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おいしいものいろいろ、体にやさしいランチでおもてなし 「喫茶去」

大阪市中心部に位置する靭(うつぼ)公園。約9.7ヘクタールもの広大な敷地に、英国風のバラ園や、秋の紅葉が美しいケヤキ並木などがあり、オフィスワーカーや周辺住民の憩いの場所となっている。

周辺には個性的なカフェやレストラン、洗練されたショップが点在する。大阪メトロ阿波座駅から約5分の京町堀通り沿いにある「BOOK & CAFE 喫茶去(きっさこ)」もその一つ。道路から少し奥まったところに入り口があり、ドアの横の黒板には、勢いのある手書き文字で今日のランチメニューが。2017年3月にオープンし、昼時は近隣の人々でいつもにぎわう。

「いらっしゃいませー!」と元気な声で迎えてくれたのは店主の井上圭子さん(上の写真右)。前職はアパレル業界のパタンナー。一方で高校生の頃から茶道を習い、社会人になってからは茶懐石にも手を伸ばした。茶懐石とは、茶会で茶の前に供される料理のこと。一汁三菜を基本としたもので、あくまで主役は茶である。

おいしいものいろいろ、体にやさしいランチでおもてなし 「喫茶去」

「はじめて茶懐石をいただいた時、『こんなにおいしいものがあるんや!』と、衝撃的でした。茶懐石を習いはじめてから、料理を作る方にも興味が出てきたんです」

カフェをやりたいと思うようになり、仕事のかたわら、カフェ経営の専門学校に通い始めたが、次第に物足りなさを感じるように。料理を深く学びたいと、著名シェフを数多く輩出する辻調理師専門学校の門を叩(たた)く。

「当時はまだ夜間コースがあったので、仕事をしながら通いました。でもめっちゃ楽しかったです! 結局、調理と製菓の両方を勉強しました」

おいしいものいろいろ、体にやさしいランチでおもてなし 「喫茶去」

卒業後は、パタンナーとホテルの仕事を掛け持ちしたり、日替わり店主による運営システムの「コモンカフェ」(中崎町)に月1回出店したりして、料理の腕を磨き続けた。そんな中、井上さんと同居する母が倒れてしまう。自分が動ける時にやりたいことを行動に移すべきではないか、自営なら時間の融通もきくのでは……そんな思いが井上さんの背中を押した。

「いろんなことをやってきてせっかく勉強したのに、このままでいいんかなと。思い切って自分で店をやろうと思ったんです」

厨房にお金、かけすぎました

1年かけて物件を探し、自分が楽しく仕事ができるよう、特に厨房(ちゅうぼう)にこだわった。広々としたオープンキッチンにし、機器はすべて新品を入れた。今は姪(めい)の奈穂さんや友人が手伝ってくれることもあるが、店を切り盛りするのは基本的に井上さんひとり。調理も接客も一手にできるよう、厨房の左右に出入り口を設けた。以前出店した「コモンカフェ」の本がいっぱい詰まった書棚が印象的だったので、この店にも本を置くことにした。

おいしいものいろいろ、体にやさしいランチでおもてなし 「喫茶去」

「厨房にお金、かけすぎました……。後でメンテナンスや清掃などの維持費がかかることまでよく考えていませんでした(笑)。私一人でやっているから、なんとかなっているんだと思います」

店の最大の特徴はなんといっても、井上さん手作りの料理の数々。かつおと昆布で出汁(だし)を取り、米は滋賀県産無農薬栽培の「大吉米」の玄米と分づき米を用意。食材もできる範囲内で無農薬や有機栽培のものを揃(そろ)え、体にやさしい食事を心がけている。

日替わりランチはたっぷりの野菜、白味噌(みそ)を使った味噌汁、定番の自家製ごま豆腐をはじめとした小鉢類に、メイン料理のセット。他にも、小麦粉を使わないスパイスカレーやおにぎりセットなどを用意。豆乳を使ったチーズケーキをはじめとしたスイーツ類も、もちろん自家製だ。

