このパンがすごい!

たまらなくふわふわ。「しっこり」食感もかなえた、至福のパネトーネ/ラ・ポルタ ディ フィオッキ

北イタリア・ピエモンテ料理のリストランテ「フィオッキ」が作る、「生ハムとレタスのパニーニ」。麦と肉のいちばん濃いところを、ぶつかり合わせ、燃えあがらせたようなサンドイッチだ。悔しいほどに、本能的で、快楽的。パンを食べはじめ100年そこらの日本人では到達しえぬ、肉食・麦食民族たるイタリア人の魂が宿る。

自家製のチャバッタに、イタリア・パルマのタナラ・ジャンカルロ社24カ月熟成プロシュート(生ハム)をはさむ。チャバッタのいかつい皮ががしがし砕け散り、その下の生ハムとモッツァレラはぽにょんとたわむ。脂や塩気が突き刺すのではなく、生ハム本来の旨味(うまみ)と風味が麦の香ばしさに出会い、狂おしく高まりあっていく。パニーニの極み。

たまらなくふわふわ。「しっこり」食感もかなえた、至福のパネトーネ/ラ・ポルタ ディ フィオッキ

生ハムとレタスのパニーニ

この10月から、フィオッキのエントランスホールが「ラ・ポルタ ディ フィオッキ」という名のパン屋兼デリカテッセンに変貌(へんぼう)した。食事パンとサンドイッチを合わせ、約10種ほどのイタリアパンが並ぶ。リストランテのシェフとして忙しい日々を送る堀川亮さんが、なぜこれほどの情熱をパンに燃やすのか。

「元来、パンとイタリア郷土料理は一心同体です。なのにリストランテのコースでは、お腹(なか)いっぱいにさせてはいけないので、パンをあまり多く登場させられない。パンが置き去りになっているのです。でも、イタリアでは、食卓にはおもてなしとしてパンが置いてあるべきだというのが一般的な考え。パンは、日本人にとっての白いごはんと同じ原点。楽しいパンがいっぱいあって、バラエティー豊かです」

ラ・ポルタ ディ フィオッキは、堀川シェフが「あれも食べてほしい、これも食べてほしい」と思いながらも、引き出しからなかなか出せずにいたイタリアパンを思う存分披露する場所なのだ。

たまらなくふわふわ。「しっこり」食感もかなえた、至福のパネトーネ/ラ・ポルタ ディ フィオッキ

フォカッチャ

フォカッチャは、私のフォカッチャ観を覆すほどに衝撃だった。かりかりで、ふるふる。皮の表面に塗ったオリーブオイルにはしたたるような旨味があり、絶妙の塩加減とローズマリーの香ばしさがそれを加速させる。中身は、清らかで、みずみずしく、白米のよう。まるで、韓国海苔(のり)でまいて白米を食べているような皮と中身のバランス。

タイミングがあえば、窓際にパネトーネが並ぶ、クリスマスらしい光景に出会えるだろう。堀川シェフはこのパンにとりつかれたように、試行錯誤を繰り返してきた。納得いくものができるまで2年を要したという。

「料理はいくつも答えがありますが、パネトーネの正解は範囲がすごく狭い。そこにたどりつけるかどうかです」

たまらなくふわふわ。「しっこり」食感もかなえた、至福のパネトーネ/ラ・ポルタ ディ フィオッキ

パネトーネ

バターと卵の幸福な香りがあふれる中、ヨーグルトのような乳酸菌の風味が漂い、レーズンからは果汁と洋酒のシャワーがふりまかれる。そこに、柑橘(かんきつ)ピール(山口県・山本柑橘園)の芳香と酸味が加わって、快楽は頂点に達する。食感は、これぞパネトーネというもの。夢のようにふわふわなのに、その中に、ふにっというコシがある。

堀川さんがパネトーネに求めつづけてきた食感が「『しっとり』じゃなく『しっこり』」。パネトーネならではの、1カ月に及ぶ日持ち、縦への強力なボリューム、リッチな風味。これらすべてが「どう生地を作るか」によってつながりあう。

たまらなくふわふわ。「しっこり」食感もかなえた、至福のパネトーネ/ラ・ポルタ ディ フィオッキ

パネトーネ

「なるべくこねずにグルテンをいっぱい作る。生地の中にある“グルテンの部屋”(気泡)をバターでコーティングした状態をどう保つか。うまくグルテンを作ると、生地が(パネトーネの特徴であるたくさんの)副材料を食べていってくれる」

では、リストランテで、パンと料理はどのような関係を取り結んでいるのか。コースの中で、パンが登場する機会は一度しかない。それはここぞというタイミングだった。

堀川シェフが修行していたのは、ピエモンテの奥、アルプス山中にあるレストラン。だからなのか、どの料理にも、冴(さ)えきった森のニュアンスが潜んでいるように思われた。

たまらなくふわふわ。「しっこり」食感もかなえた、至福のパネトーネ/ラ・ポルタ ディ フィオッキ

リストランテ フィオッキで料理とともに供されたパーネ・リュスティカ

「信州サーモンのメッツァコッタとそのイクラ 松茸(まつたけ)を加えたスクランブルのソース」もそうだ。川魚の香りと松茸のさわやかさに合わせられたのは、パーネ・リュスティカ。茨城の安部農園が無農薬で栽培したゆめかおりの全粒粉には竹の皮のような香りがあって、料理といっしょに食べると、森の風景が脳裏にイメージされた。日本とイタリアという距離を超えてテロワールの旅をしているかのような体験。そのとき、パンと料理は「一心同体」だった。
 

ラ・ポルタ ディ フィオッキ
東京都世田谷区祖師谷3-4-9
03-3789-3355
10:00~17:30
水曜休
(リストランテの営業は月・火・土・日曜・祝日の18:30~22:00)
https://www.fiocchi-web.com

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池田さんからのお知らせ

BS朝日「パンが好きすぎる!」(2020年12月6日(日)午後1:00~1:54)に出演します。ゴスペラーズ酒井雄二さんと池田さんが、話題の食パンを食べ、熱狂的にパンについて語り合う番組です。この連載で紹介した食パンや、それ以外にもとっておきの食パンをご紹介します。

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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