上間常正 @モード

和服の直線裁ちの理念を、洋服に。「ロペ ラ リーニュ」の試み

数回前のこのコラムで、ロペの派生ブランド「ROPÉ ÉTERNEL(ロペ エターナル)」の残布を利用した限定版プロジェクトを紹介したが、同じロペの派生ブランド「ROPÉ LA LIGNE(ロペ ラ リーニュ」)が、エターナルとはコンセプトは全く違うが、やはりファッションの新たな可能性を示すような服作りを目指していることを知った。

和服の直線裁ちの理念を、洋服に。「ロペ ラ リーニュ」の試み

「ROPÉ LA LIGNE(ロペ ラ リーニュ」)の新作展示会

どんなやり方が新しいかといえば、和服の形をそのままで現代風にアレンジするのではなくて、直線(リーニュはフランス語で線の意、ラは定冠詞)という和服の理念で洋服を作る試みだということだ。

その理念とは、ロペの言葉でいえば「直線からはじまるストーリー」。和服は直線栽ちで構成されていて、どんな体形の人にも合い、またこの裁ち方で特有のドレープからさまざまな表情の展開(物語)が生まれる、ということになるだろう。すべてシーズンレスで、1サイズ。タイプはドレス8、トップス4、ボトム3種。その組み合わせで三つの展開の可能性を提案している。

たとえば「おりがみ」のシリーズは、トップスとスカートの組み合わせで折り紙のように色々な形を作れば、その日の気分に合わせたアレンジができる。ウェスト脇から出ている布をそのまま垂らしておくとリラックス感のある部屋着に、前後を結ぶとちょっとドレッシーな外出着になる。スカートのひもを裾の高さが違うように結べば流れるようなドレープが出て、ドレッシーさがより強くなる。また襟(えり)回りが何通りでも着られるようにデザインされていて、前後どちらを前にしても着られるようになっている。

和服の直線裁ちの理念を、洋服に。「ロペ ラ リーニュ」の試み

「おりがみ」スカート、トップスとも19,800円(いずれも税込み)

「せせらぎ」は、浅瀬を流れる水の音がテーマ。ドレスだけでも布が波のような光の陰影を生み出す。こちらも襟回りが前後どちらにも着られるようになっていて、肌寒い時期にはトップスやレギンスの上に羽織るオーバーコートとしても使えるという。

和服の直線裁ちの理念を、洋服に。「ロペ ラ リーニュ」の試み

「せせらぎ」ドレス31,900円、トップス24,200円(いずれも税込み)

「ほしあい(星合)」のテーマは、年に一度の牽牛(けんぎゅう、ひこぼし)と織女(しょくじょ、おりひめ)の二つの星の逢瀬(おうせ)。色が同じだが印象の違う二つの素材の組み合わせで、服にさまざまな表情が生まれる。

和服の直線裁ちの理念を、洋服に。「ロペ ラ リーニュ」の試み

「ほしあい」トップス22,000円、ドレス30,800円(いずれも税込み)

「ひとえ」は浴衣のように裏地がついておらず、襟を抜いて着るパターンになっている。ボタンがついていて留め方によって、シャツドレスのようにもカシュクールブラウスのようにもなる。

和服の直線裁ちの理念を、洋服に。「ロペ ラ リーニュ」の試み

「ひとえ」シャツドレス29,700円(税込み)

顧客のターゲットはオーバー50歳だが、ロペのクリエイティブディレクター久保まゆみさんは、「シニアといわれてもピンとこないおしゃれな女性ですね」と語る。だとすれば、おしゃれな若い女性なら着こなすことができるとも言えるだろう。現代の和服の基本形となっている小袖は、そもそもエイジレスでかつジェンダーレスなのだ。

ラ リーニュの服は渋谷東急プラザでも売られているが、基本的にはオンライン販売。三井住友カード株式会社によるコロナ影響下の消費行動リポートによれば、オンラインショッピングを利用する高齢者の増加率は20、30歳代よりも大きいのだという。「人口の半分以上がシニアになっているのに、認識が追い付いていない」と久保さん。

数十万年前に生まれたホモ・サピエンスとしての人間は、服(入れ墨やアクセサリー類を含む)と言葉によって生き延びてきた。人間はあらゆる動植物の中で、生まれながら身に備わった生存能力が劣っていて、それらなしではいられなかったのだ。

幸か不幸か、服と言葉の能力はどんどん発達して、服は世界各地の民族服となった。そして言葉による科学技術の発達は近代以後のグローバルな大量生産・消費社会を生み出し、地球環境に破局的な事態をもたらした。科学技術のさらなる発達で持続的な経済発展を取り戻せるのではとの見方もあるが、まだその成功例はまったく見えていない。

現代のファッションは、大量生産・消費と深く結びついてきた。人がサルとほとんど変わらない生活をしていた長い期間を経て、数万年前ごろから近代以前までは、世界各地で気候・風土に応じて、必要なだけの少量生産でも緩やかな経済発展ができた時代が続いた。

民族服にはその中で培われた知恵や美的感覚がたくさん詰まっている。新型コロナウイルスのせいでより明らかになってしまった危機的な状況をなんとか打開していくためには、ファッションが民族服を深く見直して、ラ リーニュのように具体化して現代の〝洋服〟に応用してみることが大きな力になるのではないかと思う。

PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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