歴史を立体的に浮かび上がらせる、オバマ夫妻のそれぞれの自伝PR

世界で1千万部以上売れたオバマ元米大統領夫人ミシェルの自伝『マイ・ストーリー』(集英社)に続き、2020年2月に刊行されたオバマ元米大統領自身の回顧録『約束の地 大統領回顧録Ⅰ』(同)。米大統領というハードな環境で下される決断の舞台裏や家族との葛藤——。この2冊を読み比べることで、オバマ家で繰り広げられた歴史の実相がより立体的に浮かんでくる。

記録ではなくストーリーとして描く

『約束の地』には、大統領選出馬までの経緯と決意、さらに大統領に就任してから2011年のオサマ・ビン・ラディン殺害までの出来事が描かれている。

金融危機への対応、オバマケア法案の成立、イラク撤退、アフガン増派、数々の外交交渉の舞台裏などが描かれるトピックは、アメリカ政治に関心がある人にとっては言うまでもないが、国際情勢に明るくない人でもわかりやすく、そして手に汗握りつつ読むことができる。

これは数々の名スピーチでも目の当たりにしてきたオバマ元大統領の類いまれな言語能力、ユーモアと感性のなせる技(そしてもちろん翻訳チームの見事な仕事のおかげ)であることも間違いないが、本人はその理由について、こう前書きで述べている。

「自分たちが下した決断について書くときは、どのように最終判断に至ったのか、その文脈を伝える義務があると感じ、背景にある事情を脚注や巻末注に追いやることは避けたいと考えた(私は脚注や巻末注が大嫌いなのだ)。(中略)些細(ささい)な出来事の記憶(夕方にタバコを吸っても問題ない場所を探したことや、エアフォースワンの機内でスタッフとトランプをしながら笑い合ったことなど)を掘り返した。そういう細かいところに、公文書には残らない形で、ホワイトハウスの8年間の実体験が詰まっているからだ」。

オバマは大統領時代の決断や葛藤を、ただの記録ではなくストーリーとして描きだした。だからこそ、大統領としての職務に関わる部分も、そうでない部分のエピソードも楽しむことができる。

愛犬「ボー」とホワイトハウスでたわむれるオバマ

愛犬「ボー」とホワイトハウスでたわむれるオバマ元米大統領

大統領への道の中でできた「パートナー」

特にひきつけられるのは、大学卒業後にコミュニティー・オーガナイザーとして活動した原点や、政界入りを決意してから大統領になるまで、国中が彼に期待を寄せていく過程だ。一人の人間が迷い悩み奮闘しながらも、人生の中で自分がなすべきことを定めていく道のりが書かれている。

その折々での選択のさなかに、バラク・オバマをパートナーとして支えたのがミシェル・オバマだ。根底では同じ価値観を共有しながらも、それぞれが求める理想のためには激しく言い争うこともたびたびあった。

「2人は対照的だった。だからこそ互いを補い合える。相手を守り、弱点を打ち消し合える。2人はチームになるのだ」とバラクは述懐している。

この回顧録に先立って刊行されたミシェルの自伝『マイ・ストーリー』では、ミシェルは自身のことを「孤独をまったく求めない社交好きで家庭的な女」、バラクのことを「孤独が好きな個人主義者の男」と表現している。

2人ともお互いの性格の違いはよく認識していたようだ。だからこそパートナーとしてひかれあったのだろう。

夫としての素顔

バラク・オバマ氏とミシェル・オバマ氏と二人の娘たち

バラク・オバマとミシェル・オバマと二人の娘たち

深い愛情でつながる2人だが、多くのパートナーシップと同様に、ときには家庭がギクシャクし、意見が対立することもあった。

例えば連邦上院議員の出馬を前にした時期。子どもが生まれたばかりなのに、バラクは自宅を留守にしがちで、家族で過ごす時間はわずか。学生ローンも住宅ローンも残っていて、出馬のために弁護士業を中断すれば家計はさらに火の車となる。

「私たちは口論することが増えていった。たいていは深夜、2人とも疲れ切っている時間帯だ。あるときミシェルが、『こうなるために結婚したわけじゃないわよ、バラク』と言った。『私だけがすべてを負担してる気がする』」。

大統領になるほどの人物だからといって、パートナーとの不和を一瞬で打ち消すような魔法を持っているわけではないようだ。それでもバラクは、理想を見失わない信念の強さ、そして何よりもミシェルの立場になって状況を理解しようと努力したのだろう。

『マイ・ストーリー』の中で、ミシェルは次のように述べている。

「騒がしい政治の渦の中、離ればなれの夜でも決して失われないもの、彼はそれを大切にしていた。家族を軽く扱うことなど決してなかった。(中略)まるで毎日、家族と政治のどちらかを選ぶ投票を強いられているかのようだった」

家族に対する真摯(しんし)な姿勢がミシェルの心を動かし、そして2人の関係を維持した。想像を絶するハードさの大統領職において、日々すり減らしているはずの洞察力を、長く連れ添った妻に対しておざなりにせずに向けていることには驚かされる。

「その成功と人気にもかかわらず、ミシェルは常に心の底に緊張を抱えていると感じとれた。まるで、どこかで機械が微(かす)かだが絶えず音を立てて動いているかのように」

そして何よりもミシェルの可能性というものに、バラク自身が全幅の信頼をおいている。

「ミシェルは頭ではなく心から、理論ではなく経験から出発する人間だ。そして、私もよく知っているが、彼女は失敗することを嫌う。ファーストレディという新しい役割にどんな葛藤を抱えていたとしても、確固たる態度で最後までやり抜くだろう」

オバマ家を立体的に描く2冊

『マイ・ストーリー』にはミシェルの視点から、仕事と家庭のために尽力するオバマ元大統領や、特殊な環境に置かれた娘たちの姿が書かれており、『約束の地』にはオバマ元大統領の視点から、要所要所でミシェルと娘たちの話が描かれている。

2人が出会ったシーン、選挙活動のさなかの娘の誕生日パーティー、大統領選当日の夜など、それぞれの著書に、共通の場面の描写も度々登場する。『マイ・ストーリー』と『約束の地』を読み比べることで、より立体的に、その時、2人の心に去来したものが、そして「オバマ家」の姿が浮かび上がってくる。

それぞれの著書が補いあっている様子は、ちょうど2人の存在が互いを補いあっているようだ。
(文・高橋有紀)

歴史を立体的に浮かび上がらせる、オバマ夫妻のそれぞれの自伝

娘たちと肩を組み歩くオバマ

バラク・オバマ『約束の地 大統領回顧録Ⅰ』(上下)
(原題『A Promised Land』)上下巻 各2,200円(税込み)
公式サイトはこちら

ミシェル・オバマ『マイ・ストーリー』
(原題『BECOMING』) 2,530円(税込み)
公式サイトはこちら

 

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