花のない花屋

夜中まで頑張る背中に春は来る 「国境なき医師団」に憧れる受験生の妹へ

全国農業協同組合連合会(全農)では、新型コロナウイルスによる大きな影響を受けた花の生産者を支援する取り組みを行っています。その一環として、連載「花のない花屋」にご協力いただきました。

あなたの「物語」も、世界で一つだけの花束にしませんか? エピソードの応募はこちらから。

〈依頼人プロフィール〉
中崎 利香子さん(仮名) 19歳 女性
兵庫県在住
大学生

     ◇

最近私が目にする妹の姿は、いつも夜中まで黙々と机に向かっている背中ばかりな気がします。

私より1歳年下の妹は受験生。それも超難関の医学部を目指して、食事や寝る時間も惜しんで勉強に励んでいます。

部活の女子サッカーに没頭していた妹が、本格的に医学部を目指すようになったのは、ここ半年ほどのことです。たまたま読んだ「国境なき医師団」の活動を紹介した本に感動して、高校へ入学した頃に医師に憧れるようになった、とは聞いていました。

その頃に抱いた夢を貫いて実現しようとする行動力を持ち、自分で人生を切り開いていく妹。

かたや私はマイペースで腰が重く、2年前に第一志望の大学へ入学したものの、いまだに夢が描けません。多くの先輩たちが進んでいる公務員でいいかな……と考えているくらいです。

そんなふうに夢に向かってまっすぐ進んでいた妹が、元気をなくしていると感じるようになったのは、冬に入ったころのことです。あれほど日夜勉強していたにもかかわらず、模試の結果がよくなかったようです。ほかの人の勉強時間と比べて、もっと自分も勉強しなくてはというあせりも感じているようでした。

妹はクールな大人っぽいキャラクターで、小さい時から弱音を吐くことはほとんどありませんでした。今回も人に愚痴をこぼすこともなく、一人悩んで志望校のランクを落とすことも考え始めている妹が、かえって不憫(ふびん)です。

自分の受験時代を思い返してみると、私は友だちや塾の先生に、不安な思いをぶちまけて聞いてもらうこともたびたびでした。

「現役生の勉強の成果が出るのは、最後の模試が終わってからだ」。私が模試の結果に落ち込むと、先生方がよくこう言って励ましてくれたものです。その言葉に奮起して、実際に私も、年末の最後の模試でE判定だった大学に、現役で合格することができました。

部活をやっていた私も妹も、本格的に受験勉強を始めたのは、部活を引退した高校3年生になってから。そんな短期間の受験勉強ではラストスパートも重要で、あきらめさえしなければ、最後の最後で私のような大逆転もあるのです。

私よりしっかりもので頼りがいのある妹ですが、受験生としての経験は私の方がちょっとだけ上。受験の先輩として、第一志望を諦めるにはまだ早いと伝えたい。

そこで妹をより前向きにしてくれるような花束を作っていただけませんでしょうか? 結果はどうあれ、妹には「第一志望に合格できる!」という自信を持って、勉強を続けてもらいたい。そして、「何があっても、あなたをずっと応援しているよ」という私の思いを、花束とともに伝えられればと思っています。

花のない花屋

≪花材≫アスター、チューリップ、ラナンキュラス、フリージア、センニチコウ、ワスレナグサ、スプレーカーネーション、ブバルディア、デルフィニウム、ピットスポラム

花束を作った東さんのコメント

文武両道な妹さんですね。昨年は学校も満足に行けなかったのではないでしょうか? そんな不安定な中でも、諦めずに難関の医学部を目指し勉強を頑張っていて、とても素晴らしいと思いました。
一足早く、受験を終えた春の息吹を感じるような花束にしあげました。春の花々のフレッシュさと生命力を感じてもらえるよう、小花の中に大ぶりなアスターやラナンキュラスを入れて躍動感を出し、色合いもパステル調で柔らかいけど元気が出るようなビタミンカラーを。黄色のツンツンとした形のチューリップや、サーモンピンク色の星みたいな形に咲くスプレーカーネーションなど、めずらしい花も混ぜました。
今は不安なことだらけかもしれませんが、必ず春はやってきます。受験が終わったら、ぜひ楽しい春を謳歌(おうか)してくださいね。

花のない花屋

花のない花屋

花のない花屋

花のない花屋

(文・福光恵 写真・椎木俊介)

【年末年始プレゼント企画「小さなご褒美」】&w編集部の特別オーダーで、東さんが2021年を彩るミニブーケを束ねます。そのブーケを1名様にプレゼント。応募はこちら(1月15日〈金〉締め切り)

>>これまでの「花のない花屋」をまとめ読み

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「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

夜中まで頑張る背中に春は来る 「国境なき医師団」に憧れる受験生の妹へ

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
近著に作品集「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS Ⅳ 植物図鑑」(青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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