花のない花屋

性別すら意味を持たない、大好きな家族。3人で重ねる月日をこれからも

全国農業協同組合連合会(全農)では、新型コロナウイルスによる大きな影響を受けた花の生産者を支援する取り組みを行っています。その一環として、連載「花のない花屋」にご協力いただきました。

あなたの「物語」も、世界で一つだけの花束にしませんか? エピソードの応募はこちらから。

遠山由比さん(仮名) 55歳 女性
愛知県在住
会社員

     ◇

ひとり息子が5歳だったとき、夫を自死で亡くしました。なんでこんなことになってしまったのだろう、これからどうしよう……と、どん底だった時に支えてくれたのが、友人だったいまの相方、恵介でした。

やがて生涯のパートナーとなった、年下でFTM(Female to Male=女性として生まれ、性自認は男性の人)の相方。そして私と息子。3人での生活がスタートし、不思議な家族となって15年が経ちました。

同性のパートナーと暮らすなんて思いもよらなかった私と、5歳の子どもと寝食を共にするなんて思いもよらなかった相方。父さん? 兄さん? 姉さん?ができるなんて思いもよらなかった息子。初めは3人ともおっかなびっくり、というのでしょうか。霧の中でのスタートという感じでした。

そんなとき、ゲイの友達がかけてくれた言葉が忘れられません。「息子くんが大人になったとき『この3人で生きてきて楽しかった。幸せだった』と言ったら、誰も何も言えないから」。背中を押されたような気がしました。

でも一度だけ、相方と離れたことがありました。一緒に暮らし始めて3年後、息子にはやっぱり「お父さん」が必要なんじゃないかという私の思いや、同性カップルへの重圧のようなものが積み重なってしまって。相方も相方で、自分たちが周りの家族と違うことを気にしていて、2人の関係がうまくいかなくなってしまったからです。

そのとき息子が口にしたのが「恵介は帰ってきてくれるよ」という言葉。この出来事がきっかけで、3人の肩の力が抜けました。離れて4カ月、私たちは再び一緒に暮らしていくことを選びました。

私たちは親子というより、チームのような感じ。相方は、子どもを育てるということを味わえました。息子は、大人たちがもがきながらも頑張って生きていて、でもなんだか楽しそう、と感じられている。そして私も、2人が自分に降りかかった運命を柔らかく受け止めて対処する姿を目の当たりにしている。それってすごい体験ですよね。

息子はいま大学生。遠く離れた街でひとり暮らしをしています。背丈も私たちを超え、体だけでなく心も大きくなりました。息子を送り出したときの私と相方のうれしさと、寂しさと、誇らしさは忘れられません。

息子が暮らすのは、魚がおいしい街。相方は魚が大好きなのですが、息子がふと「この魚は恵介に食わせたい」と言うのを聞くと、ああ幸せだなあと実感します。母親のパートナーとしてではなく、当たり前の存在として息子の頭の片隅に相方がいる。

父さんでも兄さんでも姉さんでもなく、そんな区分すら意味を持たない、ただただ大好きで楽しい仲間。いつかの友達の言葉通り、いま私たちはかけがえのない家族となりました。15年の時を経て、そんな答えにたどり着いたのです。

私が年下の2人を引っ張ってきたつもりでしたが、振り返れば相方と息子の穏やかな心に助けられ、受け入れられ、2人のおかげで楽しい人生を送ってこられました。そんな大切なふたりに、今までの「ありがとう」と「これからもよろしく」の気持ちを込めて、お花を贈りたいと思います。

相方はスポーティー、息子はマイペースなインドア派。見た目も中身も全く違う持ち味の2人ですが、その掛け合いが絶妙におもしろいんです。花束でも、そんな2人の個性が感じられるとうれしいです。

性別すら意味を持たない、大好きな家族。3人で重ねる月日をこれからも

≪花材≫カラー、チューリップ、エピデンドラム、マム、トルコキキョウ

花束を作った東さんのコメント

色は白で統一しましたが、上下でガラリと花の雰囲気を変えました。上はツンツンしたイメージの、カラー、チューリップ、エピデンドラムというランでまとめ、下はトルコキキョウでふんわりと包み込んでいます。異なる個性が合わさっているけれど、調和がとれている、それぞれ個性の違う相方さんと息子さん、そして投稿主さんの家族をイメージしました。色を白にしたのは、人は何色にでもなれる、生まれながらにしてこうだ、というものではない。そんな思いを込めました。

性別すら意味を持たない、大好きな家族。3人で重ねる月日をこれからも

性別すら意味を持たない、大好きな家族。3人で重ねる月日をこれからも

性別すら意味を持たない、大好きな家族。3人で重ねる月日をこれからも

性別すら意味を持たない、大好きな家族。3人で重ねる月日をこれからも

(写真・椎木俊介)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

性別すら意味を持たない、大好きな家族。3人で重ねる月日をこれからも

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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