高山都の日々、うつわ。

#32 冬の花

キンと冷えた朝の空気。
外に出てすぐは身震いしてしまうけれど、
走り出すと体がだんだんあたたまってきて
顔に触れる風が心地いい。
冬の気配を感じるこの季節が、とても好きだ。

猛スピードで駆け抜けた夏が終わり秋も過ぎ、
気づけば木枯らしが。
いつも力がギュッと入っていた体も
徐々に緊張がほぐれてきて、
生活にもいつものリズムが戻ってきた。

日課のランニングも時間を気にせず、ゆっくりと。
帰り道には少しだけ遠回りして、
いきつけの花屋に顔を出してみる。
こんなふうに寄り道するのも、いつぶりだろう。

自分のために花を買って家に飾る。
それは暮らしが健全なリズムを保っているかどうかの
バロメーターだと最近思っている。

忙(せわ)しく過ごしていると、
ふと気づいたら花がしおれてしまっている。
もっとひどいときは花を買う余裕もなくて、
家の中はとても殺風景。

#32 冬の花

#32 冬の花

ここ数カ月はまさにそんな状態で、
「自分が生きることだけで精一杯(いっぱい)」という感じ。
そんな毎日は刺激はあっても、安らぎがなく、
ちょっとしたことで落ち込みがちだった。

久しぶりに寄った花屋には、
立派な枝ぶりの木々もたくさん揃(そろ)っていた。

そうだ、ずっと前に大きな花瓶を買ったのに
忙しさにかまけてしまったままになっていたっけ。
深いブルーの北欧のフラワーベース。
その佇(たたず)まいを想像しながら、店内を見て回る。
ささやかなことなのに、ものすごく心が躍る。

目に止まったのが、真っ赤な実をつけたローズヒップ。
くねくねと曲がった枝の形が面白くて、
一本だけ、潔く飾ったらシックでカッコよさそう。
そう店主に話したら、「じゃあ長めに切っておくね」と
堂々とした枝ぶりのものを1本、包んでくれた。

家に戻ってシャワーを浴びて、包みを開く。
テーブルの上に置いてしばらく考えてから、
えいと枝を切る。
花瓶に挿して、少し離れて形をチェック。
次は少しずつ、様子を見ながら長さを調整していく。

#32 冬の花

#32 冬の花

何度目かで理想の形になったとき、
「おお~、いいじゃん!」と声が出る。
まったく、ひとりで何をやっているんだかと思うけれど、
この時間が本当に楽しくて、心から好きだと感じる。

たった1本の枝がそこにあるだけで、
部屋の空気はがらりと変わる。
見た目の美しさはもちろんだけれど、
なんというか生活にハリが出て、背筋が伸びる。
毎朝、少しずつ色を濃くしていく赤い実を見ると
季節が移ろっていることを知る。
植物が生きていて、私もまた生きていると感じる。

何かにつまずいたり、行き詰まったりしたとき、
焦って、無理に前に進もうとすることがあるけれど、
こんなふうに、少しだけ寄り道をして、
暮らしにフレッシュな風を入れることも大切なんだ。

花屋の中で包まれた、緑や木々の香り。
久しぶりに手に感じた、枝を切るときの感触。
そして部屋に戻った、季節が動いているという実感。

私にとってそれらは
健やかな暮らしのリズムを取り戻すための
メトロノームみたいなものなんだと思う。

#32 冬の花

今日のうつわ

ホルムガードのフラワーベース

デンマークのガラスウェアブランドの花瓶は、いつか欲しいなと思いつつ、その大きさに腰が引けていたもの。少し前に思い切って買って、「いつか枝ものを生けよう」と思っていたのですが、今回やっと使うことができました。洗練された形と深いブルーがシックで、これがあるだけで部屋の印象がガラッと変わります。枝ものを1本潔く挿してもさまになりますし、かすみ草などをラフに生けてもすてきです。

     ◇

写真 相馬ミナ 構成 小林百合子

PROFILE

高山都(たかやまみやこ)

モデル。1982年、大阪府生まれ。モデルやドラマ、舞台の出演、ラジオ番組のパーソナリティーなど幅広い分野で活躍。フルマラソンを3時間台で完走するなどアクティブな一面も。最近は料理の分野でも注目を集め、2作目となる著書『高山都の美 食 姿2』では、背伸びせずに作る家ごはんレシピを提案。その自然体なライフスタイルが同世代の女性の共感を呼んでいる。

高山都の日々、うつわ。

丁寧に自分らしく過ごすのが好きだというモデル・俳優の高山都さん。日々のうつわ選びを通して、自分の心地良いと思う暮らし方、日々の忙しさの中で、心豊かに生きるための工夫や発見など、高山さんの何げない日常を紡ぐ連載コラム。

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