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<37>毎年カップルが生まれる「出会い系書店」

  • 文 吉川明子 写真 山本倫子
  • 2016年3月17日

 マンハッタンの街角にある小さな書店。ふとしたきっかけで男女が言葉を交わし、そこから恋が芽生える――。

 「そんなことは映画の中の出来事であって、現実にはありえない!」と思うかもしれない。でも、そう切り捨てる前に、そもそも、なぜ日本では、書店で客同士や店員が気軽に言葉を交わさないのか不思議に思わないだろうか?

 「僕は意図的にお客さんに声をかけるようにしてます」

 そう話すのは、東京・駒沢公園にほど近い雑居ビルの2階にある「SNOW SHOVELING」のオーナー・中村秀一さん(39)。“出会い系書店”を標榜している。

 出会いといっても、人と人には限らない。中村さんは、著者がさまざまな思いを込めて綴った本は、著者本人といっても過言ではないと考えている。本との巡り合わせもまた、“出会い”なのだと。

 2012年にこの店をオープンする前、フリーランスでデザインやプランニングなどの仕事に携わっていた中村さん。その傍ら、海外旅行先で街の書店をめぐるのが大好きだった。中でも足繁く通ったのはニューヨーク。

「街の個性に合わせた本屋があって、それぞれが地域になじみ、機能していたんです。しかも人種のるつぼと言われるニューヨークだけあって、本屋のカオスさも面白かった」

 常連が店を訪れ、店員や客同士で日常会話を交わしたり、本を買ってセントラルパークで読書にふける姿はとても魅力的に見えた。

 「日本だと店員さんが雑談したら変な人と思われることもありますよね? 逆にお客さんが耳にイヤホンを差して店に入ってくることもありますが、あれって店に対して失礼だと思うんです。それが当たり前になってる事に対して疑問を持つべきだし、僕は小さな反骨心を持って、『それはおかしいと思う』と言いたいんです。海外から帰ってきて不思議に思うのは、日本は自販機やコンビニ、食券制のお店などがあるので、一日中黙っていても買い物も食事もできちゃう恐ろしい国だということです」

 そんな中村さんが駒沢公園の近くに作った店は、まさに海外の書店のよう。店の奥にはテーブルを取り囲むようにソファがあり、客は向かい合って自由に時間を過ごす。中村さんが客同士を紹介することもあれば、客たちが自然に話しだすこともある。

 「他人同士が話しちゃいけないんでしょうか? 僕は話すきっかけを作ってるし、下心だってあっていいんです! 僕はこの店で誰かの『他人と話してもいい』という成功体験を作れたらいいなと思っています」

 店の片隅にコーヒーサーバーがあり、勝手に(寄付制で)飲むことができる。これは中村さんがかつて、オランダ・アムステルダムの書店で感傷的な気持ちに浸っていた時、かわいい女性店員が「コーヒーでも飲んだら?」と声をかけてくれ、寂しさの隙間に温かなものが流れ込んで来た時の思い出がきっかけとなっている。コーヒーもまた、誰かとの会話の弾みや、温もりのバトンタッチになるのかもしれない。

 店では毎年、客に声をかけてクリスマスパーティーを開いている。

「驚くことに、毎年必ず誰かと誰かが結婚してるんですよ!」

 ニューヨークの小さな書店でのワンシーンは、映画の中だけではなく、ここにもあった。

■おすすめの3冊

『人生に、寅さんを。 ~『男はつらいよ』名言集~』(キネマ旬報社)
映画『男はつらいよ』の寅さん名言集。「僕は寅さんはもっと評価されてもいいんじゃないかと思ってるんです。人と人とのつながりや、コミュニケーションの取り方がわかる一冊です」

『NEW YORK COFFEE SHOP JOURNAL』(中村秀一、的野裕子)
ニューヨークに点在する個性的なコーヒーショップの数々を紹介したZINE[jf1](自主制作の小冊子)。「ニューヨーク在住ライターと僕の共著です。今のニューヨークのコーヒーシーンを足で取材したガイドブック。ニューヨークは家賃が高いので個人経営は大変。店には工夫が必要で、そんな面白さが垣間見えます」

『ウォーク・ドント・ラン』(村上龍、村上春樹)
1981年に刊行された、村上龍と村上春樹の対談集。「お二人が若い頃の対談集で、再販NGになっているものです。村上春樹さんはまだ新進作家で、今と違っていろんなことをしゃべりすぎていて面白いんです!」

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SNOW SHOVELING BOOKS & GALLERY
東京都世田谷区深沢4-35-7
http://snow-shoveling.jp/

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