篠原ともえ アイデアのありか

風呂敷に藍色の星空。手描きの“かすれ”で、伝統工芸品の風合いを

このたび、鳥取県からコラボレーションのオファーをいただき、県のブランド米である星のように輝くお米、その名も「星空舞」(ほしぞらまい)の限定パッケージをデザインさせていただきました。ご依頼を受け、このお米のおいしさを、鳥取の魅力とともにどうみなさまへお届けできるか、アイデアを練る中で思いついたのが、お米を食べ終わったあともお手元に残り活用できるアイテムとして、風呂敷をギフトセットにお付けすることでした。この提案に県のご担当の方々もご賛同くださり、制作はスタートしました。

鳥取県にはこれまで仕事でもプライベートでも何度か訪れているのですが、皆さんはこの地の伝統工芸品である弓浜絣(ゆみはまがすり)という木綿の織物をご存じでしょうか? 私はすっかりこの織りの虜(とりこ)で、椿(つばき)があしらわれた鞄(かばん)を持っているほか、お着物も着たことがあるのですが、糸から紡ぎ時間をかけてつくられるこの弓浜絣は、肌触りがとてもよく、素朴ながらも温かみのある“かすれ”がデザインに活(い)かされています。

今回この伝統工芸品のアイデアをベースに、お米の名前にも入っている鳥取の美しい星をイメージし、「絣(かすり)の星空」をパッケージ、そして風呂敷へと展開できないかと考えました。

風呂敷に藍色の星空。手描きの“かすれ”で、伝統工芸品の風合いを

私物の弓浜絣の鞄と着物

鳥取県西部の弓ヶ浜地方で発祥したこの木綿は、もともと砂地を利用した自家用の綿の生産から始まり、「浜の目絣」と呼ばれる絵絣が農家の女性たちによって織られるようになったそうです。暮らしに根付いたこの織物は、手仕事のぬくもりが感じられる親しみのある素材。ただ、現在はその伝統的な技法もあって貴重品とされ、今回風呂敷への展開を考えた時、残念ながらこの織りをそのまま使うことは諦めなければなりませんでした。

そこで、イラストでこの弓浜絣をなんとか再現できないかと試行錯誤の末、“かすれ”を生かした筆致で星空をデザインし、それをシルクスクリーンによって風呂敷へプリントすることにしました。

風呂敷に藍色の星空。手描きの“かすれ”で、伝統工芸品の風合いを

オフィスの屋上にてイラストレーション制作

「絣」の名の通り、かすれ感を表現しようと筆や絵の具など様々な画材で描いてみましたが、最終的には、黒のインクで風呂敷とほぼ実寸大の紙にダイナミックに描くことで“かすれ”を表現。鳥取の夜空を飾る美しいお星さまは、そのかすれた黒地から流星のごとく浮かび上がった地の白を生かしました。

はじめての手法になかなか慣れず、思い通りに描けない時もあったのですが、偶然性も楽しみながら、日を分けて描くことおよそ30枚。その中からメインとなるビジュアルを選び、色も弓浜絣の象徴であり、夜空を思わせる深い藍色に調整しました。

このデザインを風呂敷にプリントする作業は、京都・伏見にある大正2(1913)年創業という老舗の馬場染工場さんにお願いしました。

風呂敷に藍色の星空。手描きの“かすれ”で、伝統工芸品の風合いを

馬場染工場にてシルクスクリーン体験

こちらの工場では、昔ながらの染めを守りつつ、ひとつひとつの工程が丁寧に手作業で進められており、そんなところも今回お願いをした理由のひとつです。星空舞の風呂敷も、綿の生地にシルクスクリーンによって一枚一枚職人さんが手刷りで仕上げていきます。

私も工場に赴き、その様子を見学させていただいたのですが、「篠原さんもやってみますか?」とお声がけいただき、体験したところ……難しい! 途中で色が擦れたり、染料があふれてしまったり、さすが職人さんのなせる技だと、身をもって感じました。

