このパンがすごい!

目白のリアル・イタリア。まんじゅう? 座布団? 衝撃の“謎パン”/ティジェッレリア ガタリ

そのイタリアへは目白駅の改札を出て数十秒しかかからない。駅前広場から谷へ下りていく階段の途中、8坪という極狭スペースに「ティジェッレリア ガタリ」はある。

ティジェッレリアとは、イタリア北部エミリア・ロマーニャ州ならではのティジェッラ専門店のこと。では、ティジェッラとは? 丸く、ひらべったく、文様のような謎の焼き印が押された、見かけはまんじゅう。そこに、生ハムやらソーセージやらペーストやらイタリアのおいしいものをいろいろはさめる、エミリア=ロマーニャのモデナ地方で食べられるご当地パンなのだ。ガタリでは、本場のティジェッテリアのように、お店のメニューから好きなものを選んで、その場ではさんでくれる、すばらしいシステムが完全再現されている。

1番人気の「ペストモデネーゼ」(豚の背脂を塩やスパイス、ニンニクで調味したもの)。パンにラード?と、いぶかりながら口へ運ぶと……なんというケミストリー! ぱりぱりの表面に、ふにっとした中身。やがて、ねっとりとろーっと小麦のミルキーさをきらきら輝かせながら、豚の背脂といっしょに溶ける。

目白のリアル・イタリア。まんじゅう? 座布団? 衝撃の“謎パン”/ティジェッレリア ガタリ

ティジェッラにペストモデネーゼをはさむ

パンというとオーブンで焼くものだと相場が決まっているが、ティジェッラはちがう。鯛(たい)焼きの型かホットサンドメーカーのような型を火にかざして焼く。このとき焼き印が押されるというわけ。パンを焼く方法は土地それぞれ、自分の知らない文化がまだまだあると、感動してしまった。

材料は、やはり豚の背脂、牛乳、パン酵母(イースト)、塩、そしてエミリア・ロマーニャ産の有機古代小麦を贅沢(ぜいたく)にも使用。だからこそ、小麦味のきらきらぶりなのである。

目白のリアル・イタリア。まんじゅう? 座布団? 衝撃の“謎パン”/ティジェッレリア ガタリ

ティジェッラの型を開いたところ

もうひとつ供されているのは、ニョッコフリットという、またしても謎のパン。形はまるで座布団、それでいて揚げパンだという。ここに、エミリア・ロマーニャ名物、「生ハム パルマ産24ケ月」をはさんでもらう。イタリア製の手動式スライサーで原木から、向こうの景色が見えるほど極薄に切り出され、万全の口溶けを保証してくれる。

「手動式は摩擦熱が抑えられて、脂が溶けない。おいしい脂は口の中で溶かしてほしいので」と店長の中山朋さん。

目白のリアル・イタリア。まんじゅう? 座布団? 衝撃の“謎パン”/ティジェッレリア ガタリ

ニョッコフリット

座布団が見えなくなるほど、どさっと生ハムが置かれる。ニョッコフリットを二つに折って急いで口へ。揚げているとはいいながら、まるで蒸しパンか白パン。舌触りはふさふさで、噛(か)み応えはもっちり。舌の上でとろり溶けた生ハムの脂をその身に吸収する、小麦(ピエモンテ産石臼挽〈ひ〉き)の甘さはピュアで、極上の脂もろとも、やはりきらきら輝くようだ。

「水分が多くて、べたべた手にくっつくような生地。揚げ時間は短くて、色がつくまではあげません」。揚げパンなのに、もちもちきらきらな理由は、この製法にある。

目白のリアル・イタリア。まんじゅう? 座布団? 衝撃の“謎パン”/ティジェッレリア ガタリ

ニョッコフリットと生ハム パルマ産24ヶ月

エミリア・ロマーニャ料理を完全再現するイタリアン「トレ ガッティ」の系列店。トレ ガッティで手作りしたパン、そして総菜をあたためて提供する。

同じく、スライサーで極薄に切ってニョッコフリットにのせたボローニャ産「モルタデッラソーセージ」は衝撃のふわふわ感。しっとりと舌に触れては、華やかでやさしい豚の甘さをあふれさせる。

豚の風味、野菜の風味、甘さがフルに引き出された「ボローニャ風ラグー」(ミートソース)をティジェッラに。日本人の口になじんだパスタと同様、ミートソースと小麦なのだから合わないはずがない。

「ラグーを作るのは半日がかり。野菜の切り出しからはじまり、煮詰めが何回も何回もある。『今日ラグーやるぞ!』って気合を入れて臨みます」

目白のリアル・イタリア。まんじゅう? 座布団? 衝撃の“謎パン”/ティジェッレリア ガタリ

店内風景

店のメニューはすべてイタリアそのまま。素材もイタリア製。イタリアの小麦粉はじめ、塩、サラダに使うビネガー、ワイン、果てはカウンターに置いた紙ナプキン入れに至るまですべてイタリアのものだ。オーナーの眞壁貴広さんのイタリアへのリスペクトはものすごいものだ。

「『現地にある店を作りたい。現地にないものはやらない。イタリア人ではない僕らがイタリアとちがうことをしたらイタリアンではなくなる』と言っています」

ティジェッラ、ニョッコフリットを食べるとき、食べ手にもイタリアの感性が乗り移っているように思う。なんだか楽しくなり、いつのまにかワイングラスが空になる。

「200円のエスプレッソ1杯だけでもいいんです。ティジェッラはイタリアの軽食屋、ハンバーガー屋みたいなもの。気軽に来てほしいです」

こだわりまくったティジェッラ、ニョッコフリットが、具材込みでわずか300円。人生の隙間に駆け込めるオアシスが目白駅前に湧き出している。
 

ティジェッレリア ガタリ
東京都豊島区目白3-4-15 目白駅前ビル B1F
03-6914-4554
11:30~20:00
日曜休
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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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