このパンがすごい!

これぞ「軟体パン」! お米好きをも虜にする、山形の地産地消の結晶/地ぱんgood -TOTSZEN terroir-

日本で唯一「ユネスコ食文化創造都市」に認定されている山形県鶴岡市。豊かな自然と食文化に育まれ、約70種もの在来野菜、約120種もの魚介類を産する食の都である。それを知らしめたのは、地元食材を使った独創的な料理で名を馳(は)せるイタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」。奥田政行シェフは、イタリア料理だけに飽き足らず、もっとたくさんの人に手軽に庄内食材を味わってほしいと「地ぱんgood -TOTSZEN terroir-」をオープンさせた。

東京の名店から招請したパン職人が大岡俊志さん(現オーナーシェフ)。庄内の食材と真剣に向き合い、のけぞるおいしさのパンへと結実させる。

バゲットのハムサンドであるジャンボンブールには、やっぱりフランス産の小麦とハムがいちばん……という常識を大岡さんは覆す。小麦は月山高原でとれた南部小麦、豚は酒田市の平田牧場産の金華豚を使い、自家製ハムで作る「金華豚のジャンボンブール」。噛(か)みつけば、庄内の生命力が口の中で躍りだす。

これぞ「軟体パン」! お米好きをも虜にする、山形の地産地消の結晶/地ぱんgood -TOTSZEN terroir-

金華豚のジャンボンブール

がりがりとした皮にココアのような深い香ばしさ。中身はしっとりぷるぷるぴちぴち。とろーんと溶ければ、小麦が甘くて、ミルキーで、ふくよかで。ハムは感動のやわらかさ。しっとりしていて、噛む端からどんどん溶けてくる。豚肉ってこんなに甘くて、清らかなものなんだ。そんな言葉が知らず知らず浮かんできた。

南部小麦を80%使用、その一部は自家製粉を行い、伝家の宝刀ルヴァンリキッドも加え、24~72時間もの熟成を行う。だから、フランス産の超一級の小麦に勝るとも劣らない濃厚な風味を、南部小麦から引き出す。

私が訪れた週末のある日。店内にはたくさんの人が行列をなしていた。地産地消の掛け声はかまびすしいが、東北の小麦にこんなにたくさんの人を飛びつかせている店を私は知らない。その武器は高加水。ぷるぷるとろとろの食感と口溶けは、お米に慣れた舌をも虜(とりこ)にさせる。

これぞ「軟体パン」! お米好きをも虜にする、山形の地産地消の結晶/地ぱんgood -TOTSZEN terroir-

抹茶と栗のパン・ド・ロデブ

同じく南部小麦を使用する「抹茶と栗のパン・ド・ロデブ」。パン・ド・ロデブはそもそも高加水のパンだが、にしても120%は常軌を逸している。謎すぎる食感。表面は乾いてぱりぱり、薄皮一枚下は超むにゅむにゅ、とろー。タコの踊り食いもかくやと思わせる、超新感覚。ときどき噛むくるみの芳香、抹茶のすがすがしさ、そこへ小麦と栗が甘さを滲(にじ)ませて、風流マリアージュが完成する。

軟体パンはこれに終わらない。不動の1番人気が「満月の塩パン」。満月の日にすくい上げた海水からとれるミネラルたっぷりの塩「月の雫(しずく)」を使用する。

同じ生地にミルククリームを包んだのが「塩ミルク」。まるで餅のよう……というより、これは餅そのもの! 餅は餅でも、超やわらかなつきたての餅のニュアンスである。驚きにたたみかけ、キャラメルの香りがするほど強めに炊いたミルククリームが中からどろり。トッピングの塩がキャラメルに着地して塩キャラメルが完成。甘じょっぱの快楽にめくるめく。

これぞ「軟体パン」! お米好きをも虜にする、山形の地産地消の結晶/地ぱんgood -TOTSZEN terroir-

塩ミルク

食感の秘密は地元産の米粉。「米粉を使うことでふわっとしっとり、日本人好みの食感、味わいになりました」。余剰が指摘される食材だけにパンに使用することは地域への貢献にもなる。

さらに同生地は、「米の娘豚と山形牛 特製キーマカレーパン」にも仕立てられる。いうなれば、カレー揚げ餅。かりっかりの下のもっちもっち、それからとろーん。餅よりもさらに軽やかにふわっと沈み、クリーミーにとろけ、そこへ旨味(うまみ)と脂ぎらっぎらのビーフカレーがあふれだしてくるのだから、夢中で食べ狂った。

これぞ「軟体パン」! お米好きをも虜にする、山形の地産地消の結晶/地ぱんgood -TOTSZEN terroir-

米の娘豚と山形牛 特製キーマカレーパン

地ぱんgoodは、「庄内スマートテロワール」という取り組みに参加している。生産者、加工業者、小売業者が一体となって循環型農業を進め、地域内で自給自足できるようになろうという取り組みだ。

たとえば「昔ながらのクリームパン」に使用される「わんぱく卵」。どろりと舌に垂れ落ちるクリームは情熱的なほどに濃厚である。この卵を作る「わんぱく農場」の鶏たちは、地ぱんgoodから提供されたパンの耳を食べて育つ。あるいは、同じくパンに使用する「庄内豚のベーコン」も、自家製粉によって出たふすまを飼料にした豚から作られたものだ。

地ぱんgoodの南部小麦を育てる叶野幸喜さんも、庄内スマートテロワールの一員だ。城下町の中心を貫く羽黒街道を出羽三山へ向かって東へと進み、私は叶野さんの畑を訪ねた。山道を上った先にある月山高原の畑は、月山の威容を望む斜面。標高500~600mという高地だけに、寒暖差のおかげで、おいしい作物ができるという。こんな気持ちのいい場所で育つなら、地ぱんgoodのパンがおいしいこともうなずけるというものだ。

これぞ「軟体パン」! お米好きをも虜にする、山形の地産地消の結晶/地ぱんgood -TOTSZEN terroir-

叶野幸喜さんの小麦畑から月山を望む

地ぱんgood -TOTSZEN terroir-
山形県鶴岡市東新斎町2-50
0235-64-8630
8:00~18:00
月曜休(祝日は営業、ほか不定休)
https://jipangood.jp

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池田さんからのお知らせ

BS朝日「パンが好きすぎる!」(2020年12月6日(日)午後1:00~1:54)に出演します。ゴスペラーズ酒井雄二さんと池田さんが、話題の食パンを食べ、熱狂的にパンについて語り合う番組です。この連載で紹介した食パンや、それ以外にもとっておきの食パンをご紹介します。

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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