インタビュー

withコロナ時代も、音楽は響く。クラシックとの新たな関係

コロナ禍が大きな影を落とす音楽界。コンサートの舞台に立てない中で、気鋭の若手音楽家は何を思い、聞き手にどうアプローチしようとしていたのか。今後、音楽はどこへ向かっていくのか。伝統的クラシックを様々な方法で発信しているピアニストの金子三勇士さん(31)と指揮者の水野蒼生さん(26)が、音楽と人々との新たな関わりについて対談した。(司会・構成 柏木友紀、撮影 西畑志朗)
 

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withコロナ時代も、音楽は響く。クラシックとの新たな関係
(ジャパンアーツ提供)
©Ayako Yamamoto

金子三勇士(かねこ・みゆじ) ピアニスト

1989年、日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。バルトーク音楽小学校、11歳でハンガリー国立リスト音楽院大学入学、全課程を終え2006年に帰国。東京音大付属高校に編入、同大を首席で卒業、同大学院修了。08年、バルトーク国際ピアノコンクール優勝。国内外の交響楽団と共演するほか、NHK・FM「リサイタル・パッシオ」の司会や映画「蜜蜂と遠雷」のピアノ演奏など多方面で活躍中。オンライン配信「みゆじックアワー」Vol.3を10月13日に予定。

 

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(ユニバーサルミュージック提供)

水野蒼生(みずの・あおい) 指揮者

1994年生まれ。ザルツブルク・モーツァルテウム大学を首席で卒業。ハンガリー国立ブダペスト歌劇場管弦楽団などを指揮。クラシカルDJとして2018年、ドイツの名門レーベル・グラモフォンから初のクラシック・ミックスアルバムをリリースしデビュー。今年3月、2枚目の「BEETHOVEN Must It Be? It Still Must Be」を発表。ベートーベンをエレキ弦楽器やシンセサイザーなどのバンド編成で収録。

 

舞台に立てなくなった、そのときに

――芸術活動がこうも厳しくなるとは……。

水野 2月頭のフランス・ナントでの音楽祭を最後に、全く舞台に立つことができなくなりました。3月末にベートーベンをエレキ弦楽器などで演奏した2枚目のアルバムをリリースし、ライブやプロモーションを予定していましたが、すべてキャンセル。ショックでした。自分が観客としてコンサートを聴きに行くこともできない。ただ家にいて、ストレスがたまる。言葉にできず、何に怒りをぶつけていいかわからない。

金子 音楽イベントは早い時期から自粛対象となり、我々誰しもが衝撃を受けました。でも、僕は心配しませんでした。こんな時にこそ、芸術家には人々から求められるものがあるはずだと。クラシックは長い歴史があり、偉大な音楽家が残してくれた作品は、戦争や疫病や革命や自然災害など、様々なことを乗り越えて生き抜いてきたのです。それをどう受け継いでいくかですね。

――新たな発信を試みていらっしゃいますね。

金子 ヒントはふるさとであるハンガリー出身の音楽家フランツ・リストにありました。ピアノリサイタルを世に広めたことで知られますが、ピアノを馬車に乗せて広場に運び、弾き出したら人が集まったのが始まり。彼がゼロから作ったように、私もやろうと。

6月に信州上田の野外ステージでコンサートを開きました。オンラインで音楽番組風のライブ配信も始めた。トーク番組のように司会をしてゲストをお招きし、演奏する。お客様が書き込んだコメントに、その場で答えるライブ感。ふたを開けてみたら自分の負担がかなり大きかったのですが(笑)。

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対談する指揮者の水野蒼生さん(左)とピアニストの金子三勇士さん=2020年9月17日、東京都新宿区

水野 5月の大型連休恒例となった東京国際フォーラムでのクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)」が中止になり、代わりにインスタグラムでのDJライブを3日間、自室からお送りしました。いつもとは違う緊張感。普段はオフモードの環境で、「オン」にする難しさはありましたが、連日200人超が生で見て、拡散してくれました。ラジオにリモートで出演し、ネット上で思いもつづりました。

金子 定額制の音楽配信サービスでプレイリストを作りました。外出自粛のなか、皆さんが聴きたい音楽は何だろう?と、悩みました。静かな夜想曲が聴きたい、いや重厚なマーラーの交響曲がいい、と聴きたい音楽は人それぞれ。結局は自分がいま聴きたいものをお届けしました。

聴いていただくことで、少しでも奏者や音楽関係者をサポートできればと、ジャンルを超えて吹奏楽団のディズニーメロディーなども。それがきっかけで「花は咲く」をリモートで合奏することにもつながりました。普段は競争心がありがちな業界ですが、一緒に頑張りましょうと。

