MUSIC TALK

「おおかみこども」の音楽が生まれるまで模索10年 高木正勝(前編)

  • 2017年4月14日

撮影/山田秀隆
協力/daylight kitchen

  • 撮影/山田秀隆
    協力/daylight kitchen

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  • 2017年3月に同時リリースされたニューアルバム「山咲み」と「YMENE」

 CM楽曲、「おおかみこどもの雨と雪」や「バケモノの子」などの映画音楽、多くのアーティストとのコラボレーション――。ジャンルにとらわれることなく、独自の美しい世界を音と映像で紡ぐ高木正勝さん。今振り返る、ピアノとの出あい、映像に魅(み)せられた青春時代、創作スタイルを模索した日々。(文・中津海麻子)

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ピアノの先生が面白い人だった

――幼いころの音楽の思い出は?

 幼稚園では、結構本格的な楽器もあって、みんなで鼓笛隊みたいなことをしていました。そんな中、僕が担当したのは、棒を伸ばしたり縮めたりしてピューとかヒュロ~とかいう音が出る笛。「ミッキーマウス・マーチ」で、「ミッキーミッキーマウス、ピュ~!」みたいな(笑)。決められた音が出せなくて、効果音役ぐらいしかできなかったんやと思います。

 幼稚園の終わりぐらいからファミコンがはやり始め、僕も夢中になりました。ゲームの中の音が好きで、特に「MOTHER」というソフトで流れる音楽に感動して。耳コピをして、妹のピアノでその音を探すと、同じメロディーが弾けた。ファミコンの中の音もテレビから流れてくる音もピアノで弾けるとわかったら楽しくなり、勝手に演奏して遊ぶようになりました。それを見た親から「ピアノやってみたら?」と勧められ、中学に入ってからクラシックピアノを習い始めたのです。

――レッスンはいかがでしたか?

 先生がすごくおもしろい人でした。弾き方だけでなく、「バッハの楽譜は今のピアノで弾くとこういう音になるけれど、当時はこういう音だった」といった具合に、曲が作られた時代や楽器のことも教えてくれた。それに、僕が弾いている横ですぐに歌い出すんです。指導するというより歌で攻めてくる(笑)。先生は隠れているメロディーも歌うので、「ああ、確かにそっちの目立っていない旋律があるから美しいと感じるのか」と気づくこともあり、それは今も役立っていると感じます。

 当時初心者が必ずと言っていいほどレッスンした「バイエル」はやらなかった。それもよかったんだと思います。多分飽きちゃって続かなかったはず。同じ音型を繰り返す「ハノン」が好きだった。筋トレみたいな感覚でこなしていくと、だんだん指が動くようになるのが楽しかったんです。映画「ピアノ・レッスン」の劇中に流れるマイケル・ナイマンの曲が好きでよく弾いていたのですが、早い音の粒がいっぱいあって、運動するような気持ち良さがありました。一方で、ベートーベンを弾くときは重々しいオーケストラのような音を出さなければいけないので、粒立ちを抑えるために、「わざと指をベタッとさせて弾いてみるといいよ」と教えてくれて。体の使い方で音が変わると実感できたことも、僕にはすごく合っていたんだと思います。

――高校生になると写真を撮り始めます。きっかけは?

 ヒロミックスさんや蜷川実花さんといった若くて才能ある写真家が次々に出てきて、オシャレな子がカメラを持つなど、写真がはやっていたんです。僕も付き合っていた女の子がカメラが好きだったので、一緒に撮るようになりました。高校時代は曲も作っていたんだけど、うまく仕上がらなかった。サビや出だしといった部品は作れるけど、1曲は作れない。それに対して写真は、撮って現像したら完成という強さがある。それがいいなぁ、と。

 でも、当時はフィルムだったから何枚も現像するのは大変でした。僕がほしいのは「ある一瞬」を切り取った絵で、画質はどうでもいい。ならば、ビデオカメラで撮ってその瞬間だけをコマとして切り出せばいいやと、映像を撮るように。大学生になると、音楽をやっている友達の楽曲に映像をつけて、ミュージックビデオみたいなものを作り始めました。

――進学したのは外国語大学。写真や映像をやりたいという気持ちはなかったのですか?

 ありましたね。大学はあまり深く考えず推薦で決まってしまったので、美大に編入しようと何度か見学に行きました。でも、美大に行ったところで、画像処理を学ぶにはコンピューターの順番待ちをしなきゃいけなし、授業料も払わなきゃいけないし、そのためにはバイトしなきゃいけないし……。だったら、そのお金で自分でパソコンを買い、自分でやればいいやん、と。それまで100万円ぐらいしていたパソコンが、iMacが出てきて20万円前後で手に入るようになり、インターネットが一気に普及した。ちょうどそんな時期でもありました。

――自前のPCで作品作りを始めた?

