このパンがすごい!

まるで赤ちゃんのほっぺ。もっちもっちの先にある、ハムチーズサンドの真価/Le fournil 木もれび

近代的な駅ビルと古い商店、国分寺崖線の自然が不思議な同居を見せる国分寺。駅から歩けど歩けど住宅ばかりつづき、やっと「木もれび」を発見したとき、「こんなところに」という言葉が思わず漏れるかもしれない。

オープンは2013年。「最初の1年半はお客さんが来なくて暇で暇で。こんなに来ないものなんだなって」と、田中浩一シェフと妻の麻里さんは笑いあう。

木もれびを「発見」するのはむずかしい。いろんな意味でそうだ。住宅街の奥というだけではない。パンの見かけは極めてオーソドックス。飛び道具的なパンがあるわけでもなく、一口食べて「うまい!」と跳び上がるわけでもない。ただ、どのパンももちもちしている。もっちもっちと噛(か)んで、小麦の甘さがじょじょに広がって、パンの波長にチューニングが合ってきたとき、はじめておいしいとうなずく。

「ハムチーズサンド」がまさにそう。白パンの中にハムとチーズがはさまっている。赤ちゃんのほっぺたのようなやわらかい生地を噛んで噛んで、やっとたどり着くハムチーズの塩気が、燎原(りょうげん)の火のように燃え広がり、小麦のおいしさに火が付く。そうなればもう小麦の旨(うま)みの独壇場。鮭(さけ)や梅干しの味でお米のおいしさを味わう、おにぎりのバランスに限りなく近い。

まるで赤ちゃんのほっぺ。もっちもっちの先にある、ハムチーズサンドの真価/Le fournil 木もれび

「作るものはシンプル。見た目は地味だけど、食べていくと『おいしい』ってなるようなものばかり。僕と奥さん、2人の好みがそうなんですよね」

そんなこの店のラインナップで「売り」となるものはなにか。田中シェフは「おすすめを聞かれたら食パンと答えてきました」と言う。

「もち麦ブレッド」もある意味で隠れている。ただのもっちりではない。生で食べると、そばがきのようにねっとりして、舌に吸いつくが、それだけでは終わらない。本領を発揮するのは、トースト。耳はひと噛みでざくざくと崩壊、香ばしい麦の粉と化す。中身は舌の上でみるみるとろける。砂糖だけで、油脂も卵も入っていないから、小麦のニュートラルな味わいがあふれまくる。

まるで赤ちゃんのほっぺ。もっちもっちの先にある、ハムチーズサンドの真価/Le fournil 木もれび

もち麦ブレッド断面

岩手県産小麦「もち姫」の力。もち米のようなもちもちする性質を持つこの特別な小麦を使用。前日から仕込んでたっぷり水分を吸わせ、圧倒的な口溶けを作りだす。

そんな中、「自家製カレーパン」は例外的なド派手さ。といっても市販のルーは使わないので、あくまでさわやかでナチュラル。それだけに、野菜の甘さ、風味がものすごい。さらに、強めのスパイス感、ひき肉のコク。それらの「俺が俺が」という面々をまとめあげるのは、ごくプレーンな生地。長い余韻を引いてカレーの風味と長く並走し、最後には小麦の甘さがまさって辛さを癒やしてくれる。

まるで赤ちゃんのほっぺ。もっちもっちの先にある、ハムチーズサンドの真価/Le fournil 木もれび

自家製カレーパン

木もれびを発見させてくれるものとは、ときにドリンクとのペアリングだったりする。国分寺駅近くのロースター「Life Size Cribe」。あくまで焙煎(ばいせん)をメインに置くこの店の、コーヒーのお供として、木もれびの角食を使ったメニューが供されている。

「AZUKI butter」はいわゆるあんバタートースト。一口食べたのちドリップコーヒーを口へ注ぎいれると、風味が爆発した。ローストによって極限まで引き出されたコーヒー豆の香りと、あんこの香りがクロス。ほろ苦さや酸味は、角食のミルキーさが包みこむ。もちもちとパンを噛む時間は、わくわくへの発射台となる。

まるで赤ちゃんのほっぺ。もっちもっちの先にある、ハムチーズサンドの真価/Le fournil 木もれび

Life Size CribeのAZUKI butter

木もれびが世間に発見されることがなかった最初の1年半。「次のお客さんが来るまで30分も話していくお客さんがいて(笑)。内心、『時間大丈夫かな?』って焦っていたんですけど(笑)。でもそんなお客さんが、うちのことを広めてくれたんですよね」と麻里さん。

ぎらぎら輝くものだけがパンではない。木もれびのようにぽかぽか明るく、ちょっと幸せな気持ちにしてくれる。日常を静かに照らす、そんなパンもある。
 

Le fournil(ルフォーニル) 木もれび
東京都国分寺市本多5-22-6 APセダン 1F
042-325-7569
8:00~18:00
月・火曜休
「Le fournil 木もれび」のFacebook

Life Size Cribe
東京都国分寺市本町3-5-5
042-359-4644
11:00~20:00(ドリンクLO 19:30、フードLO 18:00)
火曜休及び不定休
「Life Size Cribe」のFacebook
 

>>写真をもっと見る ※写真をクリックすると、拡大表示されます

「Le fournil 木もれび」から寄り道 近くのお店

  • “行列店で出会った八朔りんごのパイ……その衝撃を一言でいうなら!/パン屋志茂

    “行列店で出会った八朔りんごのパイ……その衝撃を一言でいうなら!/パン屋志茂


    東京都・国分寺市

  • 改札出て数十秒! 十勝の食材をふんだんに使用するベーカリーが東京に/ムギオト

    改札出て数十秒! 十勝の食材をふんだんに使用するベーカリーが東京に/ムギオト


    東京都・国立市

  • パンの耳がまるでクッキー 毎日食べ続けたい角食パン/アカリベーカリー

    パンの耳がまるでクッキー 毎日食べ続けたい角食パン/アカリベーカリー


    東京都・国立市

  • 夫婦でつくるパンと器のおいしい関係/パンと器 yukkaya

    夫婦でつくるパンと器のおいしい関係/パンと器 yukkaya


    東京都・府中市

  • 住宅街でかくれんぼ、まるで絵本のなかのドーナツ屋さん/ハグジードーナツ

    住宅街でかくれんぼ、まるで絵本のなかのドーナツ屋さん/ハグジードーナツ


    東京都・多摩市

  • >>まとめて食べたい!「このパンがすごい!」記事一覧

    >>地図で見る

    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

    情熱のパン屋、故郷で新章へ。娘と考えた待望のメロンパン/かいじゅう屋

    一覧へ戻る

    夢のような絶景パン屋。海に臨む丘で、至福のたまごサンドを/パンといす

    RECOMMENDおすすめの記事