『82年生まれ、キム・ジヨン』もヒントに~誰もが生きやすい未来を探るイベント「アナタのミライは、ワタシのミライ」PR

対談

対談する清田隆之さんと田房永子さん、ファシリテーターの辻川舞子「&」編集長(右から)=朝日新聞東京本社

女性が生きやすい社会は誰にとっても生きやすい。でも現実にはたくさんの女性たちが生きづらさを抱えている。暮らしや意識の”当たり前”を見つめ直すことで、みんなの明るい未来につながるかもしれない――。そんな思いから始まった朝日新聞デジタル「&w」の特別企画「アナタのミライは、ワタシのミライ」。編集部は9月28日、漫画家・田房永子さんと文筆業・清田隆之さんをゲストに、オンラインイベントを開きました。読者40人がパソコンなどでライブ視聴。10月9日から公開される映画『82年生まれ、キム・ジヨン』も大きな話題になりました。熱を帯びたイベントの様子を振り返ります。

身近にある「女性の生きづらさ」

母親との葛藤を描いたコミックエッセー『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)などを上梓してきた田房さんと、『よかれと思ってやったのに――男たちの「失敗学」入門」(晶文社)などの著書がある清田さんが対談。「&」の辻川舞子編集長がファシリテーターを務めました。

家事や育児、夫婦や親子関係……。田房さんと清田さんには本企画で、自らの体験などを踏まえ、女性の生きづらさの背景にある「呪いの言葉」と解決策である「解毒法」を計10回、漫画と文章で描いていただきました。この日の対談でも、2人は身近に感じた「女性の生きづらさ」から語り始めます。

田房さんは、5歳違いの2児の子育て真っ最中。最初の子どもを授かった頃と比べ、2人目を産んだ後は「お父さんが1人で子どもを連れているのを見かけるようになった」と話します。近年、男性が積極的に育児に関わるようになり、「風景が変わった」と語る一方、自身が妊娠中、電車の優先席を譲ってくれたのは子連れの人だけだった、と振り返ります。「子育て世代やそこに関わる人たちの意識は、個人レベルでは変わりつつあると感じる」ものの、「子育て層と、育児と接点のない層との意識の距離は、あまり変わっていないと思う」と話しました。

一方、やはり2児の父親でもある清田さんは、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表として、これまで1200人を超える女性から恋愛話を聞いてきました。耳を傾けるうちに、ある気づきを得たといいます。男性が「よかれ」と思って女性にしたことが、かえって女性を苦しめるケースがあるというのです。清田さんはその背景に、強い同調圧力を伴った「男同士の絆」(ホモソーシャル)や、無自覚な「女性嫌悪」(ミソジニー)の問題が潜んでいると説明。田房さんの体験談も踏まえ、男女の平等や差別解消に向けた法律や制度は進みつつあるけれど、まだまだ「岩のように固い(男社会の)構造が残っている」と述べました。

共感指数の高い映画『82年生まれ、キム・ジヨン』

なぜこうした「男社会」は変わらないのでしょう。

1986年に「男女雇用機会均等法」、1999年には「男女共同参画社会基本法」が施行されます。性差に基づく差別や不平等は、少なくとも制度的には改められてきたはずです。一方で、記憶に新しいところでは、セクシュアルハラスメントに女性たちが抗議の声をあげた「#MeToo」ムーブメントが起こり、欧米だけでなく、日本や韓国といったアジア圏にも広がっていきます。

ほぼ同時期の2016年、韓国で出版され、130万部を超えるベストセラーになったのが、映画の原作小説『82年生まれ、キム・ジヨン』でした。日本でも2018年に翻訳が出版され、大きな話題に。韓国で2019年に映画化されると、再び社会現象を巻き起こします。家事や育児、仕事、義理の親との関係……。「キム・ジヨン」という平凡な30代の女性を主人公に、彼女が現在と過去に体験した「女性が抱える生きづらさ」を緻密(ちみつ)に、余すところなく描いています。

映画を見た田房さんは、正月に夫であるデヒョンの実家に帰省したジヨンが台所に立つシーンなど、義母との関係に苦しむ描写に「リアリティーがある。”嫁”という立場の人が感じる孤立した心理状態が分かりやすく表現されていた」と語りました。ジヨンは結婚・出産をきっかけに仕事を辞め、家事と育児に追われる日々を送るうち、孤独を深めていきます。デヒョンは、くたびれたジヨンに休むよう促すなど、「優しい男性」のように描かれていますが、自身の母が持つ攻撃性には無頓着で、妻へそれが向かないように配慮するといったところにまでは思いが至りません。「デヒョンの立ち回りはまったくなっていない。突っ込みどころがたくさんある」と田房さん。

清田さんも、「アルバイトをしたいというジヨンに対し、休みなよとデヒョンは言うが、ジヨンの苦しみの背景には(家事・育児だけでなく)社会とも関わりたい、という思いがある。ゆっくり休みなよ、というのは逆方向のケア。男性が言ってしまいがちな言葉で、悶々(もんもん)としながら映画を見た。多くの女性が体験したエピソードが盛り込まれていて、女性にとっては共感指数が高く、男性にとっては学ぶところの多い映画だと思う」と話します。

キム・ジヨンの映画の場面

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「生きづらさ」から逃れるための道しるべは?

