おうちでワイン

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

あっという間に師走。例年通りの忙しさに、今年はコロナ禍の疲労も重なっているはず。体をいたわり、心に染みいるようなおうちワインを……というリクエストに、ひと肌脱いでくれたのは、中華料理のシェフでソムリエの猪瀬文俊さん。今回は、自然派ワインと優しい味わいの魚の中華塩鍋のあったかペアリング!

今回のソムリエ
心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋
心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

 

猪瀬文俊(いのせ・ふみとし)

「ナチュラルセンス」(茨城県筑西市)の中華シェフ、ソムリエ、利き酒師。
東京・青山「桃源閣」、神泉「文琳」で素材を生かす中国料理を、その後、台湾・高雄市の「江浙・家郷楼餐庁(ジャーシャンロウシャンティン)」で台湾の家庭料理と上海の地方料理を学ぶ。一皿に素材を多用せず、少ない食材でじんわりと優しいおいしさを表現することがモットー。第4回ヨーロッパのワインを楽しむ中国料理コンクールでは「子羊の五香粉ロースト 棗(なつめ)風味の黒酢ソースを添えて」がローヌ賞グランプリを獲得。自然派ワインを中心に「酔うためのワインではなく、幸せになるためのワイン」を、自らの料理とともに日々提案している。

 

「自然派ワイン」って?

ところで「自然派ワイン」って? フランス語では「ヴァン・ナチュール」(ヴァン=ワイン、ナチュール=自然)で、「できる限り自然の力を生かして造られたワイン」を指す。「ブドウ栽培」と「ワインの醸造」の両方で、自然な造りを目指す。

栽培は化学肥料や除草剤など農薬を使わず、健康な畑で健康なブドウを作ることから始まる。具体的には、「ビオロジック(有機農法)」「ビオディナミ」という二つの農法がある。「ビオディナミ」は英語では「バイオダイナミクス」と呼ばれ、有機栽培に加え、月や星などの天体の動きをも考慮してブドウを育てる農法だ。醸造においては、天然酵母で発酵させ、酸化防止剤の亜硫酸塩(SO2)を添加しない、あるいは極力少なくする。

「オーガニックワイン」「ビオワイン」という呼び方もよく耳にする。EUではいずれも有機栽培されたブドウから造られるワインを指し、名乗るためには認証機関の認証が必要になる。オーガニックワインはブドウの栽培だけでなく、SO2の使用上限も決められている。

一方日本では、「有機」「オーガニック」のワインを名乗るためには、有機JAS認定を取得しなければならないが、「ビオワイン」については特に決まりはない。

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

写真提供・くらむぼんワイン

「さまざまな呼び名があり、それが自然派ワインを少し気難しいものに見せてしまっているような気も。でも、自然を重んじ丁寧に作られている自然派ワインの多くは、ブドウそのものの果実味が豊かで、体に染み渡るような優しさが魅力です。一方で、少しヒネたような自然派独特の香りを持つワインもあり、それが苦手という人も。自然派ワインの入り口としては、素直においしい!と思える1本に出会ってほしいですね」

フランス・アルザス地方の名門がつくるワイン

そう話す猪瀬シェフがイチオシする造り手が、フランス・アルザス地方に250年続く名門「ドメーヌ・クリスチャン・ビネール」。化学肥料が問題とされなかった時代も一貫して無農薬を貫いた、家族経営の小さなドメーヌだ。

「あまりに好きすぎて、3年前、現当主のクリスチャン・ビネールさんが来日したとき、キャンセル待ちしてまでセミナーを受講しました。畑にこもりっきりの根っからの職人のようなビネールさんが海外に出るのは貴重で、この機会を逃すものか!と(笑)」と猪瀬シェフ。

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

ビネールさんと会えて感激の猪瀬シェフ

今回セレクトする1本は「クリスチャン・ビネール コート ダムルシュヴィール 2016年」。

「複数のブドウ品種を使うワインの場合、それぞれの品種でワインを仕込み、出来上がったワインをブレンドするのが一般的ですが、このビネールのワインは、リースリング、ピノ・グリなど5種のブドウを一緒に潰して仕込みます。いわば『まぜこぜワイン』。異色ですが、自然派ならではのピュアさと混醸による複雑さが絶妙のバランスを呈し、なんとも言えないおいしさ!」(猪瀬シェフ)

増え続ける、日本の優秀な自然派ワイン

最近、国内外でますます注目を集める日本ワインでも、優秀な自然派ワインは少なくない。「全国あちこちのワイナリーで自然派への取り組みは増えていて、僕自身、好きなワイン、気になるワイナリーもいくつかあります。発掘するのも楽しいですね」と猪瀬シェフ。ただ、小さなワイナリーが多く生産量が少ないため、価格が高め、手に入りにくいなどのハードルがあるのも、また事実。

そんな状況の中、猪瀬シェフのレストランにオンリストするのが、国内一大産地、山梨県の勝沼で100年以上前からワインを造り続ける「くらむぼんワイン」。

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

くらむぼんワインのテイスティングルーム

「オーナーで栽培醸造責任者でもある野沢たかひこさんがフランス南西部の自然派ワインに感銘を受け、自社栽培のブドウを自然に則した栽培に転換。素晴らしいワインを生み出しています」

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

くらむぼんワイン。養蚕農家だった古民家を移築した母屋は風情たっぷり

セレクトするもう1本は、くらむぼんワインの「N甲州」。海外からも評価が高い日本の白ブドウ品種「甲州」を、天然酵母で発酵し、濾過(ろか)せずに瓶詰めする自然派ワインだ。

「ダイダイやユズ、カボスといった和柑橘(わかんきつ)を思わせる香りと酸味が印象的。新樽(しんだる)を使って醸造しているので、バニラのようなリッチなフレーバーが広がります」

じんわりほっこり温まる鍋を合わせて

フランス、日本のイチオシ自然派ワインに、シェフはどんな料理を合わせる?

