book cafe

2代目店主は編集者 映画と本を楽しむバー「ワイルドバンチ」

15年前、大阪・天神橋筋六丁目にブックカフェ「ワイルドバンチ」が誕生した。店主は映画館主などを務めた庄内斉(ひとし)さん。店の名前は敬愛するサム・ペキンパー監督の西部劇から取った。自身がこよなく愛する映画、音楽、古書、酒といった要素を詰め込んだ空間には、庄内さんの人柄の良さも相まって、連日多くの映画や音楽、本好きが集まったという。関連イベントも頻繁に開催され、文化や情報発信の拠点でもあった。

だが、庄内さんは2015年7月に67歳でこの世を去る。その後も、「店をなくすのは惜しい」と、有志が交代で店に立って不定期で営業を続けたが、継続はなかなか難しいものだった。そんな中、2018年5月、関西発の映画情報サイト「キネプレ」編集長の森田和幸さん(39)が店主に名乗りを上げ、リニューアルオープンを果たした。

「昔、広告代理店で働いていたのですが、その時に自主映画を制作したり、映画のフリーペーパーを作ったりしていた流れで、ネットに移行したのが『キネプレ』でした。本はもともと好きでしたし、編集プロダクションでの仕事に関わっていたことも。もっと言うと、大学時代の3年半、バーテンダーもしていたので、この店の要素である映画、本、お酒に関わりがある僕ならしっくりくるのではないかと思ったんです」

そう話す森田さんは、庄内さんが営んでいた頃の店の客でもあった。自分たちが作ったフリーペーパーを店に置かせてほしいとお願いしたのがきっかけで店に通うようになったという。

2代目店主は編集者 映画と本を楽しむバー「ワイルドバンチ」

「先代はサム・ペキンパーの西部劇や、高倉健や菅原文太が出演していた東映の任侠映画が好きだったので、そういう映画が好きで、先代と同年代のお客さんが多かったですね。いろんな人が集まって文化的な話をしているこの空間に憧れのようなものがありました」

変えなかったことと、変えたこと

森田さんが店長になって、変えなかったことと変えたことが一つずつある。変えなかったのは、「映画・音楽・本・酒・イベント」というこの店の構成要素だ。

「お酒じゃなくてノンアルコールドリンクでもいいのですが、これらの要素が掛け合わさることで得られる相乗効果があります。映画好きの人が集まって会話を楽しむことにとどまらず、ここから新しい文化が生まれるという機能は変えるべきではないと思いました」

逆に変えたのは、今の時代や若い世代に合わせた店構えにすること。かつては先代と同年代の客が多く、若い世代にとっては少々入りづらい店だった。そこで、20~40代の人たちが入りやすい雰囲気作りを心がけた。

まず着手したのは、本棚。かつては店内の入口側半分にずらりと本棚が並び、古本屋のような造りだったが、本棚を減らして真ん中に大きなテーブルを置き、客が語らいやすいようにした。森田さんが店長になった当初は約1万冊の古書が残っていたものの、映画や音楽とは全く関係ない本も少なくなかった。そこで他ジャンルの本を処分し、品揃(ぞろ)えも見直した。

2代目店主は編集者 映画と本を楽しむバー「ワイルドバンチ」

「先代の店には少なかった映画パンフレットを増やし、知り合いの映画ライターに声をかけてプレスシート(マスコミ向けに配る映画の広報資料)を寄贈してもらいました。あと、映画化された漫画の原作コーナーも作りました。店にある本の大半は販売もしています」

ただ、営業中は店内の照明を落としているため、せっかくの本が見えにくいという難点がある。新型コロナウイルス感染拡大前は日中もカフェ営業をしており、その時間帯なら明るい照明で本も読みやすかったのだが、現在は夜のバー営業のみ。それを逆手に取り、スマートフォンの明かりを頼りに、宝探しのように本を探すのがおすすめだ。

店内の随所に、会話のきっかけを

また、「キネプレ」編集長という立場を活用し、映画の宣伝会社から映画の予告編映像を提供してもらい、店内のスクリーンやテレビで流すことにした。宣伝会社にとっては公開予定の映画のPRになり、客にとっては、次に見る映画を見つけるきっかけになる。店内で流す音楽も、さまざまな映画で使われたものをセレクトするこだわりぶりを見せる。

「サウンドトラックをそのまま流すのではなく、普通の音楽なんだけど、映画を観た人が聴けば、『あ、あのシーンでかかってたよね』と、お客さん同士の会話のきっかけになるような選曲を意識しています」

2代目店主は編集者 映画と本を楽しむバー「ワイルドバンチ」

特に森田さんが力を入れているのは、イベントだ。現在はスペース貸しはしておらず、内容はすべて森田さんが企画。コロナの影響で、以前のように頻繁に開催できずにいるが、様子をみながら少しずつ増やしている。短編のサイレント映画にピアノの生演奏を付けた「キネピアノ」、朗読者や俳優たちが絵本を臨場感たっぷりに読み聞かせる「ハードボイルド 絵本」、関西のクリエイターを招いたトークイベント「食っていく、という話をしよう」、「キネプレ」の人脈を生かし、宣伝会社や映画関係者を招いたトークイベントなど、内容は多岐にわたる。

「イベントはこの店を知らない人が足を運ぶきっかけになるので、積極的に開催しています。あと、意識して平日夜にイベントを行っています。平日夜にも楽しみがあると、1週間頑張れそうな気がするから」

2代目店主は編集者 映画と本を楽しむバー「ワイルドバンチ」

森田さんが店長を引き継いでから2年が過ぎた。コロナ禍で思うようにいかないことも少なくないが、先代の思いを忘れることなく、関西では珍しい映画や文化発信の拠点として、活発化させたいという気持ちに変わりはない。

「『キネプレ』の編集長やって、イベントを企画して、バーテンダーやってと大変なことばかりですが、僕自身も楽しみたいし、同じように楽しんでくれるお客さんはいるはず。ここに来たお客さん同士の交流から何かが生まれるとうれしいですよね」

2代目店主は編集者 映画と本を楽しむバー「ワイルドバンチ」

店主の森田和幸さん

■大切な一冊

『ジブリの哲学 ―変わるものと変わらないもの―』著/鈴木敏夫

スタジオジブリ代表取締役プロデューサーのドキュメントエッセー。世界中の人々を魅了するアニメーション映画をどのように創ってきたのか? さまざまな人との出会いや大好きな映画を観てきた日々、プロデューサーとしての「戦略」……。ものづくりのたのしさと熱い思いが詰まった一冊。
「鈴木さんの著作は『ジブリの哲学』や『仕事道楽』なども読んでいますし、取材で1回お会いしたことがあります。店にあるサインはその時描いていただいたものです。鈴木さんはもともと雑誌の編集者で、自分で映画を作ったりしながらプロデュースする側に回っていったので、僕の経歴に通ずる部分もあって尊敬しています。鈴木さんの著書から感じられるのは、公私混同ぶり。自分自身が楽しんでやり、周りの人も“お祭り”に巻き込んでいくタイプで、読むと刺激になるし、元気をもらえます。だから、定期的に読み返しているんです」

2代目店主は編集者 映画と本を楽しむバー「ワイルドバンチ」

ワイルドバンチ
大阪市北区長柄中1-4-7 ロイヤルグレース1F
http://www.cinepre.biz/wildbunch

>>写真の続きは画面下のギャラリーをご覧ください

(写真・太田未来子)

※連載「book cafe」は隔週金曜配信となりました。次回は、30日(金)の配信です。

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    PROFILE

    吉川明子

    兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
    https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
    https://note.mu/akikoyoshikawa

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