bookcafe

<4>中央線の客が創る「ソーシャルな茶室」

  • 文 吉川明子 写真 石野明子
  • 2014年11月20日

 JR荻窪駅西口から続くにぎやかな商店街を抜けると、寺と神社と線路に囲まれた三角地帯に出る。そこに、昭和からそのまま取り残されたような木造2階建ての建物がある。急な外階段を上り、古びた木のドアを押すと、中央線の走行音がガタゴトと響く。

 ナカムラクニオさん(43)と道前宏子さん(33)が営むブックカフェ「6次元」。ここにはかつて、30年以上続いた伝説のジャズバー「梵天」があり、その後、2008年に惜しまれて閉店した人気のカフェ「ひなぎく」があった。

 6年前、ナカムラさんが「ひなぎく」に初めて足を踏み入れた時のこと。カウンターに座った途端、隣の客から「サンドイッチ食べる?」と勧められた。他者との濃密な距離感に面食らったが、一方で不思議な面白さも感じた。

 ナカムラさんは長く、テレビの制作現場で激務を重ねてきた。30代後半に差し掛かったころ、死ぬまでにやりたいと思っていた3つの夢があることをふと、思い出した。なんとかして実現させたい。切実にそう思った。夢とは「カフェ」と「古本屋」と「ギャラリー」をすることだった。

 都内で古い物件を探していると、閉店した「ひなぎく」が取り壊されるという噂(うわさ)を耳にした。

 「歴史ある空間を保存しなくては」。ナカムラさんは店内にある家具などすべてを買い取り、新たに「6次元」というブックカフェに変え、再び息を吹き込ませた。一挙に三つの夢を叶えたのだ。

 店が忙しくなると、客が勝手に注文を取ったり、洗い物をしたりして手伝い始める。「ケーキを焼いたよ」と持って来る人もいた。ナカムラさんには驚きの連続だった。

 客同士が知らぬ間に会話を始め、“お茶会”がはじまる。オープンから4年、この店で出会って結婚したカップルは10組にもなる。うち2組はナカムラさんたちが保証人になった。「お客さんみんながお店を作るような感覚。こういうのは中央線独特だな、と思います」

 本好きが集まり、作家や詩人によるトークイベントや読書会も頻繁に行われる。壁面に雑然と並ぶ本は、半分近くが客の寄贈。知らぬ間に本が増えたり減ったりしているが、ナカムラさんは気に留める風でもない。客が自然に交流し、断食カフェや暗闇読書会、自分の内面を赤の他人に語る会といったユニークなイベントもゲリラ的に生まれていった。

「お客さんやお店がどんどん進化していくので、逆にびっくりさせられることばかり」

 かつて身を置いていたテレビの現場では、不特定多数の視聴者に向けて放送するため、本当に面白いと思った部分をカットせざるを得ないことも少なくなかった。

「自分の本当の気持ちを伝えきれていない、という葛藤が常にありました。こういう小さな空間ならフィルターをかけず、ライブ的に何かを生み出し、ダイレクトに発信できる。ここにいると、ソーシャルな時代が来ていることを実感します」

 ナカムラさんは、中央線の線路脇にあるこの店を、中央線を川に見立て、そのほとりに建つ「都市型茶室」と称する。狭くて、時空が歪んだかのような不思議な空間はまさに現代の茶室であり、小宇宙のような広がりを持っている。

(次回は12月4日に掲載する予定です)

■オススメの3冊

一日一菓』(新潮社)
1年365日、菓子と器をかえて解説をつけた茶人の人気ブログの書籍化。「お店でも縄文土器を器に使ったりしているのですが、“見立て”に関心があります。この本は、茶人の精神世界を学ぶのにすごくいい」

雪の国の白雪姫』(PARCO出版)
店と深いつながりがあり、朗読会も開催する谷川俊太郎さんの詩と、モデルの小松菜奈さんを撮った写真が織りなす写真詩集。「たまたま雪が降り、そこにモデルがいたので撮影に行き、さらに谷川さんの詩が加わり……と、偶然が重なって生まれたものの輝きが素晴らしい」

全国のR不動産 面白くローカルに住むためのガイド』(学芸出版社)
東京でスタートしたR不動産。各地方での移住者の働き方や暮らし方などR不動産のディレクターが語る、地方暮らしのA to Z。「“不動産は人の人生を狂わせる”と思うんですけど、僕もこの物件があったから中央線沿線に引っ越してきた。いろんな可能性があるし、想像力をかき立てられます」

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    ◇

6次元
杉並区上荻1-10-3 2F
03-3393-3539
http://www.6jigen.com

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