 はい。大学の先輩のAOKI takamasaくんにカセットテープに音楽を入れてもらったり、路上やギャラリーなどでイラストや写真を発表していた人たちに声をかけて作品を提供してもらったりして、それらを僕がまとめてポストカードサイズのメディアに仕上げ、雑貨屋や洋服屋などに置いてもらいました。今だとウェブでできることですが、当時は発表の場を自分で作るしかなかった。自分でCDレーベルを立ち上げる人とか、ものづくりの「隙間」みたいなものが許されていた。そんな時代でした。

クラブシーンでの注目に違和感

 そのメディアが大阪のFM局が主催するストリート・アートショーで選ばれました。若かったので「これで食べていける」と勘違いして(笑)。本格的に仕事にしようと、親元を離れAOKIくんやほかの仲間と一緒に暮らし始めました。現実は厳しくて仕事にはならなかったのですが、それから2年ぐらいじっくりかけてAOKIくんは音楽を、僕は映像を作り、「SILICOM」というユニットで活動しました。それが東京のクラブシーンから注目され、呼ばれてVJをやることも。AOKIくんはあのクラブの感じが好きだったみたいだけど、正直僕にはさっぱりわからなかった。たばこ臭いし、眠いし、いつも「早く帰りたいなぁ」って(笑)。

 そんな違和感を感じている中、現代アートに出会いました。京都近代美術館で開催されたスイス人女性アーティスト、ピピロッティ・リストの展覧会では、カラフルな映像を壁に大きく映して、そこに音楽が流れていた。その世界観や見せ方は、まさに僕がやりたいと思っていたことでした。「これやん、これでいいやん!」と。

 そういう流れもあってAOKIくんに「ユニットやめたい」と伝えました。2年かけてようやく世に認められ、CDもDVDも出してこれからというときだったのに「なんで今?」となりましたが、結局、一緒にやるのは無理やな、とそれぞれソロ活動することになりました。彼はいまサカナクションなどの音を作ったり、クラブミュージックの最前線で活躍しています。いまだに僕に「クラブシーンの人」という印象を持っている人がいて驚きますが、やっていたのはおそらくわずか半年ぐらいのことだったんです。

ピアノを弾く楽しさに戻りたくなって

――2001年にアメリカのレーベルからソロとしてデビュー。02年に国内初リリースの「JOURNAL FOR PEOPLE」では電子音への傾倒が見られました。

 今でもあるんですが、ピアノを触って音を出すのが「いやだな」という日があるんです。湿度など条件がそろわないと自分の好きな音が出なかったり。あと、シとドの間にある、微妙な音を出したいのに出せないとか。そういうときに、コンピューターで音を変化させてわざとあやふやな音にしてみたら面白かった。まっさらなジーンズをはくのがいや、みたいな感じですかね。やってみると、予測しない音になったり、メロディーが勝手に変わったり。そういうカチッと固定されていないものをまず作って、それらを部品のように組み合わせて楽曲にするのがやりやすかった。そういう時期でした。

 でも、色々試していくうちに、あれ、これって選んで組み合わせてるだけだなと思い始めて。おもしろくない。楽器を、ピアノを弾く楽しさを知っていたから、僕はそっちに戻りたい。そう思ったのです。

――創作の形を模索していた?

 うーん……。そのときどきは多分楽しくやってたんだけど、周りが見ているほど楽しくなかったというか。とにかくどんどん作って、どんどん終わらせていました。曲は1日、映像でも2、3日で作るのが当たり前で、今で言うSNS感覚。だから執着がなく、気楽といえば気楽だった。でも一方で、このままこの人生が続くのは嫌だな、とも。

 思い返せば、10年ぐらいそんな感じでした。長かったですね。はたから見たら普通に作品を作って普通に仕事できているように見えていたかもしれないけど、僕自身はなんだかよくわからないままだった。

後編へと続く

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高木正勝(たかぎ まさかつ)

音楽家、映像作家。1979年生まれ、京都出身。ピアノを用いた音楽と、世界を旅しながら撮影した“動く絵画”のような映像を手がける。美術館での展覧会や世界各地でのコンサートなど、分野が限定されない多様な活動を展開。『おおかみこどもの雨と雪』やスタジオジブリを描いた『夢と狂気の王国』の映画音楽をはじめ、コラボレーションも多数。2013年から兵庫の山深い谷間に暮らしている。
2010年のソロコンサートの音源から選曲した「YMENE」と、2015年に8人のミュージシャンが結集したコンサートを収録したアルバム「山咲み」を、2017年3月、同時にリリースした。
www.takagimasakatsu.com

【ライブ情報】
■高木正勝ピアノソロコンサート”イメネ”
アルバム”イメネ”発売記念。一夜限りの再演。
9月1日(金)東京・めぐろパーシモンホール 大ホール

■東急プラザ銀座×Bunkamura SPECIAL PROGRAM〈春〉
高木正勝ピアノソロライブ
5月14日(日)東京・東急プラザ銀座 6階 KIRIKO LOUNGE 数寄屋橋茶房

■頂 - ITADAKI 2017
6月4日(日)静岡・吉田公園特設ステージ

■京都岡崎音楽祭 2017 OKAZAKI LOOPS-SYMPHONIC EVOLUTION SPECIAL - 高木正勝 オーケストラ コンサート with 広上淳一 × 京都市交響楽団
6月10日(土)京都・ロームシアター京都 メインホール

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