MUSIC TALK

ハンバート ハンバート コロナ禍で気づいた「愛は、そこかしこに満ちている」

3年ぶりのオリジナルアルバムをリリースした夫婦デュオ、ハンバート ハンバート。さまざまな「LOVE」が彩る1枚は、新型コロナウイルスの感染が止まらない不穏な世界に、ときに温かく、ときにポップに、ときに涼やかに響く。新譜のこと、さらに自粛生活、音楽やライブへの思いを、佐藤良成さん、佐野遊穂さんが語る。(文・中津海麻子 写真・馬場磨貴)

アルバム制作に打ち込んだ自粛期間

――自粛期間中、どのような日々を過ごしていましたか?

佐藤 年明けから恒例のクラブクアトロライブを大阪、名古屋と開催し、2月27日、28日の2日間、ファイナルが東京でした。新型コロナウイルスの感染が徐々に広まりつつあり、東京公演は急きょカメラを入れて生配信も。いつもはこのあと地方をまわるのですが、予定していた年内のライブはいったんすべてキャンセルになりました。

佐野 当初は「しょうがないよね」ぐらいの気持ちでしたが、どうも長引きそうだと。そうこうしているうちに3月末から3人の子どもたちの学校が休校になり、毎日三度の食事の支度をしながら子どもの勉強も見て……。

佐藤 寺子屋みたいだったよね。

佐野 4月に末っ子が1年生になったのですが、入学式があっただけで休みに突入しました。学校から課題が出たものの、そもそも座って勉強した経験なんてないので「宿題ってなに?」(笑)。それを教えることから始めないといけなくて。

佐藤 あんなに家族が四六時中一緒に過ごしたのは初めてで、慣れない生活に追われる感じはあったね。ただ、ハンバート ハンバートとしては、これまでも創作活動のほとんどは自宅でやってきたので、そういう意味では何も変わりませんでした。ライブはできないけれど、その分アルバム制作に時間をかけることができた。

佐野 少し気持ちが落ち込んだ時期もあったけれど、アルバムの制作に救われましたね。何もやることがなかったらもっと不安になっていたかもしれません。

ハンバート ハンバート コロナ禍で気づいた「愛は、そこかしこに満ちている」

佐野遊穂さん

――ライブすることが当たり前だった日々が一変し、感じることはありますか? 改めてお二人にとってライブとは?

佐藤 22年間音楽活動をしてきて、こんなにライブをしないのは初めて。戸惑いがないと言えばうそになりますが、今回のコロナ禍に関しては世界中のミュージシャンが等しくライブができなくなった。もし自分たちだけだったらヘコんだかもしれないけど、みんな大変なんだからしょうがないな、と。ただ、どんどんライブの勘が鈍っちゃいそうなのは心配です。まぁ、それも僕らだけじゃないわけで。

むしろメンバーの多いバンドに比べたら、うちは普段とあまり変わりない。自粛中にミュージシャンがSNSに歌をアップして盛り上がろうというイベントがあり、バンドの皆さんはメンバーが離れたところでリモートで演奏していて大変そうだったけれど、うちは同じ家に住んでいるので、通常のフルバージョンでお送りできました(笑)。

佐野 メンバーが少ないのはこういう時に強いなって(笑)。とはいえ、やはりライブに代えられるものはない、とも。ライブでお客さんからもらうエネルギーが私たちの力になっていたのに、それが受け取れない。また、新しいアルバムを作る時には1曲か2曲ライブで先行して披露し、お客さんの反応を見ることで曲の立ち位置がはっきりして曲が自分たちのものになっていく。それができないのは大きいですね。

あとは現場感。制作スタッフとのチームワークはとても大事で、このチームの中に入ると「仕事してる!」という実感がある。スタッフのみんなと会えなかったのはつらかったし、すごく支えられていると改めて感じました。

ハンバート ハンバート コロナ禍で気づいた「愛は、そこかしこに満ちている」

佐藤良成さん

新作に通底するテーマ「LOVE」

――自粛期間中に完成した「愛のひみつ」は、3年ぶりのオリジナルアルバムです。

佐藤 去年、ライブ音源を使ったバラードベスト「WORK」を出した時点で、次はオリジナルアルバムを作ろうと動き始めていて、去年の秋ごろには曲もだいたいはできていました。本来はツアーの合間にレコーディングする予定でしたが、コロナの影響でぽっかりと空いてしまったので、むしろ時間をかけてじっくり取り組むことができた。