「さっぱりしていて、でもうまみがたっぷりの魚の中華塩鍋と一緒に。年末でお疲れ気味のココロとカラダを芯から温めてくれる、じんわり、ほっこりペアリングです」と、猪瀬シェフ。

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

【中華風塩鍋】
材料(1人前)
キンメダイ切り身 200g程度
豚バラスライス 100g
白菜 適宜
干しシイタケ 2枚(ひたひたの水で戻す)
春雨 お好みの量
九条ネギ 1本(なければ小ネギなどで代用)
国産レモンのスライス 1/4個分
ごま油(焙煎タイプ) 小さじ1

調味料
塩 適宜(足りなければ完成後に少しずつ足してもOK。最初は少なめで)
中華風顆粒(かりゅう)だし ひとつまみ
水 鍋の半分ほど
酒 50cc

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

作り方
1. 一口大に切ったキンメダイに酒(分量外)を振り、白い身の部分に軽く塩、白コショウ(いずれも分量外)を振る。
2. お湯を沸かし、塩をひとつまみ(分量外)入れ、キンメダイの身をさっとくぐらせ、冷水にとる。
3. 鍋に一口大に切った白菜を敷き詰め、3センチ長に切った豚バラを全体に広げて軽く酒、塩、白コショウ(いずれも分量外)を振る。
4. 水で戻し薄くスライスした干しシイタケと戻し汁、ぬるま湯で戻した春雨、調味料を加え火にかける。
5. 鍋のフチがふつふつしてきたらキンメダイを入れ軽く火を通す。レモンスライス、食べやすい大きさに斜め切りした九条ネギを入れ、ごま油を回しかける。
*野菜の持つ水分量で塩分が変わるので、食べながら塩やごま油を足して好みの味わいで。

ポイントはレモンを加えること。さっぱり、さわやかな味わいになるとともに、一気にワインに合う鍋に。

「『クリスチャン・ビネール』の自然派ワインならではの柔らかな酸味が、脂の乗った冬のキンメダイの味わいと共鳴し、干しシイタケのコクのある優しいうまみはワインの持つ完熟した果実を思わせる甘やかさときれいに調和します」

レモンをユズに変えれば、くらむぼんの「N甲州」とぐっと相性がよくなる。

「柔らかな和柑橘のニュアンスを持つワインの酸と、ユズの香りが同調します。豚バラ肉の甘みのある脂身、キンメダイの深みのあるうまみが、『N甲州』の特徴でもある樽由来のリッチなフレーバーと互いを高めあう、ウィンウィンなペアリングです」

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

鍋の後半は、残ったレモンやユズの搾り汁を入れることで、味の変化が楽しめる上、ワインの酸味ともますます寄り添うとか。

「きちんと造られた自然派ワインは、16℃以下なら品質の劣化が少なく、開けてからもしばらくその変化を楽しめます。むしろ、自然派ワインとはそういう向き合い方がオススメ。だからフランスと日本、2本同時に開けちゃってもOK!」

猪瀬シェフは笑顔でこう結んだ。

「自然への畏怖(いふ)、ワイン造りの情熱を胸に生産者が毎日畑に通い、丹精込めて育てたブドウで年に1回だけ醸造する――。忙しくて慌ただしくなる年末のこの時期だからこそ、造り手が人生をかけたワインを味わえるという小さな『奇跡』を、ゆっくりと味わいたいですね」

「コート ダムルシュヴィール 2016年」クリスチャン・ビネール、3600円(税別)

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

リースリング、ピノ・グリなど5種類のブドウを一緒にプレスし発酵。レモンイエローの色調、ハーブやハチミツの香りが広がり、口当たりは滑らか、穏やかな酸味と落ち着いた味わいが続く。

「クリスチャン・ビネール」は、フランス・アルザス地方で1770年から家族経営でワイン造りを続ける名門ドメーヌ。無農薬栽培、手摘みでの収穫にこだわり、家族で手入れができる11haの畑を大切に守っている。

問い合わせ:ディオニー本社広報 075-622-0850

「N甲州」くらむぼんワイン、3005円(税込み)

心に染みいる自然派ワインと、さっぱり・うまみたっぷりの中華塩鍋

りんごのコンポートのような独特の香りが印象的。ダイダイ、きよみミカン、ユズ、カボスなどの柑橘類、白い花やカリンに、樽由来のバニラの風味も。口に含むとイキイキとした自然な果実味が広がり、穏やかな甘みと酸味が余韻まで続く。

ワイナリー名の「くらむぼん」は、宮沢賢治の童話『やまなし』でカニが話す言葉に由来する。人間と自然の共存、科学の限界、他人への思いやりを童話で伝えた賢治に共感し、この名がつけられたという。

くらむぼんワインのオンラインストアで購入可能。

PROFILE

中津海麻子

執筆テーマは「酒とワンコと男と女」。日本酒とワイン、それらにまつわる旅や食、ペット、人物インタビューなどを中心に取材する。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、ワイン専門誌「ワイン王国」、朝日新聞のブックサイト「好書好日」、同ペットサイト「sippo」などに寄稿。「&w」では「MUSIC TALK」を連載中。

冬のごちそう とろ~りクリーミーなチーズ「モン・ドール」

一覧へ戻る

クリスマスに開けたいロマンチックなワイン「アマローネ」

RECOMMENDおすすめの記事