篠原ともえ アイデアのありか

習い事、はじめました。新しいドキドキワクワクを探しに

ありがたいことにこのごろはイラストのお仕事も多くいただくので、これまで以上にイメージを絵に描き留めることを心がけているのですが、表現の幅をさらに広げるため、最近新しい習い事として、版画教室に通い始めました。

この連載の第1回でもご紹介したのですが、私が近年取り組んでいる平面の作品は、紙と鉛筆による抽象画です。その発展形として、自分がワクワクするような何か新しい手法はないかなと考えたとき、版画はまさにその思いに応えるものでした。

習い事、はじめました。新しいドキドキワクワクを探しに

スケッチからイメージを膨らませて(版画工房にて)

本格的に版画に取り組むのは初めてだったのですが、鉛筆画を描いていると、私の筆圧が強いこともあり、紙に鉛筆の線が埋まっていく様子がどこか彫っている感覚に近く、心地よく感じていました。もしかしたら、この感覚は版画でも生かせるかもと、実は常々興味は持っていたんです。

私がまず習い始めたのは銅版画です。その工程は、銅板などの金属板にニードルと呼ばれるペン状の道具で引っかくように描いていき、くぼみをつけます。そして、版全体にインクをのせた後、くぼんだ部分以外、白く出したいところのインクを拭き取り、プレス機を使って紙に転写し印刷します。ただ今回私は、銅板ではなく、紙凹版(かみおうはん)と呼ばれる片面が樹脂加工された特殊な紙を用いる手法を選びました。

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ニードルやお裁縫で使う目打ちを使い、時間をかけて版を削ります

最初のモチーフは、普段よく描き留めている自然にまつわるものにしました。星や葉っぱなどスケッチを重ね、最終的には自分が続けてきた鉛筆の細かい線画を生かそうと、樹木を描くことに決めました。

メモに描いたイメージをもとに、ドライポイントプレートといわれる版となる特殊な紙に、下書きをせず直接ニードルで彫ってゆきます。タッチを変えたい時は削る道具を変えるのですが、私は使い慣れた目打ちを使ってみました。目打ちはお裁縫の際、細かい作業をする時に使う道具で、大学生の頃から愛用しているものでもあり、まさか版画の制作で役に立つとはなんだか不思議な感覚でしたが、手なじみもよく制作に没頭できました。

習い事、はじめました。新しいドキドキワクワクを探しに

モチーフを彫り終わったら、版に顔料・アマニ油などでできているインクを丁寧に詰めていきます。たっぷり塗ったインクを寒冷紗(かんれいしゃ)という麻の布で大胆に拭き取ったあと、人絹(じんけん=レーヨン)や紙で時間をかけてさらに丁寧に拭き取ります。こうすることで凸部分が白く浮き上がってくるのです。銅板とは違い、削る版が柔らかく彫りもなめらかに進むので、刷り上がりは細かい線が再現できとても気に入っています。

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ゆっくりとプレス機を回し、和紙に版画を転写する作業

印刷は水で湿らせた版画紙を版の上に置き、プレス機の圧でゆっくり転写してゆきます。刷り上がりの時は全ての工程の中でも一番うれしい瞬間です。教室のみなさんが集まり、感想を寄せてくれ、作ることが好きな方々とのこうしたコミュニケーションも幸せなひとときです。

印刷した樹木の紙版画は、シワが出ないように板に水張りをして、1週間ほど乾かしたら完成します。工程が全て手作業であること、そして材料の多くが天然の素材であることも、手を動かしていて心地よく、夢中になれるポイントなのかもしれません。

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樹木を描いた版画作品と一緒に

以前より版画に興味があったお話は冒頭でさせていただいたのですが、実は私がその世界に完全に魅了されたのは、ある作家さんがきっかけでした。その方はイラストレーター・銅版画家のタダジュンさん。これまで数多くの本や雑誌の装画を手がけてきたタダさんの展覧会へ行き、その幻想的で独特な世界観に感銘を受け、自分でもやってみようとすぐに版画教室に通うことを決めたのです。

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タダジュンさんの作品たち

版画作品はいつでも目が合うようにオフィスに飾っています。タダさんの作品はずっと眺めていられる不思議な魅力があるのです。どうやって作られているのだろう?と思うほど、版画を習っている今でも分析できない奥深い魅力が、このタッチには詰まっています。

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銅版画家タダジュンさんの展覧会にてご本人と

展覧会で偶然ご本人にお会いする機会があり、版画の世界を愛しそうにお話しされる姿がとても印象的でした。タダさんの表現に近づくまでにはまだまだ修練が必要ですが、描くことの新たな楽しみを教えていただいた貴重な出会いでした。

季節は春。新しい生活をスタートしたかたも多いと思いますが、そうでないかたも、なにか心がドキドキワクワクすること、始めてみてはいかがでしょうか。きっと今までにないアイデアを発見することができますよ。

PROFILE

篠原ともえ

デザイナー/アーティスト
1995年歌手デビュー。文化女子大学(現・文化学園大学)短期大学部服装学科デザイン専攻卒。映画、ドラマ、舞台など歌手・俳優活動を経て、現在はイラストレーター、テキスタイルデザイナーなどさまざまな企業ブランドとコラボレーションするほか、衣装デザイナーとしても松任谷由実コンサートツアー、嵐ドームコンサートなどアーティストのステージ・ジャケット衣装を多数手がける。2020年、アートディレクター・池澤樹と共にクリエーティブスタジオ「STUDEO」を設立。

「耳をすまして空を聴く」 想像を導いてくれるおまじない

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