佐野 生活の中で気持ちがめいることはあったけれど、歌うことに関してはそういったものは一切入ってきませんでした。1曲録音するのは山を登るようなものなので、目の前にそびえ立つ山でいっぱいいっぱいで、雑念が入り込む余地はない。その感覚はこれまでと変わらなかったですね。

ハンバート ハンバート コロナ禍で気づいた「愛は、そこかしこに満ちている」

10月21日にリリースしたニューアルバム「愛のひみつ」

――テーマは「LOVE」。

佐藤 普通ですよね(笑)。ただ、ハンバート ハンバートとしてはこれまであまり押し出してこなかったかもしれない。僕らはいつも何かを伝えようと曲やアルバムを作ることはありません。作った曲を並べてみて、そこに通底するものがテーマになる。今回は、それが「LOVE」だった。

実はこの3年、ずっと一緒に歩んできたスタッフが病と闘っていました。残念ながら昨年、彼は旅立った。その影響は大きかったと思います。私小説ではないので実際の出来事を描いたわけではないし、何かメッセージを込めようと思ったわけでもない。ただ、この3年の間に自分の中から出てきた言葉や情景が詩になり、メロディーになった。それがおのずと「愛」だったんだと思います。

佐野 先ほども触れましたが、ライブではお客さんからたくさんのエネルギーやメッセージをもらい、それに対して何か、愛のようなもので応えたいとは思うものの、愛は言葉にするのが難しいし、出そうと思って出せるものでもない。どうしたらいいのかをいつも考えていました。

コロナの影響でライブができなくなり、せめてファンの方々とつながれたらと、「みんなのFOLKへの道」という動画をYouTubeで配信し始めました。自宅の庭で、スマホで自撮りしたものを流しているだけのムービーなのですが、本当にたくさんの温かいコメントをいただいて。こんなに楽しみにしてくれたり必要に思ってくれたりする人たちがいて、その人たちから私たちはエネルギーをもらっているんだと、ライブとは違う形で改めて実感したんです。

愛はつかみどころがないけれど、身近に、そこかしこに満ちている。あえて言葉にしたり、積極的にたくさん出そうとしたり、あるいは引っ込めてみたり、そんなことをしなくてもただそこにあるだけでいい――。そう思えることが愛なのかな、って。コロナは嫌だし収束してほしいけれど、この経験があったから気付けたことのように思います。

いくつもの楽器を一人でこなした理由

――ドラムとベース以外の楽器は佐藤さんがすべて演奏したとか。なぜ一人でやろうと?

佐藤 いつも「こういうものが作りたい」というものが漠然とあって、それは人に伝えようとしても伝わり切らない。僕は、何かを意図的に考えて作るというよりは、自分がいいと思うもの、美しいと感じるもの、もっと端的に言うなら「好き嫌い」の次元で直感的に作っていくので、言葉にして誰かに伝えるのは不可能なのです。それがずっと課題だったので、だったら今回はできる限り自分一人でやってみよう、と。

誰かと一緒にやると、自分だけでは出てこない思いがけないアイデアが生まれたりする。一人だとそういうおもしろさはありません。完成した楽曲がライブでやっていくうちにアレンジが変わり、バリエーションが広がっていくのはとてもいいことなのですが、しかし、最初に聴いてもらうのは僕自身がきちんと組んで、組み上げて、納得いくまで試行錯誤して具体化したものである方がいい。そう思うんです。

とはいえ、やってみたら思った以上に大変でした。1曲について5、6個の楽器を演奏し、それが12曲分。単純計算で60~70の演奏をして録音をしました。練習も時間がかかるし、楽器の数が多いので弦を替えるのもひと苦労で……。でも、自粛生活で時間はたっぷりあったので、結果としては充実した音が録(と)れた。すごくいいです!

佐野 (笑)。

佐藤 何がおかしいの?

佐野 自分で言ったなと(笑)。でも、本当にすごくいいです!

