高山都の日々、うつわ。

#30 「うどん」じゃなくて、「おうどん」

この間、仕事仲間と話していたときのこと。
「昨日ちょっと風邪っぽくて、“おうどん”作ったの」
そのひと言で、関西の人だとわかって笑った。

うどんに「お」をつけるのは、関西だけなのだろうか?
とにかく大阪の実家ではうどんは「おうどん」だったし、
粥(かゆ)になると「お粥さん」と「さん」付けまでしてしまう。

小さな頃は当たり前で、なんとも思わなかったけれど、
大人になって東京で長く暮らしていると、
懐かしいその呼び方を耳にするとホッとする。

子どもの頃、風邪気味で食欲がないときは、
よく母が「おうどん作ったろか?」と言ってくれた。
その優しい声色と、心細さがすっと消える感覚。

そういうあたたかい思い出が
「おうどん」という響きの中にあるせいか、今でも
疲れたり、気落ちしたりするとうどんが食べたくなって、
誰もいない台所に立ってネギを取り出し、
「はぁ、おうどんでも作ろ……」とつぶやく。

#30  「うどん」じゃなくて、「おうどん」

#30  「うどん」じゃなくて、「おうどん」

我が家のおうどんは、鰹や昆布の出汁(だし)は使わない。
疲れたり、体調がすぐれないときに食べるものだから、
そんな面倒なことをしている場合じゃない、というのもある。

材料は鶏肉と長ネギ、生姜(しょうが)、塩、酒、みりん。
千切りにした生姜をごま油で炒めて、
香りが立ったら斜め切りにした長ネギも入れ、
しんなり、甘みが出るまで炒める。

そこに小さく切った鶏肉も加えて少し炒め、
たっぷりめに酒を入れて煮る。
すべての材料からいい出汁が出て、
あとは水を加え、塩とみりんで味を調えれば十分。

スープを煮込むときは、グラグラと煮立てないで
水面がゆらゆらと揺れる程度に、静かに。
最初に出るアクさえ取れば、
ほったらかしでも透明の、澄んだ鶏スープができる。

茹(ゆ)でたうどんにスープをかけて、食べる。
体に染み渡るとは、こういうことを言うのだと思う。
生姜のおかげでポカポカとあたたまって、
そのままストンと寝てしまえば、だいたい大丈夫。
翌朝にはケロっと元気になってしまう。

#30  「うどん」じゃなくて、「おうどん」

#30  「うどん」じゃなくて、「おうどん」

余ったスープは一食分ずつ冷凍してストック。
仕事で夜遅く帰宅したときに重宝するし、
何より、また突然の不調のときに助かる。
おうどんは、私にとっての養生食なのだ。

体や心がずっしりと重いとき。
誰もいない部屋にひとりでいると泣きたくなる。
「おうどん、作ったろか?」と言ってくれる人は、もういない。
東京でひとりで働き、生きていくというのは
なかなかどうして、パワーがいる。
だからこそ、自分で自分を元気付ける、
「養生する」ための知恵が欠かせないんだ。

そういえば先日、このおうどんにぴったりの、
青みがかった白の小どんぶりを贈ってもらった。
上品な佇(たたず)まいだけれど、丸みを帯びた形で、
ここに白いおうどんが入ると、なんとも優しい。

自分で使うのもほっとするけれど、
今度は心や体が冷えてしまった誰かのために
「おうどん、作ったろか?」
そう、声をかけてあげたいなとも思っている。

#30  「うどん」じゃなくて、「おうどん」

今日のうつわ

teto ceramicsの小どんぶり

陶芸家の石井啓一さんが主宰するteto ceramicsの器は、普段使いしやすいシンプルな形やデザインでありつつも、土の手触りやあたたかみを感じられます。この小ぶりなどんぶりは友人にプレゼントしてもらったもので、白の中にかすかに青みを感じられる上品さがすてき。麺類やどんぶりなど、小食な人が食べるにはちょうどいいサイズ感も気に入っています。

     ◇

写真 相馬ミナ 構成 小林百合子

PROFILE

高山都(たかやまみやこ)

モデル。1982年、大阪府生まれ。モデルやドラマ、舞台の出演、ラジオ番組のパーソナリティーなど幅広い分野で活躍。フルマラソンを3時間台で完走するなどアクティブな一面も。最近は料理の分野でも注目を集め、2作目となる著書『高山都の美 食 姿2』では、背伸びせずに作る家ごはんレシピを提案。その自然体なライフスタイルが同世代の女性の共感を呼んでいる。

高山都の日々、うつわ。

丁寧に自分らしく過ごすのが好きだというモデル・俳優の高山都さん。日々のうつわ選びを通して、自分の心地良いと思う暮らし方、日々の忙しさの中で、心豊かに生きるための工夫や発見など、高山さんの何げない日常を紡ぐ連載コラム。

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