このパンがすごい!

季節のフルーツがてんこ盛り。拝みたくなるほど美しいデニッシュ/eteco bread

朝10時の絢爛(けんらん)。オープンめがけて準備されたパンがいっせいにそろう、もっともうつくしい時間だ。デニッシュやタルティーヌやクロックムッシュ。具材盛り盛りのデコラティブなパンたちが並べられた光景は、ひざまずいて拝みたくなるほど神々しい。

渾身(こんしん)の「ダノワ」(デニッシュ)は、季節のフレッシュなフルーツがあれやこれや、どっさりとのってきらびやか。たとえば、「デニッシュ ノワール」。ぶちゅっと甘酸っぱくブラックベリーが弾けて快楽の連鎖の引き金を引く。大粒ブルーベリーやプルーンが果汁のシャワーを浴びせ、ワイン漬けドライイチジクから滲(にじ)み出す甘美な液体は、底に仕込まれたいちじくソースとともに果実味をより豊潤に感じさせるブースターとなり、脳天へずきゅーんと官能を轟(とどろ)かせる。クロワッサンの器がざっくんざっくん砕ける快感。層は厚めに、あえてグルテンの強い小麦粉で作るクロワッサンは、ブーランジェ梶原裕さんが得意とする一品だ。

季節のフルーツがてんこ盛り。拝みたくなるほど美しいデニッシュ/eteco bread

デニッシュ ノワール

etecoとはフランス語の「été」+「子」=夏子を意味する。妻の梶原夏子さんが務めていたフレンチレストランのフランス人シェフが名付けた愛称を店名にしたもの。もともと夏子さんの焼き菓子店として構想された店に、夫の裕さんが入り、パン屋となった。ソースや素材の下処理などを夏子さんが支えることで、この手の込んだパンができあがる。

切り込みにたっぷりあんこが詰められ、大口を開けたような形のあんぱん。2人の力量が発揮された秀作である。夏子さんが手掛けたつぶあんは、豆の香りの豊かさ、あたたかみがありながら、和菓子屋のそれのように香りは洗練されている。生地は、あんこと好相性このうえないくるみパン。毛足の長い犬に頬ずりされるようにふさふさと歯茎に触れ、ハード系のようにこりっとしているのに、風味はリッチという、未体験の代物だった。

季節のフルーツがてんこ盛り。拝みたくなるほど美しいデニッシュ/eteco bread

あんぱん

「ハード系ですが、くるみの粉、アーモンドプードル、蕎麦(そば)粉が入っています。表面はぱりっと、かつ、やわらかいパンにしたかったので、がちがちには固めず、やさしく成形しています」

パン職人として20年以上ものキャリアをもつ裕さんは引き出しも豊富。パンのワールドカップで世界を制した上司の下で働いたこともある。たくさんの具材を盛り付けるようになったきっかけは、スタイリッシュな総菜やパンで知られるアメリカ発の食料品店にいたことにある。

季節のフルーツがてんこ盛り。拝みたくなるほど美しいデニッシュ/eteco bread

店内風景

「パンを作っていたのと同じスペースで総菜も作られていました。僕たちが知らないスパイス、食材、見せ方を学ばせてもらった。これならパンにも活(い)かせそうだと思いました」

たとえば、「ソシス」というタルティーヌ。どーんとのっかったウィンナー、紫キャベツのマリネも盛り盛り。ソースもなくライ麦パンだけで勝負。豚の野放図な野性味を、ローズマリーの香りと、柚子胡椒(ゆずこしょう)ソースのひりひりぴりぴりがソフィスティケイトする。

季節のフルーツがてんこ盛り。拝みたくなるほど美しいデニッシュ/eteco bread

ソシス(サルシッチャ)

パン生地の「バゲット大麦」には、風味・食感だけでなく、健康面でも注目される大麦粉「バゲットヌーボー」を使用。尖(とが)った先端はかりかりと歌う。具材がのっていても難なく食べられる歯切れのよさ、大麦の濃厚な風味はまるでチョコのようで、サンドイッチの全体にしっかりとしたボディーを与える。

渦巻きがうつくしい「パン・ア・ラ・クレーム」。オーダー後にクロワッサンにクリームを後入れし、フレッシュなものを提供する。ゴーフルを重ねたようなばりばり感。プリンとバタークリームを同時に想起させるほどの濃厚カスタード。円筒形に成形されたクロワッサンもうつくしい。

季節のフルーツがてんこ盛り。拝みたくなるほど美しいデニッシュ/eteco bread

パン・ア・ラ・クレーム

「あの形がなかなか出せないんです。妻とも『あの形じゃなきゃいやだね』と話しています。少し発酵しすぎても、発酵が若くてもあんなふうにならない。きのうもぜんぶ失敗でした」

うつくしいパンへの並外れたこだわり。盛り盛りの具材を準備するため、週2日の定休日も2人は仕込みに追われる。朝10時の絢爛はたゆまぬ努力のたまものだ。
 

eteco bread
東京都世田谷区代沢2-42-7
10:00~売り切れ終了
月・火曜休み及び不定休
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池田さんからのお知らせ

BS朝日「パンが好きすぎる!」(土曜10時30分)出演中。池田浩明と、ゴスペラーズの酒井雄二さん。パンが好きすぎる2人が数々のパンを味わいつくす、新感覚のパン・テイスティング番組です。

PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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