ほんやのほん

あなたは何を「うれしい」と思う? 20年後に“旬”を迎えた本

あなたは何を「うれしい」と思う? 20年後に“旬”を迎えた本

撮影/馬場磨貴

『インターネット的』

話は一度、少年時代までジャンプする。

そういえば、ぼくは「たたかう」ことが大好きな少年だった。弟とチャンバラ遊びをするときは本気になったし、けんかの取っ組み合いだって、ある意味ではどこか楽しんでいたのだといまなら分かる。そのくらいの年代の子は、まあ似たようなものだと思う。

同じくらい「応援する」ことにも夢中だった。テレビの中のヒーローが負けそうになると、届くわけない声で「がんばれー! 負けるなー!」と叫んだ。勘違いだったら申し訳ないが、これは個人的な思い出であると同時に、多くの人ときっと共有できる原風景だと思う。

今回選んだ一冊をご紹介する前に、まずはそんな懐かしい風景に寄り道したかった。誰に頼まれたわけでもなく「応援する」ことの「うれしさ」を、本能的・身体的にわかっていた子どものころの自分。彼が、この本の世界へ分け入っていくとき、手を引いて導いてくれる気がしたからだ。

今回ご紹介する『インターネット的』は、『ほぼ日』の糸井重里さんが(なんと!)20年前に書いた本を文庫化したものである。「インターネット」という言葉と20年という時間。この二つが合わさると「なんでそんな古い本を?」と思ってしまうのも無理はない。でも、ご安心いただきたい。20年という時間のなかで最高の発酵を遂げて、「この本を真剣に読むべきベストタイミングがついに来た」とさえ言っていい。

例えば、冒頭でこんなことが書かれている。

インターネットは人と人をつなげるだけで、それ自体が何かをつくり出すものではありませんから、豊かなものになっていくかどうかは、それを使う人が何をどう思っているかにかかっているのではないでしょうか。(p.18)

これが本書の重要なメッセージのひとつで「インターネットが登場しても、人そのものは変わらない」という視点だ。この「インターネット」の部分を「新しい道具」と言い換えても構わない。AIでもVRでもクラウドファンディングでも、SNSでもいい。そういった道具は、登場する度にもてはやされるが、それを扱う人間は太古の昔から実はそんなに変わっていない。

当たり前のように思えるが、これはけっこう大切な前提だ。新しい道具が世に出るたびに「未来に酔っぱらった」言説が大量に流れるが、私たちが何を「うれしい」と思うかは案外変わっていない。だから糸井さんは「この道具は経済をどう変えるか」ではなく「この道具を使った私やあなたは、何をうれしいと感じ、何を面白いと思うのだろう」という徹底的な「人起点」で考えていく。

20年の時を経ても「ここに本質が書いてある」と言われる稀有(けう)な一冊。その秘密は、このあたりにあるように思う。

みんな、「たたかう」ことにエントリーしている

インターネットの登場で、私たちは「たたかう」ことがしやすくなった。だれよりも速く、だれよりも大きく、だれよりも安く、だれよりも詳しく、だれよりもフォロワーが多くて、だれよりもおもしろいものを……。この世界はスピードを上げていき、生産性や効率が王様になった。勝つか負けるかの二項対立は味気ないが、でもそういった世界で「たたかう」ことに、いつの間にかみんなエントリーしている。

ただ、本書を読むと、『インターネット的』な世界は、いまよりもっと豊かなものになりうると思えてくる。様々な意味で分岐点に立っている今こそ、この本を開くベストタイミングだと思うのはそういった理由だ。

“当社は、こういうことをする会社なんです”というふうに、理念からすっかり変わっていくことが大事になっていく。「あの人たちの会社だから、いいよなぁ」という見方をされて好感を持たれることが、経営そのものの重要な要素になっていく時代が、ほんとうにくるように思うのです。
インターネットの両端で、人と人が、ちゃんとリンクしている。そこに個人が自分の経験や思いを集めて紡いできた、いわば「属人的な」情報が、たがいの関係もハッキリしないままに軽やかに集まっている。(p.22)

インターネットがあることで、「私」が「あなた」と出会って、惹(ひ)きつけられて、一緒に何かをはじめることだってあるだろうし、遠くから「応援する」ことだってある。「うまく説明できないけれど、この人(ブランド)を応援したい」と思わせる人(ブランド)の価値は、これからきっとどんどん高まっていく。

もっと「人」が起点となり、お互いにリンクしあって、応援して応援されて。そういった応援するという「うれしさ」が、社会を動かすエンジンになって経済をぐるぐる回していく。そんなイメージを広げてみると、きっとそれは、なかなか悪くない光景だと思える。

「がんばれー! 負けるなー!」と叫ぶとき、叫んでいるぼくも「うれしさ」をもらっている。もうとっくにわかっているそういうことについて、もう一度真剣に考えてみてもいいのではないか。この本と、いつかの自分が、そう言っているような気がする。

(文・中田達大)

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