芸術がやってきた!

芸術家と一緒に、自宅をつくった話【前編】

  • 文 木原進、写真 中川周
  • 2017年9月28日

お母さんが感動したタイル作品。東京都現代美術館での展示風景(撮影:木奧惠三)

 第2回は、芸術家に自宅のデザイン設計を依頼した臼田さん親子のお話です。

 息子の香太さんはデザイン会社を営みながら、民芸玩具店ブータン料理専門店を経営しています。お母さんは昔、学校職員をしていて、現在は息子のデザイン会社で経理事務をしています。そして設計を依頼した芸術家は、私が20年来サポートしている造形作家の岡崎乾二郎です。岡崎は、絵画、彫刻、デザイン、絵本、教育、批評など、芸術文化に関わるあらゆる仕事をしています。現代において、これほど多岐にわたる仕事をこなしながら、第一線で活躍し続けている作家はまれですが、ブルネレスキやミケランジェロなど、ルネサンス時代の芸術家はみな多種多様な仕事をしており、もちろん建築もつくっていたのでした。

美術作品とともに暮らしたい

 さて、お母さんが芸術家に建築を依頼するきっかけは何だったのでしょうか。

お母さんはちょうど長年勤めた学校を退職し、実家の事情もあり、新しい生活をスタートさせたいと考えていたところでした。もともと香太さんが岡崎の絵画を持っていて、事務所の壁にかけられた作品をいつも見ていたのですが、2009〜10年に東京都現代美術館で開催された個展に出品されたある作品を見て、建築をお願いしたいと思ったそうです。それは、30cm角の手描きタイルが144枚で構成された作品でした。

 次の日、あんなタイルが敷かれた家はすてきだろうと息子に話したところ、息子「家、頼めるよ」、母「え!この人に頼めるの?」と、予想外の展開に驚きながら、芸術家に自宅を依頼するという大プロジェクトが進みはじめたのでした。

 お母さんは、なぜタイル作品を素晴らしいと感じ、普通の建売住宅ではなく、美術作品とともに暮らす家をつくることを望んだのでしょうか。

 まずは、当たり前なのですが、「芸術に興味を持っていた」ことがあげられます。お母さんは幼いときに数寄屋造りの日本家屋に住み、大家さんが集めた掛け軸や器、鑑賞のための石などに囲まれて生活していました。この頃から芸術に関心を持ちはじめていたようです。岡崎の作品を知ってからは、ますます美術館へ通うようになりました。彼女は自分のまわりに芸術に関心のある人や、何かを見たときに、「わからないけれど、いいなあと思う気持ち」を持っている人が少ないことを残念がっていました。

 そしてもうひとつ、誰しもが思う「日々の生活を豊かに、より良くしていこう」という感覚に由来していると思われます。お母さんは若い頃から裁縫が好きでした。幼い息子が使っていたバッグは、おしゃれな生地屋さんで材料を手に入れ、展示されているすてきなものを見つけると、縫い方をすっかりおぼえて自分でつくっていたそうです。

タイルのキッチン。壁のタイルも特注で作家がデザインした

 また料理や食事の時間もずっと大切にしています。家の真ん中に配置されたゆったりしたキッチンは、絵本に出てくるお菓子でできた家のように魅力的で、使い勝手のいい業務用のシンクとガス台が設置されており、小柄なお母さんにとても似合っています。写真を見ていただければ、そのこだわりが伝わると思います。彼女は、息子のデザイン会社でスタッフのためにお昼ごはんをつくっていて、事務所のInstagramに、あたたかな食卓がアップされているのでぜひご覧ください。見ているだけでおなかがすきます。こんな社食を毎日食べられるとは、スタッフのみなさんが大変うらやましいです。

 お母さんが住まいのデザインを芸術家に依頼したことの根底には、「衣」と「食」に対する意識と、芸術に対する強い関心が流れていたのだろうといろいろと考えを巡らせましたが、単刀直入に家を頼もうと決めたときの気持ちをお母さんに聞いたら「理由なんてシンプルでいいじゃない、タイルがいいと思ったからよ」とからりとした言葉が返ってきたのでした。

>>続きはこちら

※「岡崎」のざきは異体字

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後編はこちら

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