唯一無二のジュエリーで、世界を、あなたを、カラフルに
文: 石野明子

写真家・石野明子さんが、一家で光の島・スリランカへ移住して4年目を迎える中で見つけた、宝石のようにきらめく物語を、美しい写真と文章で綴(つづ)る連載です。第3回は世界有数の宝石産出国・スリランカで、誰の手にも届くようなジュエリーを作るデザイナーのお話。自分で、自分のためのジュエリーを買う――。着飾るためだけではなく、喜び、自信……人が生きる勇気にもつながる、それは保守的な考え方が根強いスリランカの人にとって大切な意味を持つといいます。
移住直後の日々をつづった前回連載「スリランカ 光の島へ」はこちらからお読みいただけます。
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ガラスのショーケースの中でキラキラ輝くジュエリーたち。自然が作り出した石たちの表情はどれも個性豊か。南国の海のような鮮やかなブルーの石、夕焼け空のような優しいグラデーションを持ったピンク色の石……。今日家に持って帰るのはどのジュエリーにしようか。ワクワクが止まらない!
2020年、私は40歳になった。以前はコットンのTシャツ一枚だけでもなんとなく様になっていたのに、今は年を重ねたせいか、キラキラしたものを身に付けていないと、何だか肌がくすんで見えるような……。こうなったらせっかくスリランカにいるのだし、宝石の力を借りよう!と思いたった。
娘が寝静まった夜な夜な、携帯でめぼしいジュエリーを探す日々が始まった。すると、想像以上に若い女性のデザイナーが、スリランカでも活躍しているようだ。
そしてついに、気になるブランドを見つけた。
それは「Aviika(アヴィイカ)」というブランド。高価な貴石*は使っておらず、半貴石*と呼ばれるジュエリーが主だ。このブランドはカラフルな石の組み合わせが特徴的で、原石の形を生かすようなカッティングを施している。だから左右非対称だったりもするし、自然が作り出したひび割れなどもデザインにいかしている。それゆえ「唯一」感がとても強い。
しかも値段は高くても15000円ほどと、思いのほか手頃。暗闇で携帯画面の光に照らされながら、私の顔はニヤついた。
*貴石=宝石の取引上の分類で、特に珍重され高値で取引されるもの。主にダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドの4大宝石をさす。希少価値の高いアレキサンドライト、ヒスイなどが加えられることもある。
*半貴石=貴石以外の宝石、代表としてアクアマリンやアメジストなど。
デザイナーの名前はアマンダ・ウィジェマンネ。1989年生まれの31歳だ。彼女のインタビュー記事を読むと、宝石商である父親のビジネスを手伝うため、アメリカの大学で経営を学び、スリランカに帰国したそうだ。そしてそのかたわら、ジュエリーデザイナーにもなったとある。しかも独学で。
値段設定が手頃なのは多くの人に手にとって欲しいから。なんだか気になるその輝き。インタビューさせてくれないかと、すぐ彼女に連絡をとった。
新しい感性がきらめく
スリランカは世界有数の宝石産出国。とれる宝石はサファイアやルビー、キャッツアイ、トパーズ、アクアマリン、ムーンストーンなどなど数えきれない。さらに、スリランカはこうしたカラーストーンの質が高いことでも有名だ。チャールズ皇太子からダイアナ妃へ、そしてウィリアム王子からキャサリン妃へと贈られた、英国王室継承のブルーサファイアもスリランカ産だった。
そしてAviikaのデザイナー・アマンダも、父親の仕事柄、幼い頃から多くの美しい宝石やジュエリーを見てきた。
「宝石は投資の対象にもなっていて、有名で高価なサファイアやルビーがクローズアップされがち。でも私が届けたいのは毎日の自分の気持ちをちょっと明るくしてくれて、自分へのご褒美にと誰の手にも届くジュエリーなんです」。彼女のジュエリーを見つけた時のワクワク感を思い出す。
価格を抑えるため、金属部分はシルバーに金メッキ。「耐久性を考えると良くはない。でも価格を抑え、そしてスリランカの魅力ある石たちは高価な物だけではないと、多くの人に知ってもらうための策なんです」。幼い頃からたくさんの石を見てきたアマンダにとっては、どの石も同じくらい美しい。そんな彼女だからこその発想だ。
彼女が生まれたのはスリランカ内戦中。経営を学ぶためアメリカへ留学。卒業する年に、26年間続いたその内戦が終結した。スリランカはとても魅力的な国だが内戦後も経済は不安定。留学後はスリランカへは戻らず、そのまま海外で働くという人も少なくない。だが彼女は「海外で学んだのはスリランカのため。この国のために私ができることをしたいと思っています」と輝く笑顔で話してくれた。
長く続いた内戦が終わり、今アマンダのような若い世代が海外で学んだ知識やアイデアを、自分たちのルーツと融合させて新しいものを作り出している。私が移住してからたった4年の間だけでも、そんな若い世代による魅力的でワクワクするお店やカフェ、デザインがどんどん出てきている。
Aviikaのデザインも、私が2007年に初めてスリランカを訪れた際に見かけた、ちょっと仰々しいジュエリーとは違い、格段に洗練されている。
スリランカがものすごい勢いで変化し、様々な可能性が芽生え始めていることを肌で感じる。
自分で欲しいものを手に入れる喜びを!
とはいえ、スリランカでは男性が女性にジュエリーを送るのがまだまだ伝統的。そして女性は結婚後、特に出産後は家庭に入る風潮が強い。仕事を続けられる女性は一部に限られる。
「Aviikaのジュエリーは、これまでの伝統的なスリランカジュエリーと比べてとても手頃です。そういったこともあってAviikaでは、女性も自分で選び、自分のために買ってくれる。女性の自立の一端を見せてもらっているようで、私はとても誇らしく思う!」
自分で欲しいものを手に入れることの喜びを感じて欲しい――。そうしたことが他者に左右されない自信を持つこと、誇りを持つことに繋がっていく。
「私は独学でデザイナーになったので、歩みは遅く、コレクションの数も多くありません。ですが良いものを作りたいという情熱が少しずつ私を後押ししてくれる。人生のライフステージがどうなろうと、ジュエリーを作り続けます。それがひいてはスリランカのためにもなると信じています」。彼女の綺麗なアーモンドアイが私を見つめた。
インタビューの数日後、彼女がスリランカの宝石業界団体で初めて女性役員に抜擢(ばってき)されたとうれしいニュースを教えてくれた。改めて彼女に「おめでとう!」を伝えようと工房を訪れた。「すごく嬉しい! 女性としての私の視点もいかしていきたい。そしてスリランカの魅力を、若い私たちが得意とするSNSやネットビジネスの分野でもっと発信していきたいです」と語ってくれた。
「まだスリランカでは保守的な部分が強くて、たとえ良くても新しい考えが受け入れられないことも多い。でも私たちの世代が世界とスリランカをつなぐことで、必ず良い方向に進んでいくと信じています」。アマンダの笑顔がさらに輝く。
スリランカの宝石のように、私たちはみんな違う個性があってカラフルだ。Make Your Own Sparkle(あなた自身の輝きを)!
今日も私の耳元で揺れるAviikaのジュエリー。世界中がいろんな色の輝きであふれますように。
◆Aviika
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移住直後の日々をつづった前回連載「スリランカ 光の島へ」はこちらからお読みいただけます。