このパンがすごい!

もっちもっちの弾力に、脈打つ熟成香。魅惑のブランデーあんぱん/KUJAKU BAKERY

東京の西のほうにある東大和という街へあんぱんを食べに行った。しかも2回も。最初は「ブランデーあんぱん」を食べ、2回目は、そのとき逃した「あんバターリュスティック」を食べた。2回目のときなど、私は駅へ向かいながら辛抱たまらず袋を開き、我を忘れて食べた。あまりに夢中で、風景はまるで目に入らず、気がつくと駅に着いていたほどだ。

ブランデーあんぱんでは、じんじんと脈打つようなブランデーの芳香と同じリズムでパンの熟成香が揺れ、あんこと生地が一心同体になる。北海道産小麦らしいもっちもっちとした弾力と甘口の日本酒のような風味があいまってまんじゅうのおいしさに似ている。

もっちもっちの弾力に、脈打つ熟成香。魅惑のブランデーあんぱん/KUJAKU BAKERY

ブランデーあんぱん

あんバターリュスティックでは、濃厚に焼きこんだ皮の香りとつぶあんの豆の香りが手を取り合う。冷えたバターが口の中の温度で溶けていくと、あんこがミルクにまみれ、よろこびの声を上げる。一方で、バターとパンもいうまでもなく仲良しこよしだし、パンにある発酵種の酸味は、あんこの甘さを密(ひそ)かに支援している。あんこ、パン、バターに成立する三角関係が、このパンをやめられない止まらないものにしてしまう。

この5月、東大和に「KUJAKU BAKERY」がオープンした。実は6年前、オーナーシェフの井関剛さんに、私はパンイベントでお会いしたことがある。そのときの職業はパン職人ではなく、土木作業員。パン好きがこうじてパンの道へ進み、パーラー江古田、THE CITY BAKERY、SAWAMURAで修業、自分の店を持つ夢を実現させたのだ。

もっちもっちの弾力に、脈打つ熟成香。魅惑のブランデーあんぱん/KUJAKU BAKERY

井関剛さん

それら名店の刻印は、高温で焼きこんだパンならではの黒い色に見て取れる。そのおかげだろう、どのパンにも、確実で力強い「旨味(うまみ)」を感じるのだ。だからこそ、パンが、あんこなどの具材としっかり結びつく。

小麦もまた旨味を表現できる選択だ。ブランデーあんぱんに使用する「全粒粉食パン」はハルユタカ中心。北海道産らしいミルキーさもありつつ、旨味が強い品種である。

リュスティックなどハード系に配合される秘密兵器は、国産小麦のアリューロン層(小麦の皮目にある風味の濃厚な部分)を集めた小麦粉「むぎくら」(平和製粉)。これを隠し味程度入れることで、旨味がぐっと持ち上がる。

もっちもっちの弾力に、脈打つ熟成香。魅惑のブランデーあんぱん/KUJAKU BAKERY

リュスティック

さらに、ハード系は18℃という高めの温度で一晩熟成させていることも見逃せない。

「その温度帯だから出てくるアミノ酸の深みがあります」

それは「バゲット」にもあてはまる。濃厚な色に焼いたパンだけがたどり着ける黄金色の香りをまとった皮。長い熟成が醸した濃厚な甘さがある。中身は、皮とのギャップに驚くほどみずみずしい。旨味が、舌にしっかりとスタンプを押し、香りはたまらない快感を伴って鼻へ抜けていくのだ。

東大和といえば、ほど近くに、江戸川区に移転した「かいじゅう屋」、その前には名店「ゼルコバ」があった場所である。

「ぎゅっと詰まったバゲットが認知されているので、それに合わせ、軽いタイプではなく、ずっしり詰まったバゲットにしました。そのほうが料理にも合わせやすいですし」

もっちもっちの弾力に、脈打つ熟成香。魅惑のブランデーあんぱん/KUJAKU BAKERY

パン・オ・ショコラ

蜂の巣状に伸びた気泡がうつくしい「パン・オ・ショコラ」。しっかり焼いた皮に発酵バターが香ばしく、中身では舌の先がひんやりとするほど生々しくバターがとろけるコントラスト。このクロワッサン生地にも、小麦の甘味、旨味がのって、だからこそ、濃厚なカカオの風味と酸味が交錯するチョコレートがいっそう冴(さ)える。

ひと抱えもあるほど大きく焼いた「パン・ド・ロデヴ」に、表面に浮き出たバヌトン(カンパーニュ用の型)の文様もかっこいい「サワードゥ」。バラエティー豊かでありつつ、ハード系、食パン、クロワッサン類に研ぎ澄ましたラインナップからも、作り手がパンが好きであることがよく伝わってくる。開店からわずか半年。それでも次から次へ常連さんがうれしそうに店に飛び込んでくる。パン好き精神が東大和に伝染しつつあるようだ。

もっちもっちの弾力に、脈打つ熟成香。魅惑のブランデーあんぱん/KUJAKU BAKERY

店内風景。妻の稚紗さん

KUJAKU BAKERY
東京都東大和市仲原4-22-36 尾崎ビル1F
042-569-8546
8:30~17:00
月・火曜休

>>写真をもっと見る ※写真をクリックすると、拡大表示されます

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

パンの器にカスタードたっぷり。熟練の“菓子屋のクリーム”に、目頭が熱くなる/オクトーブル

一覧へ戻る

武骨で力強いあんぱん。信州の城下町にたたずむ「菌の棲家」/ルヴァン信州上田店

RECOMMENDおすすめの記事