インタビュー

卵巣・卵管を切除するという選択。子どもや自分の人生のため、がんに備える/料理家・栗原友さん

2019年5月、左胸にしこりをみつけた料理家の栗原友さん(45)。検査で乳がんとわかり、両乳房の全摘手術を受けました。その後、悩んだ末に抗がん剤治療を受け、前回のインタビューではそのときの体験を語ってくれました。

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今回は、がんの検査と同時に受けた遺伝子検査と、その先のお話。「遺伝子検査やがん保険の大切さを話したい」と、&wの取材に応えてくれました。(聞き手・&編集部 岡田慶子、インタビュー撮影・馬場磨貴)

いまの胸、気に入っています

去年、がんの検査と同時に遺伝子検査も受けました。乳がんや卵巣がんになるリスクが高いことがわかり、左胸の全摘出手術と同時に右胸の予防切除もしました。それと一緒に両胸の再建手術もしたので、いまは両胸に生理食塩液のパックが入っています。

いまの胸、本物より気に入っています。前は、はと胸で左右の胸が寄っていたから、少しでも胸元が開いている服を着ると、谷間が目立って周りの視線が気になっていました。だから両胸の間をあけて、こういう形の胸にして欲しいってオーダーしたら、先生がその通りに作ってくれて。いいのができたと思います。鏡で見ても、きれいな胸~って。

日常生活では、破裂しないよう負荷がかからないように気をつけていますが、あとは何にも変わらないです。手術したての頃はカップ付きのキャミソールばかり着ていたんですけど、あれって体形が崩れるんですよね。ちゃんとブラジャーをしたいなって思って、最近はノンワイヤのものを着けて少しずつ楽しむようにしています。

卵巣・卵管を切除するという選択。子どもや自分の人生のため、がんに備える/料理家・栗原友さん

普通なら、術後6カ月くらいでパックをインプラント(シリコン)に入れ替える2回目の再建手術をするんですが、私の場合、使うはずだったインプラントがリコールになってしまった。先生に「入れ替えの手術、少し先延ばしになってしまう」と言われ、私も「そうですか」という感じで。あれこれ素人が調べても、ネガティブな言葉がみつかって気分が落ちてしまうし、それなら信頼できる先生が言うことを信じよう、と思いました。

コロナの影響で、2月と3月は通院がなくなり、担当の先生たちが電話をくださいました。「どう最近は?」「まだあなたはそんなに急ぐ必要ないから、もうちょっと落ち着いたらまた病院に来て。来週の診察は延期ね?」って。薬もリモートでした。欲しい薬を先生にメールして、かかりつけの処方箋(せん)の薬局に先生がFAXで送ってくださり、それを取りに行っていました。

あとは、ひたすらトレーニング。通っているパーソナルジムのトレーナーがオンライン動画を送ってくれたのでそれをこなしたり、ジョギングをしたり。ジョギングは大の苦手なんですけど、「ジョギングしないと気持ち悪い」という風になってみたいなーと思って。たまにトランポリンもしています。間違えて大きいのを買ってしまったので、置き場に困っているんですけど(笑)。

防げなくても、備えることはできる

10月頭に新しいインプラントが出て、今月、胸の再建手術を受けることになりました。2、3年待つかなと思っていたので、思ったより早くてラッキー!という感じです。

インプラントも、いろんな形があるんですよ。しずく型とか、おわん型とか。横向きで寝そべったとき流れるか流れないか、とか。私は実物を触りながら、先生にそれはこうだけどこういうリスクがある、と全部教えてもらって。どれを選んだか忘れましたが、決めるのは結構早かったので先生たちが「決断力あるね」って言っていましたね。

同時に、がんの予防のために卵巣と卵管を摘出します。先生に勧められたのと、2回目の胸の再建手術と一緒に受ければ手術費も1回分で済むし、さっさとやってしまおうと思ったからです。

がんがみつかったとき、不妊治療をしていました。抗がん剤治療の時点で生理も止まってしまったし、年齢もあって2人目のことはそこでもう諦めがつきました。

卵巣・卵管を切除するという選択。子どもや自分の人生のため、がんに備える/料理家・栗原友さん

栗原さんの誕生日パーティーで。娘の朝ちゃんと=2020年6月、栗原友さん提供

もし血縁にがんになった人がいたら、遺伝の相談には行ってもいいと思います。それで備えられることがいっぱいあるので。子どものこともそうですし、これからの自分の人生もそうだし、数カ月先、数年先のことも。防ぐことはできないけど、備えることはできますよね。

知らない間に手遅れになって、「ああ、私はまだこんなことがしたい」「もうちょっとあれをやっておけば、長く生きられたのにな」というよりは、早い段階で見つかってまた日常生活に戻れた方が断然いい。

今年4月からは、予防切除も保険適用になりました。やっぱりお金の問題は大きいので、とてもいいことだと思います。

娘に「行ってくるわ」

がん保険も、入った方がいいですよ。ちょっと飲み代を削れば保険代も出せるじゃないですか。私はたまたま告知の1年前、二つの保険に入っていたんです。保険会社に勤めている知り合いに全部見直してもらって。娘の学資保険から自分の仕事の保険、従業員の保険まで、全てやってもらいました。

