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都市がアップデートする瞬間。自分らしい暮らしが未来を紡ぐ

都市がアップデートする瞬間。自分らしい暮らしが未来を紡ぐ

撮影/馬場磨貴

『MOMENT 2』

雑誌をつくるのには時間がかかる。企画・取材・編集・印刷など多くの工程を経て出来上がる。インディペンデントな雑誌であれば、自ら書店とやり取りを行い、発送や請求までして店頭に並ぶ。そのように作っているうちに、みるみると世界が変わっていったのが今の状況だ。最近、新型コロナウイルスの感染拡大よりも前に作られたであろう書籍や雑誌の内容のなかに、あったかもしれない世界を見ているようで不思議に感じることが多い。

『MOMENT 2』(リ・パブリック)も、そうした雑誌だ。帯に記載された特集名は「都市の変わらなさに戸惑うとき、私たちのすること」。その不思議な特集名と、ぎりぎりのバランスで倒れそうな椅子の上に立つ人のイラストレーションに惹(ひ)かれ読み始めると、そのタイムラグを積極的に意識してしまう興味深い内容だった。

出版社のホームページによれば、MOMENTは、以下のようなコンセプトの雑誌だ。

あらゆる地域・分野を横断しながら、新しい都市の在り方を探索する人たちのためのトランスローカルマガジン。トランスローカルとは、《いまここ=ローカル》にある技術や資源、文化を、別の視点で読み直すことで、その場所や、そこに生きる人たちが変わっていくこと。

例えばアメリカのデトロイト。モータリゼーションで発展したが、1967年の暴動、2008年のリーマン・ショックによる大打撃など都市の脅威に直面し、13年には都市自体が財政破綻(はたん)した。資本主義の栄枯盛衰を、他の都市に先んじて体験してきた。

そこで活動するAkoakiというユニットは、荒れ果てた土地に宇宙船型のモバイルDJブースを出現させ、デトロイト美術館の再開発プランなど様々なプロジェクトを構想、実践している。ほかにもランドリーとカフェを組み合わせたThe Commonsなど、街の中の新しい居場所をつくる動きが取り上げられている。

他にも、これからのパブリックスペースのあり方を考える台湾の取り組みや、身近な素材をブリコラージュ(*)し地域内外を自然につなげる場をつくっている、鳥取の書店「汽水空港」やパンとビールの店「タルマーリー」が紹介されている。
(*ブリコラージュ=材料を寄せ集めて何かを作ること)

これらは、どこも経済成長が見込める都市ではない。荒廃したり、人口減少が激しかったり、先んじて衰退局面を迎えていた。だからこそ、都市のリソースを使いながら自分らしい暮らしを実践する彼らの取り組みは、ひとつひとつは小さいけれど、現状をトランス=越えた未来をつむぐ活動である。

様々な脅威が都市を更新してきた。感染症ペストの広がりによって、下水道が整備され衛生的な都市ができるきっかけになり、1871年のシカゴの大火では、れんがと木の建造物が燃えることにより、鉄骨造りの都市ができあがった。現在、私たちは、誰もに触れることはできず、移動も積極的にすることができず、都市に閉じ込められている。変わる世界と、変わらない社会、私たちが生きていくアクションの種がここにある。

(文・嵯峨山瑛)

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    蔦屋書店 コンシェルジュ

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    二子玉川 蔦屋家電、建築・インテリアコンシェルジュ。
    大学建築学科卒業後、大学院修了。専門は都市計画・まちづくり。
    大学院在学中にベルギー・ドイツに留学し建築設計を学ぶ。
    卒業後は、出版社やリノベーション事務所にて、編集・不動産・建築などの多岐の業務に関わる。

    曖昧になる「仕事」と「生き方」の境界。理想の働き方はどこに

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