花のない花屋

友達と呼べるのは1人だけ だけど私は最高に幸せ者だ

全国農業協同組合連合会(全農)では、新型コロナウイルスによる大きな影響を受けた花の生産者を支援する取り組みを行っています。その一環として、連載「花のない花屋」にご協力いただきました。

あなたの「物語」も、世界で一つだけの花束にしませんか? エピソードの応募はこちらから。

千代裕子さん(仮名) 60歳 女性
兵庫県在住
自営業

    ◇

私は息子たちから冗談半分に「陰キャ」などとバカにされることがあります。それは交友関係が広く活発な息子たちに比べて、私には1人しか友達がいないからです。

彼女の名前は藍子ちゃんといいます。私はそのたった1人の最高の友人へ、花束を贈りたいのです。

息子たちと違って、私の学生時代は地味で、共学なのに男の子と話したことなんてなかったし、彼氏もいませんでした。高校1年の時、藍子ちゃんと同じクラスになりました。自然と気が合い友達に。クラスが別々になってからも、休み時間にお互いの教室にお邪魔するほど仲が良くなりました。

高校を卒業後も、藍子ちゃんとだけはよく遊びました。ところがお互い結婚してからは、私は兵庫へ、彼女は京都へ引っ越し、その後は会うこともなくなってしまいました。

それでも、年賀状のやり取りだけはずっと続けていました。毎年、「今年こそは会いたいね」と言葉を添えて。

ですが、お互い同じ頃に子どもが生まれ、子育てと仕事、忙しい日々を過ごしていたため、会う機会は訪れませんでした。

時は流れ、50歳になった年。年賀状とは別に、藍子ちゃんが富士山の絵はがきを送ってくれました。私たちは20歳の時、一緒に富士山に登ったのです。送られてきたのは、その時に一緒に買った絵はがきでした。

この絵はがきがきっかけで、私から電話を掛け、約20年ぶりに会うことに。待ち合わせは2人の中間地点の神戸駅。お互いに顔が分かるか不安でしたが、改札を出てみると、すぐに懐かしい姿に気がつきました。自然と高校時代のあだ名で呼び合い、話は尽きることがありませんでした。「来年も会おうね」と約束し、それからは日帰りで京都を案内してもらったり、奈良へ行ったり。私も彼女も高校の同窓会には顔を出さないのに、「2人だけの同窓会」は年に1回、続いています。

お互い子どもが就職や進学などで手を離れ、夫も定年退職し……と環境が似ていたことも、大きかったかもしれません。

今年は再会して10年、そしてお互い還暦を迎えます。初めて1泊旅行の計画を立てていましたが、コロナの影響でまだ会えていません。「同窓会」はだいたい春先でしたが、今回は11月ごろに上高地へ行く計画を立てているところです。

自分の息子たちのような交友関係が広い人にあこがれる気持ちもあるけれど、還暦を一緒に祝えるたった1人の友がいることが、私にとっては最高の幸せです。

藍子ちゃんはガーデニングが趣味。一緒に行ったハーブ園で購入したラベンダーを、私は枯らしてしまったのですが、彼女の庭ではまだ咲いているそうです。ずっと友達でいてくれた感謝を込めて、ガーデニングをイメージした花を贈って喜んでもらいたいです。

友達と呼べるのは1人だけ だけど私は最高に幸せ者だ

≪花材≫アメジストセージ、ミシマサイコ、デルフィニウム、レースフラワー、ソバの花、ローズマリー、ナズナ、マウンテンミント、アセボ

花束を作った東さんのコメント

高校で出会って、還暦になってもお友達とは。素敵ですね。一緒に買ったラベンダーを庭で育てていらっしゃるということでしたので、ハーブが入っているナチュラルな花束になっています。これまで花束を囲むグリーン(葉っぱ)にハーブを入れることはありましたが、今回は花にも取り入れました。紫の飛び出ているのがアメジストセージ。他にもローズマリー、それにマウンテンミント。ピンクの細かい花はソバの花。白の細かい花はレースフラワーで、黄色いのがナズナ。淡いピンクはデルフィニウムです。下のグリーンはアセボ。野に咲いている、ナチュラルなイメージでまとめました。香りも良くて、見ても楽しめます。いつまでも仲良く、「同窓会」を楽しめますように。

花のない花屋

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花のない花屋

(写真・椎木俊介)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

友達と呼べるのは1人だけ だけど私は最高に幸せ者だ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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