が」と書いてあったからだ。水川さんのエネルギーはどこから湧き上がってくるのか。思わずそう尋ねると、「単純ですよ」とあっけらかんと答えた。

「自分にやりたいことがあるからだと思います。やってみたい作品がある。共演したい役者がいる。興味があるものがある。ただそれだけですね(笑)」

クールビューティーというイメージが、たくましく、地に足のついた女性という印象にスイッチした瞬間だった。

ところで、そんな水川さんだからだろうか。普段は作品に入る前に「験担ぎ」をするタイプではないと言う。だが、この「喜劇 愛妻物語」では決めていることがある。

「スタッフの方から劇中で穿(は)いたのと同じ大きな赤いパンツ(縁起が良いとされる)をいただいたんです。それを公開初日に初めて験担ぎで穿こうと思っています」

水川あさみと大きな赤いパンツ。なんてミスマッチ! だが、そんな意外性が彼女の大きな魅力を増幅させている。これからも見たことのないキャラクターで楽しませてくれるに違いない。

水川あさみさん「自分を取り繕わない役、求めていた」 5キロ増で演じた“恐妻”

(c)2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

(文・坂口さゆり インタビュー撮影・山本倫子)

     ◇

水川あさみ(俳優)
1983年生まれ、大阪府出身。近年の主な映画出演作に、「明日への記憶」(2006年)、「今度は愛妻家」(09年)、「大下家のたのしい旅行 新婚地獄篇」(11年)、「バイロケーション」(14年)、「太陽の坐る場所」(14年)、「福福荘の福ちゃん」(14年)、「後妻業の女」(16年)、「グッドバイ 噓からはじまる人生喜劇」(20年)など。公開待機作に「ミッドナイトスワン」(9月25日から公開予定)、「滑走路」(11月公開予定)がある。


「喜劇 愛妻物語」
脚本家の足立紳が、自身の夫婦生活を赤裸々につづった(ほぼ)実録小説を自らの手で映画化した人間喜劇。結婚して10年、年収50万円といううだつの上がらぬ脚本家の豪太(濱田岳)が四国へ取材に行かざるを得なくなり、チカに頼み込んで娘と3人で旅に出る。豪太は仕事をモノにするだけでなく、セックスレスの妻となんとかしてセックスをしようという魂胆もあった……。

水川さんと濱田さんは「今度は愛妻家」以来11年ぶりの共演だ。「あの時は役の上で岳くんが私のことをすごく好きで最終的には結ばれる。『絶対一生幸せにする。好きになってもらえるように頑張るから』って言われたんですけど、その結末がこれか!?という感じ(笑)。今回もタイトルに『愛妻』がつくのは運命ですね(笑)」(水川さん)。

水川あさみさん「自分を取り繕わない役、求めていた」 5キロ増で演じた“恐妻”

(c)2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

脚本・監督:足立紳 出演:濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、大久保佳代子、坂田聡、宇野祥平、黒田大輔、冨手麻妙、河合優実、夏帆、ふせえり、光石研ほか。9月11日から全国ロードショー
(c)2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会
http://kigeki-aisai.jp/

>>「明日のわたしに還る」バックナンバー

篠原ともえさん「私は大丈夫!と信じれば、きっと新しい道が開ける」

一覧へ戻る

美村里江さん「幸も不幸も決めるのは自分自身。あの時、嘘をつかなくてよかった」

RECOMMENDおすすめの記事