制度的には男女平等が進みつつあるのに、多くの男性の意識はそれについていけていない――。2人の対談から、「男社会」が抱える問題の根深さがしだいに浮き彫りになっていきます。女性を苦しめる「呪いの言葉」の背景に、こうした「男社会」があるのだとしたら、一朝一夕に変えることは難しそうです。では、明るい未来へ向けた「解毒法」はないのでしょうか?

「男性は勇気をもって、女性の叫びや異議申し立てをのぞき込んでほしい」と清田さん。デヒョンのような「優しい男性」でも、女性を苦しめる構造に気づけていない。だから、まずは女性に尋ねてみる。女性が発信しているSNSや『82年生まれ、キム・ジヨン』のような作品に触れる。そうしたことが「自分自身について知るきっかけになり、(男女の)関係性を円滑にする。それが未来につながる一つの道ではないか」と語ります。

田房さんは「周りの人を軸に物事を考えるのではなく、自分の中から湧き上がってくるものを大事にすること」を挙げました。「他人に迷惑をかけるかどうか」といった視点で何かを判断するのではなく、自分の内側にある思いを大切にすることこそが「男女ともに重要だ」と言葉に力を込めました。

映画や対談を踏まえ、読者からはSNSを通じてたくさんの声が寄せられました。「女性であるが故の理不尽さや諦めというのはおそらく誰しもが経験し、だからこそ共感できる部分が多かった」「『君のため』や『大丈夫?』という言葉は逆に相手を傷つける時もあるのだと改めて思った」「これこそ男性に観(み)てほしい作品」といった感想。さらに、「(男女が)お互い理解しようとする姿勢があればよりよくなるのかな」「(嫁姑や男女の)辛(つら)い関係は終わりにして、今後少しでも良くなってほしい」などの意見も。

最後は田房さん、清田さん、読者が一体となり、誰もが生きづらさから解き放たれる未来への希望を感じさせ、イベントは幕を閉じました。

(文・撮影 &編集部 河井健)

『82年生まれ、キム・ジヨン』10月9日(金)全国ロードショー

韓国で2019年に公開された大ヒット作品。チョ・ナムジュが手がけた原作小説を映画化した。平凡な一人の女性「キム・ジヨン」を主人公に、現代の女性たちが抱える「生きづらさ」を描いた原作は、2016年に出版。多くの共感を呼び、130万部を超える大ベストセラーになった。日本でも2018年に翻訳が出版され、社会現象に。映画のメガホンをとったのは本作が長編デビュー作となるキム・ドヨン監督。自身も2児の母親であるキム監督は、繊細な演出が評価され、「韓国のゴールデングローブ賞」と呼ばれる「第56回百想芸術大賞」の新人監督賞を受賞した。人気と実力を兼ね備えたチョン・ユミがジヨンを、コン・ユが夫デヒョンを演じている。ヒット作への出演が続く2人は、これが3度目の共演で、初の夫婦役。日本では2020年10月9日(金)から、新宿ピカデリーほかで全国ロードショーされる。

 

あらすじ
1982年生まれのキム・ジヨンは、夫デヒョンと2歳の娘と暮らしている。ある年の正月、家族とデヒョンの実家に帰省したジヨンは、突然、義母に向かって「ジヨンを実家に返してください」と話し出す。それはまるで、ジヨンに実母が乗り移ったかのような口ぶりだった。
デヒョンはしばらく前から、ジヨンが時々、同じような言動をすることに気づいていた。だが、ジヨンにはその時の記憶がなく、妻を傷つけるのではないかと案じたデヒョンは、なかなか切り出すことができずに、一人で精神科医に相談に行っていたのだ。
大学卒業後、企業で働いていたジヨンだが、結婚・出産を機に退職。家事と育児に追われるうちに、社会から切り離されたような孤独感を抱くようになっていた。振り返ると、ジヨンの半生には、常に「女性であること」に由来する生きづらさがともなっていた。
高校生の頃、男子生徒につきまとわれた際は、「危険な目に遭うのは本人の不注意のせいだ」と実父に叱責(しっせき)された。なかなか就職先が決まらなかった大学時代にも、やはり父から「家でおとなしくして嫁に行け」と言われたことがある。卒業後、念願かなって働き出すが、お茶くみをさせられる一方、同僚の男性のようには希望する仕事を与えてもらえない――。
家庭に閉じ込められ、悩みを深めるジヨンのもとに、以前の女性上司から、再就職の話が持ち込まれる。独立した元上司が、自分の会社で一緒に働かないかと誘ってくれたのだ。乗り気になったジヨンだが、娘の預け先が見つからず、義母にも激しく反対されて……。平凡な30代の女性が抱えた孤独、葛藤、絶望と、その先にかすかに見えた希望を描いた感動作。

 

CAST
公式HP:http://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/
監督:キム・ドヨン
出演:チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン、コン・ミンジョン、キム・ソンチョル、イ・オル、イ・ボンリョン
配給:クロックワークス

 

50年前に描いた未来の理想郷? イラストレーター真鍋博の眼

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