水野 僕はクラシックというと一部ではヒーリング音楽と捉えられるのが嫌だったんです。あらゆる感情、喜怒哀楽があるのに。でも今回、人を癒やす力を再認識し、ヒーリングのプレイリストを作りました。順番で聴くと一つの物語が構成されるように。

何をもって「ライブ」というのか

――クラシック鑑賞のスタイルが変わりそうですね。

水野 ライブ配信の方がお客さまとのコミュニケーションが活発。これまでステージと客席に二分されていたのが、ネットを介しおしゃべりできて存在がとても近い。お客さまの声をガッツリ聞ける機会は貴重です。コロナ後も生かせるツールだと思います。一方で「何をもってリアル、ライブというのか」というのが分からなくなって来ました。ネットなら地球の裏側にいる人とだって、その瞬間を共有できるし。

金子 会場で演奏するだけがライブなの?ということにたどり着きますよね。オンライン活動を躊躇(ちゅうちょ)するアーティストもいますが、オンラインで聴く機会があれば「やっぱり生も聴きたい」となるし、僕はオンラインだからできる挑戦をしたい。求められている時に届けないのは、音楽家として罪の域に入ると思う。

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ピアニストの金子三勇士さん

――お二人のような存在によって、クラシックが身近に感じられそうです。

金子 クラシックには変な高い壁があるんだなと感じます。これをしなきゃ、しちゃいけないとか考え過ぎる。長い曲を聴くと、眠くなることもあると思います。それだけリラックスしておられるということ。怒って帰ったりしませんよ、とお伝えすると、お客様の笑顔が増えていく。

水野 マナーで構える方はすごく多いですね。張り詰めた空気というか、高尚なことを言わなきゃいけないとか。でも僕は指揮していて、最終楽章が終わってからもらえる拍手より、途中の楽章で思わずした拍手がうれしい。純粋に感動してくださったわけなので。

金子 自分がクラシックを演奏している、と意識したことはないです。バッハやショパンを弾くとは思っても。作曲家自身も、これがクラシックだと思って書いてはいないと思う。

水野 モーツァルトはあの時代のキング・オブ・ポップでしたし、ベートーベンも「第九」の初演時は、お客さんが立ち上がり歓声を上げて演奏が聞こえなくなったくらいのロックスターでしたから。クラシックと呼ばれる中にもピアノから管弦楽、オペラまで様々で、また時代も幅広く、一つのジャンルとして捉えることは難しいんです。

生の演奏会も、オンラインも

――欧州で音楽教育を修めたお二人に、東京の音楽シーンはどう映りますか。

水野 都内にプロのオーケストラは九つもある。そんな街は世界中どこを探してもない。そして独自のカルチャーがある。クラシックをモチーフにした『蜜蜂と遠雷』とか『のだめカンタービレ』とか、ドラマ、映画にも僕らは大きな影響を受けた。

なのに業界がクローズドなせいで、本来のエネルギーを発揮できていない。見せ方や方向を少し変えれば、もっと力を持つはず。手軽にお祭り気分で楽しめる「ラ・フォル・ジュルネ東京」に僕が毎年通って、育てられたように。恩返しをしたい、もっと楽しもう、とクラシカルDJを試みています。

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指揮者の水野蒼生さん

金子 これだけの数のホールで世界中のアーティストを生で見られ、刺激にあふれる街。でも、まだ出会えていない人も多い。ハンガリーでは、学生証があれば無料で劇場の空いている席に座らせてくれた。構えることなく、若者が気軽にコンサートにきて素朴な感想を口にする。

日本で率直な意見を聞こうとしたら、小学生までさかのぼる必要があります。僕は小学校での普及活動が好き。華やかな明るい曲を弾いて、「作曲家がつらい時に書いたの?」と言われたりしてね。

――アフターコロナ、音楽はどうなりますか?

水野 今までのスタイルに戻すのではなく、インスタライブも生の演奏会も、うまくすみ分ける時代になっていく。両方の価値を認知してもらう活動をしていかなくては。

金子 広島で久しぶりの公演の後、サイン会ができない代わりにツイッターで感想を募集したら、率直で面白くて。お客様は生のコンサートと、オンラインとを自然と分けて楽しんでくださる。我々は一人でも多くの方にいい音楽を届ける。そこは変わらない。

乳がん経験 副作用の脱毛、友の支えとメイク研究で乗り切った/料理家・栗原友さん

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