#明日何着よう

服に言葉に、巡りゆく「春」

  • 文・朝吹真理子
  • 2017年6月23日

今春夏のmameの服

 一昨年から「TIMELESS(タイムレス)」という小説の連載をしている。毎月終わりのわからない書きかけの手紙を読者である「あなた」に差し出しているような気持ちになる。

 mame(マメ)というファッションブランドのデザイナーをしている黒河内真衣子さんが「TIMELESS」の連載をずっと読んでくれている。彼女と友人になる以前から私はmameの服が好きだった。フォルムは女性性を強調するようなラインなのに、日本の伝統的な技法をファッションに取り入れているところがおもしろい。山形の「ばんどり」というかつて嫁入り道具を運んだ背負子として用いられていた編み方をヒントにしたニットを編んだりする。

 私は黒河内さんのことを「まめちゃん」と呼んでいる。彼女は、いつもBYREDO(バレード)のバニラの香りを纏(まと)っていて、艶(つや)のある黒髪ボブのラインを決して崩さない。いっしょに旅行をしたとき二人で大風邪をひいたことがあったが、まめちゃんは高熱でもゴールドの指輪をいくつもはめ、髪もぴしっと整え、胸のあいたドレスを着ていた。その美意識におののいた。

 mameの2017年の春夏コレクションのインスピレーションに「TIMELESS」を読んだ時間も入っていると教えてもらったとき、「あなた」からの返事が、袖を通すことのできる服として、おもいもよらないかたちで届いたことに驚いた。コレクションは美しい色で溢(あふ)れていた。春の光と、下土の湿った暗さも同時に感じる。明るいばかりではなくどこか物憂い。目をつむって思い出すときの春の景色がそのまま刺繍(ししゅう)や織りで表現されていた。想像は連鎖するから、mameのコレクションをみた時間が、「TIMELESS」に新しいイメージをもたらしている。

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 ◇作家の朝吹真理子さんのエッセーを、朝日新聞東京版夕刊紙面にて、毎月第3木曜日に掲載します。タイトルにある#は、SNSで拡散や検索の際に使うハッシュタグです。

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PROFILE

朝吹真理子(あさぶき・まりこ)

1984年、東京生まれ。 2009年、「流跡」でデビュー。2010年、同作でドゥマゴ文学賞を最年少受賞。2011年、「きことわ」で芥川賞 を受賞した。

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