年をとるとなくすと言われる「羞恥心」。本当になくしたものとは……/田房永子さん

特別企画「アナタのミライは、ワタシのミライ」が伝える
「呪いの言葉」と「解毒法」とは?

 

なんだか心に重くのしかかる。でも、どうしていいのかわからない――。
そんな“生きづらさ”を感じるとき、ありませんか?
「&w」編集部は、その生きづらさの背後に潜むものに「呪い」と名前をつけました。
家族や恋愛などをテーマにした作品がある漫画家・田房永子さんと文筆業・清田隆之さんが交代で、イラストと言葉で「呪い」を解きほぐします。
無意識のうちに刻まれた、古い制度や変わらぬ価値観、性差にもとづく役割分担……。
この世を取り巻くそれらの呪い、前向きな「解毒法」がわかれば解けていくかもしれません。

 

~呪いの言葉~
女は年をとると羞恥心がなくなる。

年をとるとなくすと言われる「羞恥心」。本当になくしたものとは……/田房永子さん

~解毒法~
年をとってなくなったのは恐怖心。

子どもの頃、テレビなどで大人たちが、何かにつけて「女は年をとると羞恥心がなくなる」と口にするのを耳にしてきた。そういえば最近はあまり聞かないフレーズだけど、私の耳には、ずっとこびりついている。つつましくおしとやかだった若い女性が、年をとると図々(ずうずう)しくガサツになる、というあまり良いイメージではない言葉。
昔はこういった、「女は年をとったら、悪い方へ変化する」「どんどんステキではなくなって終わっていく」「価値が無くなる」という意味の女へかけられる呪いの言葉がたくさんあった。

実際、20代の頃は、自分もそんなふうにしか年を重ねられないのかもしれない、という不安と、だったら今のうちになんとかしなきゃ、という漠然とした焦りがあった。

先日、家の前でゴミをまとめる作業をしながら、ハッとした。20代で一人暮らしをしていた頃は、こんな風にのびのびと、自宅の前で何かの作業をすることなんてできなかった。自宅の玄関前は、出る時も入る時も、最も緊張を強いられるスポットだった。

駅から誰かに後をつけられているかもしれない、玄関に入る時を狙って一緒に入って来ようとする人がいないか注意しなきゃ、急に声をかけられたり体を触られたりするんじゃないか……警戒しなければならないことがたくさんあった。それは、周りの女性たちから似たような被害をしょっちゅう聞いていたし、自分自身も10代の頃にそういった被害に遭って恐ろしい思いをしたから。

痴漢に遭ったと誰かに話しても、「本当にそんなことがあるの?」「勘違いじゃないの?」「隙があったんじゃないの?」とか言われてしまう。とにかく被害に遭わないよう、「自分で自分の身を守れ」と言われ続けてきた。だから警戒することが身にしみついていた。「この家に若い女性が1人でいる」となるべく周囲に知られないように。玄関の前で何かの作業をしていて、誰かが近寄ってきて話しかけられたりしたら、もうそれだけで自分の家がここだってバレてしまう。逃げようがない。派手な行動はしないようにしていた。

40代になり、被害に遭うことが少なくなって、家族住まいが多い地域で暮らすことで、やっと私は、自分の家の前で堂々と自分のしたい作業ができている。

年をとってなくしたのは「羞恥心」じゃなくて「恐怖心」だった。私をおびえさせていたのは、「若い女」というだけで見ず知らずの私に性暴力を振るう男性加害者であり、被害に遭えば被害者のほうに落ち度があると責めてくる社会の風潮だった。

年をとっても、恐ろしい被害に遭わなくなるわけじゃない。私自身の恐怖心がゼロになったわけではないし、母である今は、子どもたちを守るという視点で新たな恐怖心が生まれた。だけど、この年になり、やっとのびのびと生活できるようになったのも事実で、そんな当たり前のことができなかった若い頃を思うと胸が苦しくなる。「羞恥心がなくなった」なんてもし誰かに言われたら、全力で抗議したい。昔だって、恥ずかしかったわけじゃない。恐怖を感じていただけなんだって。

    ◇

アナタのミライは、ワタシのミライ」 筆者プロフィール

年をとるとなくすと言われる「羞恥心」。本当になくしたものとは……/田房永子さん

田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家。1978年東京都生まれ。代表作『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版、2012年)『キレる私をやめたい』(竹書房、2016年)。そのほかの著書に『男社会がしんどい』(竹書房、2020年)などがある。

 

年をとるとなくすと言われる「羞恥心」。本当になくしたものとは……/田房永子さん

清田隆之(きよた・たかゆき)

文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。1980年東京都生まれ。早稲田大学卒業。1200人以上の恋愛相談に乗り、コラムなどで紹介してきた。新聞や雑誌など多数のメディアに寄稿。桃山商事としての著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)、単著に『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)などがある。

 
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#29 変わることを恐れずに

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