風呂敷に藍色の星空。手描きの“かすれ”で、伝統工芸品の風合いを

印刷に使用する天然のり

その工場内で、なんと私の名前でもある「ともえ」のバケツを発見! 驚いて思わず記念撮影をしたのですが、これは染色を定着させるために使う天然素材から出来ている“のり”なんだそう。工場は建物自体も木造の瓦屋根で趣があるのですが、使われている材料や道具にも昔ながらの雰囲気が漂っており、受け継がれてきた手仕事の大切さを実感できる空間でした。

風呂敷に藍色の星空。手描きの“かすれ”で、伝統工芸品の風合いを

風呂敷の生産は限定500枚

ずらりと並んだこの藍色をつくり出すまでにも、試し刷りを何度かお願いしたり、その都度かすれの具合をチェックしたり、時間をかけて向き合いました。そして、蒸し・水洗い・湯のしといった工程を経て、ついに“かすれ”の風合いを見事にとどめた風呂敷が完成。

風呂敷と並行してパッケージのほうも進めていたので、今度は箱の紙材選びや印刷チェックも。風呂敷の藍色との色味を合わせる作業など、紙業者さんとも何度か色校正をおこないました。デザインって本当に大変なんだなぁと、追求すればするほど奥深く、今回も初めて知ることが多くありました。

風呂敷に藍色の星空。手描きの“かすれ”で、伝統工芸品の風合いを

デザインした箱と風呂敷たち

そうしたさまざまな工程を経ているからこそ、出来上がった時の喜びといったら。たまらなくうれしいのです。風呂敷は長く使っていただきたいという願いもあったので、時間をかけて納得のいくものを作りたいと思っていました。私自身も風呂敷で着物や和小物を包むなど、普段から用途に合わせいろいろと活用しています。最近の生活では必需品ともいえるエコバッグとしてもお使いいただけますよね。近年自分の制作でも取り入れているサステイナビリティーも意識しています。

風呂敷に藍色の星空。手描きの“かすれ”で、伝統工芸品の風合いを

限定パッケージの撮影現場に立ち会う様子

商品が仕上がると次は写真撮影へ。トーンや世界観をカメラマンさんと打ち合わせして撮影してゆきます。風呂敷の結び目を調整したり、位置や角度を変えたり、限られた時間の中でいろいろと判断しなければならず、商品カットだけでもこんなに集中力を要するのかと、緊張感もありましたが、やりがいのある現場でした。これまでの仕事では私自身撮られる側が多かったので、同じ撮影といっても、新たな発見の連続で、たくさんの刺激と学びを得ることができました。

風呂敷に藍色の星空。手描きの“かすれ”で、伝統工芸品の風合いを

鳥取県のお米「星空舞」篠原ともえデザイン限定パッケージ

まだしばらくはステイホームの日が続きますので、ぜひおうちごはんで「星空舞」をご堪能いただきながら、みなさんの暮らしのお供として風呂敷もお役立ていただければ幸いです。
 

星空舞 篠原ともえデザイン限定パッケージ

2合キューブ2個入りと、篠原さん渾身(こんしん)の風呂敷が付いた6個入りの2種類展開。それぞれ限定500個です。都内のアンテナショップ、とっとり・おかやま新橋館や、鳥取県内の中嶋米穀さんのオンラインショップでもご購入いただけます。詳しい情報は鳥取県の公式サイトをご覧ください。

PROFILE

篠原ともえ

デザイナー/アーティスト
1995年歌手デビュー。文化女子大学(現・文化学園大学)短期大学部服装学科デザイン専攻卒。映画、ドラマ、舞台など歌手・俳優活動を経て、現在はイラストレーター、テキスタイルデザイナーなどさまざまな企業ブランドとコラボレーションするほか、衣装デザイナーとしても松任谷由実コンサートツアー、嵐ドームコンサートなどアーティストのステージ・ジャケット衣装を多数手がける。2020年、アートディレクター・池澤樹と共にクリエーティブスタジオ「STUDEO」を設立。

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