人はなぜ掃除をする? クリエーターらが問う、「これからの無印良品」PR

今年40周年を迎えた無印良品。新しい企業広告シリーズを8月末から全世界で展開すると同時に、写真集『掃除 CLEANING』を刊行した。いったい今なぜ「掃除」をテーマにするのか。無印良品が伝えるメッセージとは。

常に問いかけながら、一緒に考える

8月31日、銀座の無印良品でトークイベント「これからの無印良品」が開催された。第1部は、無印良品の広告シリーズのアートディレクターを長年務めてきた原研哉さんと、その写真を撮影してきた写真家の上田義彦さんによるトーク。広告制作の舞台裏が明かされた。

人はなぜ掃除をする? クリエーターらが問う、「これからの無印良品」

テレビCM、全国紙朝刊、ウェブサイトなどで8月末から展開している無印良品の企業広告メッセージは「気持ちいいのはなぜだろう。」という問いかけだ。

原さんが、過去の広告を振り返りながら、同社の企業広告についての考え方を説明する。「無印良品は、優れた製品群を持つブランドというよりも、“問いかけ”なんです。これでいいんですか、と常に問いかけながら、お客さんと一緒に考えている」

人はなぜ掃除をする? クリエーターらが問う、「これからの無印良品」

原研哉(グラフィックデザイナー/⽇本デザインセンター代表/武蔵野美術⼤学教授)

気持ちいいのはなぜだろう、という問いかけについては、2017年の広告シリーズで上田さんとガラパゴス諸島を訪れたことがきっかけで「人間はなんで掃除するんだろう」と考えたと振り返る。

当時、ガラパゴスから帰国後の対談で、原さんはこんなことを語っている。

ガラパゴスコバネウの巣を見て、何とも言えない気持ちになりました。糞(ふん)が白く、漆喰(しっくい)で塗られたように堆積(たいせき)していて、その真ん中に、親鳥が持ってきた枯れた海藻も堆積されていて。その中にはひながいて、親鳥がのんきな感じでぽんといる。糞を見ても、不思議と汚いという感じがしないんですよね。排泄(はいせつ)物という概念がなくて、自然のサイクルの中にあるから、汚く見えないということなのかもしれません。人間って、掃除をするでしょう。それってどういうことだと思います? 動物は掃除をしませんよね。

自然を放っておけば埃(ほこり)や落ち葉がつもり、草木も生い茂る。自然が増え過ぎればそこに手を入れて快適な環境を作るが、プラスチックやコンクリートなど「人工」に行き過ぎると、今度は自然が恋しくなる。

「ほどほどに受け入れつつ、バランスをとる。その“自然”と“人為”のバランスを調整しているのが掃除なのではないかと思い至ったのです」と原さんは思い、そこから世界中の掃除をリサーチしたという。

毎年8月7日に行われる東大寺の大仏の「お身拭い」、イランでお正月前に村総出で行う絨毯(じゅうたん)の洗濯、中国の高層ビルでぶら下がって窓を拭く人たち、巨大な船の船底についた貝殻を高圧洗浄機で流し飛ばす様子――。世界100カ所以上の映像を捉える大プロジェクトとなった。

広告シリーズ、そして写真集『掃除 CLEANING』で紹介されている掃除は、ありとあらゆる掃除の風景だ。映像ではバックに坂本龍一さんの音楽が流れる。イランでの映像を上映しながら、ロケを振り返って写真家の上田さんが語る。

「これは演出したものではないんです。みんな民族衣装を着たまま川の中にザブザブ入っていって、ガンガン洗う。そういう姿を見たときに、心の底から美しいと思いました。まるで夢を見ているような、2020年にこんな風景が見られるなんて、という気持ち。愛(いと)おしいし、ずっと見ていたい。人間の営みの美しいところを見せてもらったような気がした」

人はなぜ掃除をする? クリエーターらが問う、「これからの無印良品」

上⽥義彦⽒(写真家/多摩美術大学教授)

中国東北部の映像では、竹箒(ぼうき)を15本ほど装着した回転盤を背負ったトラックが、街を走り抜けていく様子が映し出される。

「こんなものを考えてしまう中国も素敵ですよね。一つ一つの掃除の中に面白い物語があって、ユーモアもあるけど、少し切ない。人間はこういうことを大事にしている。自分たちの小さな幸せを維持しようとする小さな努力、そういうものが積み上がった映像になったと思います」(原さん)

「こうして見ると人間って一日中掃除してる。美しいけど切ない生き物だよね。今、僕らはコロナ禍で生活しているけど、これはその直前の映像。なんでもない日常の掃除の姿なんだけど、とても大切な映像を見せられているような気がします。美しいし、豊かだし、切ない。坂本龍一さんの音楽も素晴らしいですね」(上田さん)

生活美学の探求を続けてきた無印良品。掃除の道具ももちろん商品として多く扱っているが、単にその「物」を売るための広告ではない。「掃除」という文化や文明を超えた営みの中に、暮らしの本質が潜んでいる、そんなことに気づかせてくれる広告だ。

“人間の本来の営み”を見つめ直す

続く第2部では、金井政明会長が登場し、近年の取り組みやこれから無印良品が目指していく先を語った。

山形県・酒田で一人の社員が始めた移動販売や、新潟県・直江津に7月にオープンしたばかりの、世界最大級でありながら地域密着型の店舗。それぞれの地域や暮らしになくてはならない存在を目指す、と無印良品の見据える未来を示した。その思いは、新聞広告に掲載したメッセージ「水や空気のように。」のコピーにも表れている。金井社長が語る。

「水と空気と無印良品、それが究極のテーマなんですね。水や空気のような存在になれれば素晴らしいけれど、責任重大です。どんな水で、どんな空気なのか。そういうことを考えていく一つの歴史的な転換点、その一つのメッセージが掃除というふうにお考えいただきたい」

人はなぜ掃除をする? クリエーターらが問う、「これからの無印良品」

⾦井政明(株式会社良品計画 代表取締役会⻑)

504ページにもわたる写真集は、掃く、拭く、磨く、除くなど項目別に網羅され、世界中の人が掃除に精を出している様子がこれでもかと繰り返される。まさに「掃除人類学」とも言えるような力作。眺めているだけで心が洗われるような気分になる。

「撮影から帰ってきて、写真や映像を会議室で広げて見せていただいたときに、こういう写真には本当に力があるなと感じた。コロナ禍の中でみんなテレワークしたり、断捨離したり、掃除をしたり、料理をしたり、家庭菜園をしたりしている。人間の本来の営みというものが、今大事なメッセージになるのではないか」と、金井社長は、“これからの暮らし”への思いを述べた。

(文・高橋有紀 写真・中田健司)

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