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<57>漫画喫茶とはひと味違う開放感

  • 文 吉川明子 写真 石野明子
  • 2017年1月19日

 「あの漫画が読みたい!」と急に思い立った時、どうするべきか? 「全巻を大人買いする」「漫画喫茶に行く」「レンタルコミックを利用する」など、いろいろな選択肢がある。

 でも、自然光が降り注ぐ開放的な空間で、座り心地のいい椅子に身を任せ、昼間からお酒を片手に好きな漫画を心ゆくまで読めたとしたら、すてきだとは思わないだろうか?

 JR荻窪駅から徒歩7分の「CAFE and BAR POCO」でなら、そんな時間を満喫できる。

 オーナーの石田良信さん(32)がこの店をオープンしたのは2015年12月のこと。漫画喫茶の店長として働きながら店舗運営を学び、30歳になったら自分の店を持ちたいと考えていた。

 同僚を誘って二人で独立。都内のあちこちで物件を探している時に、窓が大きくて明るいこの場所を見て即決した。

 「お酒を飲みながら漫画を読むのが大好き。僕が街のカフェで仕事をしている時に電源やWi-Fiがあると便利だな、とも思っていたので、あればいいものを全て詰め込んでみました」

 たとえ回転率が悪くなったとしても、居心地の良さが最優先。椅子やソファにこだわり、飲み物だけでなく食べ物のメニューも充実させた。肉料理もスイーツもおつまみもなんでも揃(そろ)っている。

 店内の漫画は約2000冊。もともと漫画が大好きな石田さんの私物をはじめ、詳しい人に勧めてもらった少女漫画など、バランスのよいセレクトだ。数カ月見て動きがない漫画があれば入れ替えたりもしている。

 「漫画喫茶みたいに何万冊も揃えることはできませんが、幅広い世代の方に読んでもらえるようにしています」

 週末には家族連れが訪れ、子どもたちが『ドラえもん』を読む姿も見られるという。

 店をオープンして改めて感じたのは、「みんな、こんなに漫画を読むんだ!」ということ。ふと気がつくと店内の客が全員真剣に漫画を読んでいて、静寂が店を支配していることも珍しくはない。

 「『お店でしゃべっていても大丈夫ですか?』とお客さんに聞かれたこともあります(笑)」

 もちろん、店内で友人と会話を楽しんだり、パソコンに向かって仕事をしたり、学生が勉強をしたりと、思い思いに過ごして大丈夫。午前11時から翌朝4時まで営業しているので、昼と夜では店の雰囲気も客層もがらりと変わり、深夜勤務を終えた人や、飲み会帰りの人などのオアシスとなっている。

 漫画喫茶では、客は店にコミュニケーションではなく、自分の世界に浸れる空間を求めて来店する。そのため、石田さんは漫画喫茶の店長だった時との大きな違いを感じている。それは「お客さんとしゃべれる」ということだ。

 「漫画喫茶はお客さんとの壁がめちゃくちゃ厚いですから。漫画喫茶には個室がありますが、働きながらその必要性があるのか疑問だったんです。ここなら広々とした空間で読めるし、しゃべりたければしゃべってもいい。その距離感がとても心地よかった。

 同店では不定期で「POCO飲み」を開催している。はじめは閉店後の店内で、スタッフ同士で飲んでいたのだが、ある時常連客に「来ます?」と声をかけたのがきっかけ。試しに店内に貼り紙をして告知してみたら、他の客も参加するようになった。

 「僕やスタッフもなかなかしゃべるきっかけがなかったお客さんと交流できるようになって、毎回楽しんでいます」

 店名の「POCO」は、イタリア語で「少しずつ」「ゆっくり」を意味する「poco a poco」からというのが表向きの理由だが、もう一つある。

 「店などの空間を“ハコもの”って言いますよね。はじめは箱のイメージで店名を考えていて、“パコ”もいいかなと思ったのですが、poco a pocoという言葉を知って、この名前にしたんです」

 たくさんの漫画とおいしい食べ物、落ち着きのある空間に、フレンドリーなスタッフ。この“ハコ”には幸せが満ちている。

■おすすめの3冊

『宮崎駿の雑感ノート』(著/宮崎駿)

スタジオジブリの宮崎駿監督によるイラストエッセーとマンガ。『泥まみれの虎―宮崎駿の妄想ノート』と合わせておすすめ。「誰にもまねできないジブリの世界観がすごく好きで、店内にもジブリグッズや関連書籍がたくさんあります。実はこれ、お客さんがくださった本で、店内に置いて読んでもらっているんです」

『キングダム』(著/原泰久)

中国の春秋戦国時代を舞台に、大将軍を目指す少年・信と後の始皇帝となる秦国の王・政を中心に、戦乱の世を描く人気漫画。「うちの店でもダントツで読まれています。面白いとしか言いようがない! 登場人物にいろんな人生を感じ、すごく勉強にもなるんです」

『ピアノの森』(著/一色まこと)

森に捨てられたピアノをオモチャがわりにして育った少年・一ノ瀬海は、事故によってピアニスト生命を断たれた小学校の音楽教師などの出会いを経て、ピアノに魅せられていく物語。「この漫画の持つ世界観が大好きなんです。最後は泣きながら感動できます。少しアニメ化されたのですが、この世界観は漫画ならではのものだと思うんです」

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CAFE and BAR POCO
東京都杉並区天沼3-12-1
https://poco-home.jimdo.com/

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