上間常正 @モード

ジル・サンダーとユニクロの協作「+J」復活の意味

ユニクロと世界的デザイナー、ジル・サンダーとのコラボレーションライン「+J(プラスジェイ)」が9年ぶりに復活し、11月13日から発売された新作が大きな評判になっている。東京・銀座や名古屋、札幌、福岡などの主要旗艦店では行列ができたり、即日でほぼ完売の状態となったりしたほどだ。自宅近くの東京・仙川の大型店に当日午後から出かけてみたが、Tシャツなどがかろうじて少し残っていただけだった。この人気ぶりはなぜなのか?

+Jが最初に登場したのは、2009年10月。ユニクロの大型旗艦店「パリ オペラ店」が1日にオープンし、オペラ座近くの高級カフェでも+Jのマークが入った大きな買い物袋を置いた富裕層と思われる女性たちの姿を数多く見かけてビックリした。そんなクラスのマダムたちはヒートテックのインナー類はともかくとしても、アウター用のコートやジャケットなどは買わないと思っていたからだ。

ジル・サンダー(本名、ハイデマリー・イリーネ・ザンダー)は1943年、ドイツ生まれ。学校ではテキスタイルを学び、続いて交換留学生としてアメリカのロサンゼルス大学で2年間過ごし、その後は女性誌のファッションジャーナリストとして活躍。しかし、やがてファッションを伝える側から作る側を志すようになり、フリーのファッションデザイナーとしての活動を開始。68年、ドイツ・ハンブルクにブティックを開き、自身のブランド「ジル・サンダー」を設立した。

ジル・サンダーとユニクロの協作「+J」復活の意味

ジル・サンダー(Jil Sander @Peter Lindbergh)

パリで作品を発表したもののあまり理解されなかったが、87年にミラノ・コレクションに参加した頃から人気が急上昇。世界的なトップデザイナーと見なされるようになった。

ジルの作風は、余計な装飾や色使いを徹底して省き、それを超高級素材とイタリアの高い縫製技術、シャープなカッティングで表現するのが特徴だった。結果的に服は超高価になったが、そのシンプルな表現は、80年代の好景気を背景にした装飾的で豪華なスタイルから世界的な不景気に転換し始めた90年代のミラノを中心に広がった、ミニマルな表現を先取りしたものだった。

しかし価格にこだわらずにあくまで自身のスタイルを追求したため、ジル・サンダーは経営不振に陥って99年にプラダグループに買収され、2000年秋冬コレクションを最後に、ジルはジル・サンダー社の社長とデザイナー職を辞任することになり、ジル・サンダーのブランド名も使えなくなった。その後、再びデザイナーとして呼び戻されたが、プラダグループに限らず投資家の利益を優先してコスト削減を進める方針とはやはり相容れず、間もなく職から離れて、いったんはデザイナー引退を表明した。

そんな強い抵抗精神から「鉄の女」とも呼ばれた。だが、プラダグループにカムバックした時にパリで開かれた記念パーティーで見たジルのとろけるような笑顔を見て、この人は服を作ることが本当に好きなんだなと感じたことを思い出す。

彼女の服作りの根底には、シンプルな形は着る人によって多様な個性を引き出すとの考え方があるのだと思う。+Jはその姿勢が、時代の大きな曲がり角を迎えた今、新たな展開のチャンスになったに違いない。

ジル・サンダーとユニクロの協作「+J」復活の意味

今回の新作はレディース32、メンズ25、グッズ4の計61アイテム。アウターは、男女ともに展開するハイブリッドダウン、メンズのリブブルゾン、ウィメンズのカシミヤブレンドチェスターコートなど、どれもほどよいボリュームで美しいシルエットが特徴だ。セットアップにもなるテーラードジャケットとパンツは、一見では紙のようなウールの素材感がある。オーバーサイズシャツは白、アイボリー、黒に遊び心のある差し色が効果的に使われている。

価格帯は、たとえばアウターが7,900円から24,900円、カットソーが1,990円から4,990円(いずれも税別)といったところだ。

ジル・サンダーとユニクロの協作「+J」復活の意味

今回のラインについて、ジルは「衣服とは、長く着ることができ永続的なものであるべきだとして、「現代のグローバルユニフォームとなり得るコレクションを創りました。衣服は身に着ける人のためにあり、着る人誰しもにエネルギーと自信をもたらすものです。それこそが、現代において求められる服の役割だと信じています」とコメントしている。

ジル・サンダーとユニクロの協作「+J」復活の意味

彼女の作風は、「装飾を省いた機能美こそ美しい」と言ったドイツ工作連盟や、ウイーンの分離派、1920~30年代に一世を風靡(ふうび)したバウハウスなどのデザインの影響があることは否定できないだろう。そうしたデザイン運動の考え方の基は、現代では行き詰まってしまった合理性や画一性とは全く違うものだった。

前回の+Jは2011年まで5シーズン続いたが、今回は、今後の展開は未定だという。グローバリズムが広がり経済的な二極分化が進み、特に先進国でも若い世代の服への出費が少なくなっている。そんな中で、今回の+Jの新作が若者たちにファッションの楽しさやときめき感を少しでも呼び起こさせたとすれば、それだけでも歓迎するべき大きな出来事と言える。その先に、未来の服のあり方への示唆が潜んでいると思えるからだ。

PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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