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一度きりの瞬間を焼き付けて 特別な3年間の記録

一度きりの瞬間を焼き付けて 特別な3年間の記録

撮影/猪俣博史

『そんなふう』

ひだまりに誘われるような装丁に引かれて、思わず手にした写真家、川内倫子さんの出産・育児エッセー『そんなふう』(ナナロク社)。子育て情報サイト「Fasu」(旧MilK JAPON WEB)での、川内さんの日記連載が書籍化されたもので、お子様が生まれる前から3歳までの日々が、川内さんによる光あふれる写真と共につづられています。私自身、ちょうど3歳の息子がいるということもあり、まるで自分のことのように感じる箇所もちらほら。子供との時間がより愛(いと)しくなると共に、家族の“世代交代”についても考えさせられる一冊です。

子供といると、日々、その成長ぶりに驚かされ、時間の流れに敏感になります。

1歳になって気がつけば1歳児らしくなっている。歩いている、言葉らしきものをしゃべっている。……身長は20センチ伸び、体重は3倍になった。……しっかり噛(か)み締めて過ごしたはずの1年が終わってしまった。もう赤ちゃんではないのだ、目の前には幼児がいる。わかっていたはずなのにあっというまだった。

生まれてから3歳までの変化が大きい3年間はなおさらそうで、川内さんがおっしゃるように、確かに「特別な時間」のように思えます。だからこそ、日記を彩る川内さんの写真を眺めていると、写真という手法も相まって、子供とのまたとない一度きりの瞬間の尊さが心に響きます。

自分と子供との特別な3年間は、これでよかったのだろうか。日々の慌ただしさに負けて、おざなりになってはいなかっただろうか——。そんな風に思わず反省しながら振り返ると共に、今しかないこの時を、存分に目に焼き付けながら大切に過ごしていかなければと、身が引き締まります。

家族の世代交代、巡っていくもの

私自身、子供が生まれてから、母親への思いが一段と強くなったこともあり、川内さんのお母様にまつわるエピソードにも、大変心を動かされました。「あのとき、母もこんな気持ちだったのかな。こんな風に守られていたのかな」と、数十年遅れで気付きながら、日々、育児をしていますが、改めて母への尽きない感謝があふれてきます。

また、ご両親やおじい様、おばあ様とのエピソードを通して、家族の世代交代についても考えずにはいられません。

両親と一緒に乗っていた小さな舟とはいつの間にか離れていて、かつて彼らがそうやってなんとか舵(かじ)をとって進めていたことは、なんて不安定な、でも自分にとってはとても安心できる場所だったのだろうと、いま自分が舵をとる立場になって気づいた。

子どもの5年の変化も大きいが、老人の5年もそうだ。あのとき、しっかりと意思を感じる眼差(まなざ)しで、途切れずに妹とのおしゃべりを楽しんでいたのに、いまは目の前にいても少し遠くにいるように感じる。あの日の祖母はもういないけれど、それでもいま生きて娘と話している姿が見られるだけで嬉(うれ)しい。こうして人が年をとるということを見せてくれることも祖母の役割なのであって、そうやって巡っていくのだ。

子供だけでなく、両親や祖父母とのまたとない一度きりの瞬間も、しっかり噛み締めながら過ごさねばと思わされます。

「川内さんは、時間のなかで失われていくものを撮られているのではないかと思います」と、作家の山崎ナオコーラさんが『週刊読書人』(第3367号)の対談で、川内さんに話されていたのが印象的でした。「どの作品でもそこが基盤にあります。時間の流れの残酷さや儚(はかな)いもの、諸行無常ということが、私の写真の共通のテーマです」(川内さん)というお返事に大変納得しました。写真同様、このエッセーにも、そうしたテーマが貫かれているように思います。

先日、あるテレビ番組で紹介されていたという「わが子と生涯で一緒に過ごす時間」について耳にし、愕然(がくぜん)としました。母親は約7年6カ月、父親は約3年4カ月という短さだそうです。全体を100%とすると、幼稚園入園時には、そのうちの18%が過ぎ、幼稚園卒園時には32%、小学校卒業時には55%、高校卒業で親元を離れる頃には73%も過ぎ去ってしまうとのこと。また、「親と一緒に過ごせる残り時間」は、親と離れて暮らしている場合、1年間で1日だそうです。
(出典:NHK「チコちゃんに叱られる!チコっとだけスペシャル 『親子で一緒に過ごせる時間』」2018.8.15放送)

思っていた以上に自分の家族との“持ち時間”が限られていることを知り、動揺せずにはいられませんが、一瞬一瞬、全力で楽しみながら、大切に過ごしていくしかないのかもしれません。次に帰省できたときは、最近、写真を撮ることを覚え始めた息子に、久しぶりに母との写真を撮ってもらおうかな、と思っています。

(文・若杉真里奈)

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    若杉真里奈(わかすぎ・まりな)

    湘南 蔦屋書店で雑誌、ファッションを担当するほか、湘南T-SITEの広報、イベント販促も務める。ファッション業界新聞社で編集、展示会事業を担当した後、湘南T-SITEの立ち上げに参加。
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