ほんやのほん

失恋しても、叱られても。お腹がすくことの愛おしさ

失恋しても、叱られても。お腹がすくことの愛おしさ

撮影/馬場磨貴

『わたしを空腹にしないほうがいい』改訂版

今回は、歌人くどうれいんさんの『わたしを空腹にしないほうがいい』改訂版をご紹介致します。くどうさんと言えば、『うたうおばけ』(書肆侃侃〈しょしかんかん〉房)でご存じの方も多いのではないでしょうか。

私がこの本に出会ったのは、実は随分と前のことになります。その頃はくどうさんのことを全く知らず、ただタイトルと本のサイズに惹(ひ)かれたことを覚えています。巻末を開いてみると、くどうさんの紹介に「短歌」という文字を見つけて、「なるほど、この本は短歌の本なんだ」と、ろくに内容も読まずに棚に戻した記憶があります。

それからも、本屋に立ち寄る度に出会う本。好きな本屋の店主が仕入れたのだから良い本に違いないと思いつつ、あまのじゃくな気持ちも芽生えてきて、どこにでもあるようだからいつか買おうと思って過ごしていました。

ある日、吉祥寺の本屋に立ち寄った際に、もう何度目だろうか……という出会い。これはもう買いましょうね、という合図だと思い、ようやく購入となりました。

2016年の6月から約1カ月、日記形式でつづられた「食」にまつわる日常。それはくだらないことや情けないことだらけなのに、振り返ればなぜかとてもドラマチック。生きていれば誰しもに起こりうるであろう出来事が、ありのままに格好つけずにつづられていることに、愛(いと)おしさを覚えます。

タイトル通り、空腹になるだけで怒りだしたり、突然悲しくなったりしてしまうという、くどうさん。冒頭にこんな一文があります。

生きている限りかならずお腹(なか)がすいてしまうことを、なんだかとっても不思議で可笑(おか)しく思います。

しごく当たり前のことが書かれているのに「本当にそうだなあ」と妙に納得。例えば、失恋してどん底のときも、こてんぱんに叱られてもう立ち上がれないのではというときも、いつも通りお腹はすきます。そんな場合ではないでしょう……という場面でも、「ぐ~」とお腹が鳴るものだから、更に情けなくなったりして。シーンのひとつひとつが、彼女の言葉のセンスで切り取られていくことで魅力を増し、前へ前へと読み進めたい気持ちを引っ張っていってくれます。

何よりも魅力的なのは、くどうさんが食べることが大好きなのだと伝わってくることです。食事をしているときの描写が、とにかく幸せいっぱいで最高です。同じものを食べてみたい、同じお店に立ち寄ってみたいという、わくわくした気持ちにさせてくれます。

改訂版を記念して巻末には「おかわり対談」なるものが掲載されています。対談のお相手は、前回のデザインを手がけた「毛蟹(ケガニ)」さん。もうお一方は、盛岡でフリーランスの料理家をされている吉田玲奈さん。

私は勝手に、くどうさんはおっとりマイペースな方ではないか……と想像していたのですが、この対談を読めば驚く方が多いのではないでしょうか。詳細は読んで頂いてからのお楽しみに。

(文・大川愛)

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    大川 愛(おおかわ・あい)

    柏の葉 蔦屋書店、食コンシェルジュ。
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