メス猫は女王。 Byシシとハナ(飼い主・関めぐみさん)

人間を思うがままに操る、飼い猫たちの実例集「猫が教える、人間のトリセツ」。
月に1回、「猫と暮らすニューヨーク」の筆者、仁平綾さんと、イラストレーターのPeter Arkle(ピーター・アークル)さんでお届けします。
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猫に好かれたい。それはたぶんきっと、すべての猫好きが心に抱く願望。子どもの頃から家に猫がいたという写真家の関めぐみさんは幼少時、「猫とたわむれたくて追いかけるけれど、ぷい!と逃げられ、いつもかまってもらえず。好かれたくて、好かれたくて、しょうがなかった記憶があります」。そんな関さん、現在は相思相愛の愛猫2匹と同居中。親密な猫たちとの時間(特に夜寝る時)を過ごしているようです。
親猫に見放されたのか、かぴかぴのへその緒がついたまま。まだ目も開いていない、そんな不憫(ふびん)な子猫を保護した写真家の関めぐみさん。たびたび職場にも連れて行き、カゴの中で寝かせながら仕事をこなして育てた愛猫が、茶トラもどきのオス猫、シシ。今では立派な13歳です。
「シシは、すごいこじらせ男子。感情表現が素直ではなく、ややこしい性格」と関さん。噛(か)みぐせがあり、上あごと下あごをギリっとずらしながら噛んだり(本気!)、頭突きしながら噛んでくることも。「赤ちゃんの頃の、不安で構って欲しい気持ちが“噛む”になったのかもしれません」
ある時撮影現場で、ペットモデルを扱う動物プロダクションの人が、子猫をスリングに入れ、おなかに密着して寝かしつけているのを目撃した関さん。「そうやって体温や声で、母を近くに感じて寝ると安心するそう。シシに足りなかったのはこれだ!と思いました」

噛みぐせのあるシシ。でも13年経って、性格はだいぶ穏やかに。「今はかなり甘えん坊になりました。甘えてゴロゴロ言ってるのに、急にがぶっ!と噛むことはあるけれど(笑)」
その後、東京から葉山に移住した関さん。仕事で家を留守にする時間が長くなったことから、シシに友だちを、という親心でニャン活を開始。ちょっと面倒くさい猫シシと暮らすには、大人の猫では難しいと考え「空気を読まず、物おじしない子猫」をリクエスト。そうして保護団体から譲り受けたのが、タキシードキャットのメス猫、ハナでした。
関さんのひざにぴょーんと飛び乗り、すぐに喉(のど)をゴロゴロ鳴らすハナは、シシとは正反対の性格(ちなみにシシは関さんのまわりを、うろうろ3往復ぐらいしてから、やっとひざに乗るという不器用さ)。シシという、こじらせ先輩猫のもと、ハナはいつしかお姫さまのような性格に……。

仲が良いとは言えない2匹。ハナを譲り受けたことは「シシにとって余計なお世話だったみたい。シシは、心底ハナがいなくなればいいと思っています(笑)」
女王気質のハナが、その本領を発揮するのは、夜寝る時。
気温が低くなってくると、必ず関さんのふとんの中に入り、腕枕をしてもらいながら、ぬくぬく眠るのがお気に入り。女王らしく、ふとんは決して自分では開けない主義。関さんが寝ているところへやって来て、ふとんを2回、トントンと前脚でノック。起きないようなら、さらに続けてもう一度ノック。そうして、関さんが「どうぞ」とふとんを開けるのを待つのだとか。
飼い主を執事だと思っているのか……、「または自動開閉式の腕枕付き寝袋、オンドル、ホットカーペット?(笑) メス猫たるもの、ふとんを自分で開けて入るなんてことしないわ! ふとんは開けてもらって入るものでしょう? とばかりに、自分からふとんに潜ることは一度たりともしたことがありません」

腕枕はハナに取られているため、シシは関さんの足元で寝ます。もちろんふとんは、自動開閉式ではありません。「シシは、ふんがふんが、鼻先で一生懸命ふとんを開けて入ってきます」
ハナさまのお望みどおり、ふとんを開閉し、ホットカーペット係として最高の腕枕を提供し続けてきた関さん。体勢を少しでも変えるとハナが起きてしまうため、動かさぬよう限界まで我慢していたところ……、腕枕の激務がたたったのか五十肩になってしまったのだそう。ああ、猫愛にあふれる飼い主の鏡(涙)。
「元々ハナが入ってくるのは、ふとんの右側。でも右肩が五十肩になってしまって。左側にシフトしたところ、今度は左肩が悪くなってしまいました。また右に変えて欲しいとお願いするも、『そうちょくちょく言うことが変わると困る』とばかりに、今度は左派から変わってくれません」

2匹とも温度に敏感。ハナがふとんに入って来るのは、気温が20度を下回る頃。一方のシシは、15度ぐらい。「ハナがふとんをトントンとノックしてくると、あぁ、秋が来たのだな、と思います」
五十肩で、肩と腕は痛むけれど、やっぱり猫との添い寝は「サイコーです」と関さん。「猫ののどを鳴らす音って、すごく心地良い。それを聞きながら彼女を抱えているのは至福の時です。ついでに、冷えた足元にシシが入ってくればベスト。冬のにゃたんぽ、最強です」
猫をふとんの中へ迎え入れ、ほかほか甘い添い寝を夢見る飼い主としては、その術(すべ)をぜひ知りたいところ。でも関さん、「特に何かをした覚えはない」とのこと。ハナの腕枕も、シシのにゃたんぽも、ごく自然にそうなったのだそう。「家が古民家で寒いからでしょうか。寝室の温度を下げてみるといいのかも!?」
なるほど。この冬は寝室の温度をぐっと下げて寝てみることにします。

(左)いつもハナに完敗のシシ。(右)関さんがソファや1人掛けのチェアに座っていると、ここぞとばかりにシシがやってきて「無事にひざ上を確保し、ブサイクに眠ります」
シシとハナの名コンビ。関さんのインスタグラムに掲載されている2匹の写真は、ハッシュタグ #シシッパナ で見ることができます。
※次回は、12月下旬の配信予定です。
『猫と暮らすニューヨーク』が本になりました!!
PROFILE
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仁平綾
編集者・ライター
ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。
http://www.bestofbrooklynbook.com -
Peter Arkle(イラスト)
ピーター・アークル スコットランド出身、ニューヨーク在住のイラストレーター。The New Yorker、New York Magazine、The New York Times、Newsweek、Timeなど雑誌や書籍、広告で幅広く活躍。著書に『All Black Cats Are Not Alike』(http://allblackcats.com/)がある。