佐藤 自分で言った(笑)。

佐野 バラエティーに富んでいるし。

佐藤 そうだね。曲を並べてみて足りていないパーツは新たに作りました。なので、アルバム全体として一つの世界観を呈しながら、色々な「LOVE」を表現できていると思います。

ハンバート ハンバート コロナ禍で気づいた「愛は、そこかしこに満ちている」

コロナの今だからこそ、できること

――コロナ禍という苦境にある今、音楽やエンターテインメントについてどんな思いを抱いていますか?

佐野 コロナの影響でライブができない、ライブに行けないという状況は確かに苦しいけれど、でも一方で、さまざまな事情でこれまでライブに行けなかった人が、もしかしたら配信のおかげで初めてライブを楽しめたかもしれない。実は先日、「12人の優しい日本人」の舞台がZoomで配信されていて、それを家族そろって観劇しました。俳優さんたちがリモートで演技して、でもそれを感じさせないように上手に作られていて。子どもたちも大爆笑。小さい子どもを劇場に連れていくのはなかなか難しいので、とてもいい経験になりました。大変なときだからこそ、できる経験、生まれる文化もあるのかなぁと感じたのです。

佐藤 それはそうだね。閉園するとしまえんで8月に開催した僕ら初の無観客ライブ「グッバイ! としまえん」も、初めてのことだったし、目の前にお客さんがいないと反応がわからなくて不安な部分はあったけれど、楽しかったし、すごくいい経験になった。

そもそも僕らは誰かに頼まれて音楽をやっているわけじゃなく、好きだからやっている。だからたとえエンターテインメントが苦しくても、人々から求められなくなったとしても、僕らは変わらずに音楽をやり続けていくと思います。

ハンバート ハンバート コロナ禍で気づいた「愛は、そこかしこに満ちている」

無観客ライブ「グッバイ、としまえん」(撮影:後藤渉)

――これからのハンバート ハンバートは?

佐藤 やっぱりライブ、やりたいですね。

佐野 やりたい!

佐藤 状況を見ながらですが、まずはリアルと配信の合わせ技で届けていきたいと思っています。

    ◇

ハンバート ハンバート
1998年結成、佐藤良成(さとう・りょうせい)と佐野遊穂(さの・ゆうほ)によるデュオ。2人ともがメインボーカルを担当し、フォーク、カントリーなどをルーツにした楽曲と、別れやコンプレックスをテーマにした独自の詞の世界は幅広い年齢層から支持を集める。芥川賞を受賞したお笑い芸人・又吉直樹氏がファンであることを公言するなど、クリエーターからの評価も高い。映画「包帯クラブ」(堤幸彦監督)、「プール」(小林聡美・もたいまさこ出演)で劇中音楽や主題歌を担当し、「シャキーン!」「おかあさんといっしょ」などの子ども番組、人気アニメ「この素晴らしい世界に祝福を!」にも楽曲を提供。話題を呼んだCMソング「アセロラ体操のうた」を始め、現在もミサワホーム、パリミキ/メガネの三城などのCMが多数オンエア中。2020年10月21日、10枚目のオリジナルアルバム「愛のひみつ」をリリースした。
ハンバート ハンバート公式サイト:http://www.humberthumbert.net/

【ライブ情報】
ハンバートハンバート歳末公演「愛のふしぎ」
場所:東京・LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
日時:2020年12月26日(土)17:00開場 18:00開演、12月27日(日)16:30開場 17:30開演
詳細はこちら

【関連記事】
>>みんなでセッション! ハンバート ハンバートの「ブルースハープ教室」
>>ハンバート ハンバート流、働き方改革。新譜は『フジ三太郎』とコラボ

PROFILE

中津海麻子

執筆テーマは「酒とワンコと男と女」。日本酒とワイン、それらにまつわる旅や食、ペット、人物インタビューなどを中心に取材する。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、ワイン専門誌「ワイン王国」、朝日新聞のブックサイト「好書好日」、同ペットサイト「sippo」などに寄稿。「&w」では「MUSIC TALK」を連載中。

「ステージに立ち続けると心に決めて」 シーナ&ロケッツ 鮎川誠さん(後編)

一覧へ戻る

RECOMMENDおすすめの記事