鎌倉から、ものがたり。

21歳の学生がオーナー。ラベンダー色の店に、服も夢も詰め込んで 「喫茶ジョー」

 鎌倉・逗子方面から神奈川県道217号線を葉山に向かう。217号線が県道27号線と交差する地点は、海側とはまた違った内陸の景色が広がる場所。今年11月、その脇に古着屋でカフェという、ちょっと不思議な店が誕生した。

 店の名前は「喫茶ジョー」。外壁がラベンダー色をしたコンテナのような建物で、前庭には、同じくラベンダー色のキッチンカー。そのポップな様子は、ナチュラルな雰囲気の多い葉山の店とは、ひとあじ違う。

 店内に並ぶ古着は、アメリカンカジュアルが中心。ハリウッド映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)で、主演のマイケル・J・フォックスが着ていたような、ジーンズやパーカー、シャツ。女性ものでは1980年代のプレタポルテのスーツなどがあり、独特の選択眼を感じさせる。

 いったい、どんな人が営んでいるのだろうか。主(あるじ)のヨネヤジョーさんを訪ねたら、まだ21歳、東京の大学で経営学を学ぶ現役の学生とのことで、びっくりした。古着の買い付けはもちろん、カフェの調理、接客、経営、すべてひとりでまかなっているのだ。

 「大学生のうちに店を開くことは、高校生からの夢だったんです。単位は昨年までの3年間で全部取得して、今年は店づくりに力を全部注ぎました」

 そう語る瞳が、きらきらしている。

 出身は横浜市。子どものころから無類の洋服好きで、好きなアパレルブランドの服や古着を買い集めながら中学、高校時代を過ごした。

 服への愛着をいかすべく、19歳でネット販売のサイトを立ちあげたが、知名度ゼロのサイトに反響はまるでなかった。小さな挫折を経て、自分の行動の意味を考え直してみた。そこにあったのは「儲(もう)けたい」ではなく、「人と話をしたい」「どうしたらみんなを笑顔にできるのか」という熱い思いだった。

 次に、友人たちとつながるSNS経由で「僕の服を無料で差し上げます」と発信したら、今度はさまざまな人たちから連絡が来た。思い入れのある服を手渡すとき、彼・彼女たちの表情が輝く。たくさんの笑顔に接しながら、「この喜びこそ、自分が求めていたものだ」と、ショップオーナーになる気持ちが固まった。

 飲食店やアパレルショップなど、五つのアルバイトをかけもちして、資金を貯(た)めた。どのアルバイトも「人と接する仕事」という観点で選んだが、とりわけ家業の葬儀社で働いたことは、大きな基礎になったという。

 「悲しみの淵にいらっしゃる方々に、どのようにして安心していただけるか。相手を思うことの原点を学んだ経験でした」

 大学を出たら就職、という多数派の道を選ばず、さらに卒業を待たずしてビジネスをはじめた裏には、彼が考え抜いた生き方の基準がある。

「就職すれば安定は得られるだろう、とは思いました。でも僕は、組織のルールより自分の個性を優先して生きると決めたのです。学生のうちに独立することを選んだのは、いろいろな方から親身のアドバイスが必要だったから。30代、40代になったら、これはもう期待できません。実際、今回のショップ開業では、建築士さんや工務店の大工さんたちをはじめ、周囲の大人から大きな助けをいただきました」

 出店地として、大学のある東京でも、実家のある横浜でもなく、葉山を選んだのは、「僕が悲しくなったときに、行きたい場所が葉山だったから」。オフシーズンの、ひと気のない海と山の景色に、心が癒やされるのだという。古着の販売以上に「居心地のいい時間と場所をつくること」が目的だった店には、カフェを併設した。

 カフェの看板メニューは、ガーリックシュリンプ、ハワイアンコーヒー、そして「ブルーノ・マーズカクテル」。ガーリックシュリンプは、ハワイのノースショアで見かけたキッチンカーで知った、自分ならではのおいしいもの。

 ブルーノ・マーズカクテルは、ハワイ出身の世界的なミュージシャン、ブルーノ・マーズが自身の蒸留所でつくるラムをベースにしたこの店のオリジナル。店内にはレコードプレーヤーが置かれ、そこから80年代のポップスやロック、歌謡曲が流れる。ヨネヤさんの好きなものと、その欠片(かけら)がちりばめられた店なのだ。

 独自の道を行くヨネヤさんの姿を見た大学の同級生から、最近、声をかけられた。「卒業したら就職と、強迫観念にとらわれていたけれど、いろんな道があると知って、ほっとした」。そういわれて、うれしかった。

 他を励まし、それを自身の生きる意味に変えていく。ラベンダー色をした店に、新しい世代による、新しい仕事観がある。

喫茶ジョー
〒240-0115 神奈川県葉山町上山口1102-9

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、92年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、『観光亡国論』(アレックス・カーと共著・中公新書ラクレ)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

小料理と一緒に仲間と笑い合った大切な時間を、ここ長谷でも 「koyagi-ya delicatessen&co.」

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