おいしいものいろいろ、体にやさしいランチでおもてなし 「喫茶去」

「ちょっとずついろんな食材を食べるのが体にいいと思っているので、そこをいつも意識しています」

小鉢類に至るまで、たくさんのおかずを用意するのは大変だが、原価を気にしつつも、日々工夫を凝らしている。当日朝にメニューを決めるのもよくあるという。

「前の日にお客さんに『明日のランチは何?』って聞かれたら、『豚肉かな。でも、ええお魚があったらお魚にするかもしれません』って感じで返事してます。それでもお客さんは来てくれる。みんなめっちゃいい人ばかりで」

おいしいものいろいろ、体にやさしいランチでおもてなし 「喫茶去」

好きなものが詰まった本棚

温かみのある関西弁で元気いっぱいにしゃべる井上さんの人柄のなせる技か、来店客とはすぐ顔見知りに。しかも多くの人が井上さんのことを何かと気にかけてくれるという。

「お客さんが多い時に手が回らなかったら、カウンターまで料理を取りにきてくれたり、『もしなかったら、これ使い』ってアルコールジェルを持ってきてくれたり、コロナでお客さんが減ったのを心配してか、わざわざうちまでお弁当買いに来てくれたり……。近所付き合いみたいです」

ところで、本棚を見るとその人が見えるというが、店の本棚はまさに井上さんの好きなものと人生がまるごと詰まったような感じだ。デザインの勉強をしてきたので美術書や写真集が多めで、茶道と料理と旅行が好き。好きな作家は椎名誠、群ようこ、宮部みゆき、平岩弓枝などで、その人の作品は全部網羅するタイプ――。

おいしいものいろいろ、体にやさしいランチでおもてなし 「喫茶去」

「一度、お客さんに『恥ずかしくない?』って言われたことがあります。並んでいる本で自分がまるわかりだって言われて、そういうことかと。でも、どうぞどうぞ見てってください!」

店名の「喫茶去」は、茶席の有名な禅語。習っていたお茶の先生宅の掛け軸に書いてあったのが心に残っていた。

「高校生の頃に、『お茶でも飲んでゆっくりしてってね、って意味やで』ってお茶の先生に教えてもらいました。シンプルでいい言葉だなと思って」

飾り気のない温かさに、ほっと一息つける空間。名は体を表すと言うけれど、この「喫茶去」という店は井上さんのおもてなしの心そのものなのだろう。

■大切な一冊

『おちくぼ姫』(著/田辺聖子)

美しい容貌(ようぼう)を持った、貴族の姫の物語。実母亡き後、畳の落ちくぼんだ陋屋(ろうおく)に住まわされ、意地の悪い継母から召し使い同然の扱いを受けていた、そんなおちくぼ姫が、青年貴公子と恋に落ち……。千年も昔の日本で書かれたシンデレラ物語。
「私がはじめて読んだのは学生の頃。ずっと持っていたのに忘れていて、同じ本をもう1冊買っていました。落ちくぼんだところに住んでいるお姫様が見初められて、最後には『あー、楽しかった!』って思える話。私は怖い話や後味が悪い話は苦手で、楽しい気分で終わりたいから、この小説が好きなのかもしれません。お客さんにもよくお勧めしています。今でも店が暇なときに読み返しています」

おいしいものいろいろ、体にやさしいランチでおもてなし 「喫茶去」

BOOK&CAFE喫茶去
大阪府大阪市西区京町堀2丁目13-76
https://www.instagram.com/book_cafe_kissaco/

>>写真の続きは画面下のギャラリーをご覧ください

(写真・太田未来子)

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    PROFILE

    吉川明子

    兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
    https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
    https://note.mu/akikoyoshikawa

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    2代目店主は編集者 映画と本を楽しむバー「ワイルドバンチ」

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