本当に入っていてよかった。だって、すぐにお金が下りるんですよ。通帳を見て「うわあ~、すっごくお金持ちになった」って思ったくらい(笑)。友達に「手術終わったら、イタリア旅行に行かない?」って言ったら、その人も乳がんを経験していて「いや、この後すっごくお金かかるから使わない方がいいよ」って。抗がん剤治療やウィッグなどで本当にあっという間になくなりました。少しだけ手元に残ったんですけど、うちの猫が悪性リンパ腫で末期がんになってしまって。猫の治療費で消えてしまいました。

卵巣・卵管を切除するという選択。子どもや自分の人生のため、がんに備える/料理家・栗原友さん

三浦海岸の友人宅で。「抗がん剤でむくみ、体重が激増して悩んでいた頃に比べ、だいぶ痩せました」=2020年9月、栗原友さん提供

いまは毎日忙しいです。手術してからしばらくは体を休めたいから、やれることはやっとかなきゃと思って、外食をしたり、仕事を片付けたり、娘を連れてアスレチックに行ったり。今回はおなかも切るし、胸の脇ももう一回切るから、しばらくは体を動かせない。いまのうちに筋力を上げとこうと思って、週に2、3回はトレーニングをしています。

新しいお店もオープンしました。「クリトモ商店」という鮮魚店です。コロナの特別貸付が始まったときに考えたんです。金利が低かったりしばらく無利子だったり、いまが大きいことをするタイミングかもって。

身の回りのことは、うちは夫婦共働きかつ2人とも昼夜逆転なので、みなさんの参考にならないのが残念だなと思いますが、我が家の場合は、私が入院しちゃったら子どもを保育園に送ってくれる人がいません。夫は深夜に出勤するので、娘を1人で寝かせるわけにもいかない。保育園が休みのときも仕事があるので、前回は大親友に頼りました。

卵巣・卵管を切除するという選択。子どもや自分の人生のため、がんに備える/料理家・栗原友さん

家族旅行で金沢へ。「これから忙しくなるし、いろんな所へ行こう」と旅行が増えた=2020年7月、栗原友さん提供

今回もまた、娘を預かってくれることになっています。娘には寝る前のおしゃべりで、「また入院するんだ」と伝えました。今回は私もそんなに気が重くない。期間も短いし、まあ2回目だし、もう今生の別れみたいに大泣きしてさよならすることもないだろうし、気楽な感じで「行ってくるわ」と。娘は寂しいけど、親友とまた生活するのが楽しみみたいですよ。ご褒美に欲しいもの買ってもらえるって知っていますし。

すべて最悪を想定して

去年と今年はたまたまいろんなことが重なって、人生でわりと大きいことをやっている年ですよね。人生で初めて店を作って、人生で初めて大きい借金をして、人生で初めてがんが見つかった。

がんだとわかったとき、「私に限って……」と思いましたけど、私にもこういうことが起きるんだと気付いてからは、全部最悪のことを想定して備えるようにしています。

希望は一切持っていません。もう一回がんになるかもしれないと思ってるし、卵巣を切除して病理検査に出したらまたがん細胞があるんじゃないかなと思っています。もしがん細胞があったら、またすぐ予定を組まなければいけないから、そのつもりでいます。だって、がんになったのもそう。ステージは初期ではないだろうな、悪性度も高いだろうな、遺伝子検査をしたらたぶん遺伝子変異がみつかるだろうな、予防切除した方の胸にもきっとがん細胞があるだろうなっていうのも、全部そうでしたから。

卵巣・卵管を切除するという選択。子どもや自分の人生のため、がんに備える/料理家・栗原友さん

混ぜそば店「クリトモ式」のオープン初日=2020年6月、栗原友さん提供

自治体のマンモグラフィー検査ってありますよね。ああいうのは絶対積極的にやった方がいいです。

みんな「マンモグラフィーが痛い」って言いますけど、痛いのなんてほんの数分。「痛いから検査が怖い」「がんが見つかったらと思うと、受けられない」という相談を受けることがありますけど、じゃあ何のための検査なの? 早期発見に越したことはないんじゃないですか? そう思ってしまいます。みんな、どこかで自分は大丈夫って思っているから、「痛いからやりたくないんだよね」って言っちゃうんですよね。

でも、胸はちぎれないから! ちなみに私は痛くなかったです。痛みって人それぞれだから、痛いって聞くから怖くてやりたくないって思うんだったら、自分が痛いか痛くないか確かめてみては? ……こんなこと言ったら怒られるかな。

卵巣・卵管を切除するという選択。子どもや自分の人生のため、がんに備える/料理家・栗原友さん

築地場外市場に鮮魚店「クリトモ商店」をオープンした=2020年10月24日、岡田慶子撮影

いま、手術後のニセコ旅行を予約しようとしています。昨年、抗がん剤治療が終わった直後に友達とスキー旅行に行ったとき、誘われてやってみたら面白くて面白くて、また来年も行きたい!って思いました。あと、ゴルフ熱も再燃しています。退院後すぐに練習を再開できるように、先日クラブを新調したんですよ。

栗原友(くりはら・とも)
1975年生まれ、東京都出身。料理家。母は料理家の栗原はるみさん、父は元キャスターの故栗原玲児さん。弟の心平さんも料理家。37歳で築地の水産会社に飛び込み、魚料理についてつづった&wの連載コラム「クリトモのさかな道」が、『クリトモのさかな道:築地が教えてくれた魚の楽しみ方』(朝日新聞出版)として出版されている。現在、水産会社経営、コンサルティングやメニュー開発などで活躍中。

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